アーサーのために稲妻は光り、オームのために雨はやむ〜映画『アクアマン』二部作への愛とツッコミが止められない10
映画『アクアマン』のクライマックス、兄弟の一騎討ちがもし海中で行われていたら?大好きすぎた前作にもやっぱりツッコミが止められません。というより、この兄弟ラストバトルシーンへの偏愛を語りたいだけかも……。
もしかして天然なオームを見て思うこと
映画『アクアマン/失われた王国』に、生粋の海底人であるオームが地上での走り方をよく知らずまごまごする(そして教わったとたん爆速でお兄ちゃん置いていく)描写がある。それを見た後で前作『アクアマン』を見返したとき、ラストの兄弟一騎討ちのところでちょっと思った、「なに、走り方も知らないのに水の外におびき出されたあげく負けてんだよ!」と。
もちろん前作の段階では「オームは地上での走り方を知らない」という設定はなかっただろう。けれど水の外がオームに不利であることは、バルコやメラのセリフを聞くまでもなく明らかだし、二部作を続けて見ると、せっかく水中にいたのになぜわざわざ出た?と感じてしまうのだ。「あれだけ言ってんのにアーサーの話聞いてないとか、うかうかおびき出されて負けてるとかただの天然かな」とも思うけれど。2人が再び海中で闘っていたらどうなっていたかな?とも。
英雄アーサーのための設定あれやこれや
大好きすぎる前作は、あの独特の疾走感と勢いに圧倒されるがまま、「都合良すぎる展開も細かい不整合も気にならない(気にする気がなくなる)」と思っていた。のだけれど、突っ込みどころ満載の今作の影響で、俄然気にする気が出てきてしまった。
いや、分かってはいるんです。前作『アクアマン』は、アーサーという陸と海の狭間をさすらう旅人が英雄となるまでの物語であり(そして今作で陸と海をつなぐことになる)、さまざまな状況や舞台はそのためにこそ存在していたと。
アトランナは地上に逃げトムと結ばれてアーサーを授かる必要があったし、多少話の流れや時間軸が不自然であっても、海に連れ戻されてオーバックスとの間にオームを産んでから処刑されなくてはならなかった。トムは何事にも動じない人物である必要があったし、オーバックスはクソヤローな上に、アトランナが生還する20年後には都合良く消えていなくてはならなかった。
オームはオーバックスの影響で排他的な自国第一主義者に育った上、えげつない悪事を働いてからアーサーに打ち負かされる必要があったし、メラはアーサーとともに冒険の旅をする中で、彼の資質を認めてさらに恋に落ちなくてはならなかった(オームはその後改心してやはりアーサーとともに旅し、その結果として真の王と認めなくてはならなかった)。
盛りすぎな内容をサクサク見せるため、登場人物に解説役が振られることも多々あり、たとえばネレウスは不必要なタイミングでアーサーのことを持ち出して、オームとの関係を説明するとともにオームのアーサー評を引き出さなくてはならなかった。
つまりは「そこ突っ込んでもしょうがない」点だらけなのだけれど、やっぱり偏愛のほとばしるまま、半ばゲーム感覚のツッコミが止められない次第です。
アーサーの勝利は必然、それでも問いたい
前置きが長くなったが、前作クライマックスとなる2度目にしてラストの兄弟対決。初回は海中のコロシアムで、バルコが指摘した通り地上とは勝手が違ってアーサーはオームに完敗している。さて今回はといえば、アーサーはカラゼンとの対話で腹を括り、アトランのトライデントも手に入れた状態でオームに挑もうとする。しかし不安が拭いきれない。そんなアーサーにメラは言う。今度は水中でなく、自分の力が発揮できる水の外でオームに闘いを仕掛けろと。アーサーはそのアドバイス通りオームを海面上に誘い出し、見事に勝利する。当然の結末だ。
しかしツッコミ脳はこう問いたい、オーム、なぜ誘導されるまま諾々と海の外に向かったのだ?騎獣のティロサウルス君にわざわざアーサーを運ばせて。そんなに自らの正統性と血筋に自信があったのか?海の中で迎え撃っていれば、万に一つのチャンスもあったのでは?まさか地上は自分にとって不利という認識なかった?走り方知らないのに?そこまで天然?
もし、兄弟が2度目も海中で闘っていたら?
もしオームが海から上がらず、このときも海中で闘っていたらどうなっていたか。もちろんそれでもアーサーが負けることはなかっただろう。負けたら映画が成り立たないとか身もふたもない話は置いておいても。
オームやネレウスの反応を見ると、伝説のアトラン王のトライデントを持っていても、必ずしも全海底人が即座に従うわけではないと分かる(闘いで勝ったら従うみたいだけど)。オームのセリフ「そのトライデントを持っても、お前自身は変わらないぞ」が、すごく真っ当すぎて笑う。その通りだ。
けれどアーサーはカラゼンと対話して自らの心の深淵をのぞき、試練をくぐり抜けたことで既に変化を遂げていた。陸では疎まれ海では蔑まれ、自らの居場所を見いだせずにいたアーサーが、「故郷と愛する人々を守る」と決意してアトランのトライデントを引き抜いたとき、海中であろうが地上であろうが、オームに負ける理由はもうなかった。
1ついえるのは、このとき海中で闘っていたら、アーサーのために稲妻が光ることも、オームのために雨がやむことも、アトランナのために陽の光があふれることもなかったということだ。
嵐とプロペラを背景に、地上での兄弟一騎討ち
そう、これも分かってはいるんです。「アーサーが負けたら映画が成り立たない」と同じくらい身もふたもない話だけれど、兄弟対決で前回が水中戦だったので次は地上戦をするしかないと。だからメラはアーサーにアドバイスし、オームは海から上がった。
そしてこの地上での兄弟一騎討ち、細かいところがすごく凝っていて見入ってしまう(以前も使わせてもらったDC公式動画を置いておきます)。
兄弟は跳躍したオームの騎獣から、戦艦の上面(らしきところ)に飛び降りる。高さ数メートルのプロペラが3基並んで回っている。これが舞台を決めていて、常にプロペラ側に見せ場が来るように闘いは進む。海上では雨も風も強く、ときおり稲妻が暗い空を裂く。プロペラの向こうにわずかな雲の切れ目があり、陽の光がいくすじか差し込んでいる。
まずオームがプロペラ側に(スローモーションで)着地する。2人は舞台を半周するようにプロペラを奥にして左右に展開し、アーサーが見得を切って闘いは始まる。兄弟はトライデントで激しく打ち合う。アーサーがプロペラ側に蹴飛ばされ、次いでオームがプロペラに押し付けられ(この辺りから彼の劣勢が明らかになる)、位置を入れ替えつつ2人は闘う。
アーサーのために稲妻が光る
オームがプロペラの逆側に投げ飛ばされ、アーサーをプロペラ側に弾き返すと2人はしばし向き合い、見せ場であるプロペラ側のアーサーがバルコ直伝の技を出す(トライデントを高速回転させて水の壁を作り攻撃)。オームは(驚いたのか体が開いてしまい、気を取り直して)打ちかかるが2度倒される。
最後、空一面に稲妻が走り、アーサーはそれを背負うようにオームを飛び越えつつ、逆さまの体勢でオームのトライデントを粉砕*し、勝敗は決する。
ここ、オームがトライデントを打ち砕かれるときに天地逆転するのがなぜかほんと好き。前作ではやたらと理由なく画面が回転するが(海賊退治シーンとかメラが自国軍の兵を蹴落としてネレウスを探すシーンとか。好き)、ここでは逆さまになったアーサー視点でそうなっている。
オームのために雨がやみ、アトランナのために陽の光があふれる
アーサーがオームを飛び越えてまた位置が入れ替わったため、今度はオームがプロペラ側の見せ場に来ている。茫然と膝を付いていたオームはトライデントの残骸を手放し、アーサーのトライデントをその身に受けようとする。一度オームに突きつけたトライデントをアーサーは引き戻す。
オームが再度自分を殺すよう迫ったとき、雨はやむ。辺りは少し明るくなる。兜をむしり取って頭部をあらわにし、オームはなおもアーサーに迫るが、あふれる陽の光とともに2人の母アトランナが姿を現し、最後の兄弟対決とこの物語を終息に導く。
嵐と稲妻と陽光、プロペラ付き舞台装置で凝りまくった、こんな見応えのある戦闘シーンなら、なるほどこのために兄弟を海から出したんだね、って思える。かもしれない。こういうのがケレン味と呼ばれるものなのかな?映画っておもしろいですね……。
前作で好きなシーン3つを記録したい
結局、単なる兄弟ラストバトルシーンへの偏愛語りになってしまった!こうなったらついでに前作で好きなシーン3つについても記録しておきたい。
1つ目は上記、兄弟対決でトライデントもろともベキベキに粉砕され(比喩)、アーサービューで天地逆転してくずおれるオームのショット。稲妻バチバチスローモーション多用の派手な演出、ビジュアルの美しさ、そこにばっちりハマる芝居っ気たっぷりのオームのキャラ、アーサー勝利のカタルシスなどなどのあらゆる要素が、祝祭感あふれるトランペットに彩られたこの逆さまの画面に凝縮されている(と思う)。
そして完膚無きまでにへし折られたのにみじめさ痛ましさのカケラもない、オームの堂々たる負けっぷりは見事。この後アトランナが現れると、一気にヘニョヘニョに崩壊してしまうんだけどね。
2つ目はマンタのアーマー改造シーン。あ、君が主役だったっけ?その1。アーサーへの復讐に燃えるマンタが、オームから与えられたアトランティス兵用の試作アーマーを自分仕様に改造するところ(正確にはこれを身に着けて初めてブラックマンタと名乗るようになる)。
造りは簡素ながら最新設備そろってる感じの、その研究室っぽい部屋はなに?とかどんだけ能力高いんだ?とかは置くとして、くわえてるドライバーをぴっと吹き捨てて首の一振りでバイザー下ろし、溶接始める一連の動作良すぎるし、CAD風それっぽい画面のタブレットのキーボード叩く手つきから、研究室内が照明や細かいツール含めて黒ベースに赤アクセントのマンタカラーで統一されているところ、完成したヘルメットからビーム出しちゃってあわててよけるオチまで含め、カッコいいしかない。
挿入曲もハマりすぎでめっちゃいいし、直前のマンタの動機の変奏からのつながりもすごく良い。
最後はシチリアでのバトルの、メラのシーン全て。そのマンタと、彼が率いるオームの精鋭兵たちの攻撃を受けたアーサーとメラが、それぞれ闘って返り討ちにするところ。ここのメラの登場シーンがどれも全部好き。
特に、丸腰で兵たちに囲まれ剣を突きつけられた状態で不敵にニヤッとするところと(直後に剣を奪って反撃開始する)、最後に残った2人の兵と対峙→ためていた力を解放してワイン瓶割って中身操って攻撃、の流れがカッコ良すぎ&華麗すぎて大好き。周囲をぐるぐるしたり激しく引いたり寄ったりするカメラも好き。ここでは回転はしないけど。
あっ、主役がいない?まあアーサーは全編が見せ場みたいなものだから……。
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