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ネレウス、長いものに巻かれに行く男〜映画『アクアマン』二部作への愛とツッコミが止められない9

筋の通った行動がカッコいいシン博士と対照的に、見事なまでに無節操でよく分からない動きをするネレウス。長いものに巻かれているだけかと思いきや、棚上げの名人だったりオームをいびりまくったり……。というわけで、ネレウスについてもツッコミが止められません。

長いものには率先して巻かれに行く男、ネレウス

映画『アクアマン』二部作において、そこそこ主要な登場人物の1人であるネレウス。アトランティスの隣国ゼベルの王にして、アーサーの妻メラの父親。このネレウスに、いろいろ引っかかるものを感じてしまうのだ。その微妙な行動や、目的の不明さに。

前作『アクアマン』ではヴィランであるところのオームの協力者だったが、最後の最後で見事に手の平を返しアーサー側に付いた。続編である今作『アクアマン/失われた王国』ではそんな過去などなかったかのように振る舞い、何かとオームを目の敵にしていびり抜く。そのすがすがしいまでの節操の無さよ……。長いものに巻かれに行く男、ネレウスと呼びたい。

全体としては分かりやすい男、ネレウス

ネレウスの行動は、大まかにはとても分かりやすい。まず前作では、娘婿(予定)であるアトランティス王オームをオーシャンマスターに祭り上げて(自分はほとんど手を汚さずに)何かを企んでいたのだが、予定に反してオームが敗北すると即座に方針転換し、勝者アーサーにすり寄る。

今作ではしっかり現アトランティス王アーサーの岳父におさまっていて、娘が後継者も産んでるし安泰なんだけど、そこに用済みのオームがひょっこり出てきちゃったので、目障りでしょうがない。うん、分かりやすいね……。

都合の悪いことは忘れる男、ネレウス

前作での自分の企みや、オームの戦争行為に全力で肩入れした事実はきれいさっぱり忘れることにしたみたいで、マンタがアトランティスを襲撃し行方をくらました後、アーサーが幽閉中のオームの力を借りて探すと決めると異を唱える。「魚人王国が接触を許さないだろう、オームは彼らの王を殺したのだから」と。

いや、お前が言うなと心の中で突っ込んでしまった。君もそこにいて手を下したよね?王を直接殺してはいないかもしれないけど、兵隊何人も殺してオームを援護したよね?

決心を変えないアーサーにネレウスは、オームに気を許すな、利用はしても決して信用するなと言い募る。

アーサーはほとんど意に介さない。オームを脱獄させて共に手がかりを追い、兄弟とマンタは悪魔の深奥で対決する。闘いでオームは重傷を負うが、とどめを刺されかけたところでネレウス率いるゼベル軍が爆撃を始め、その隙にアーサーが割って入る。

ネレウス、ここだけはなかなか決まっている。あ、君が主役だったっけ?くらいの勢い(前作のマンタのアーマー改造シーン並み)で画面に登場し、戦艦の指令席から命令を下す。

自分のことは棚に上げる男、ネレウス

メラ、アトランナ、ブライン王とともに上陸したネレウスはオームと顔を合わせるが、ここではさらにひどい言いよう。オームはボロボロになりながらも、自分の知り得たマンタと失われた王国ネクラス、その王コーダックスの関係をみんなに伝えようとしているのだけれど、「なぜここにいる?牢獄に戻るはずだろう」とブチギレ状態。アトランナが「話を聞かないと」と取りなしても、「かつて話を聞いたが、それが間違いだった」と、前作での行為は全てオームにだまされてしたことで、自分は悪くないと言わんばかりの態度。

なんとも理不尽な言い草だが、その意図は分からんでもない、ネレウスにしてみれば、闇に葬ったはずの自分の黒歴史が服を着て歩いてる、いや昆布巻いてへたり込んでるようなものだから。ここで率先して徹底的に叩いておかないと自分の身が危ういので。

不思議なのはオームで、「あんたさぁ、あれだけおれに加担しといてよく被害者ぶれるよな」「そうやってデカい顔してられるのはメラのおかげだろーがよ」とは言わず(それくらい言ってもいいと思うのだが)、ただ眉間にシワ寄せて黙っている。

なんかよく分からない動きをするネレウス

で、ネレウスのその前作での行為だけれど、結局何がしたかったのかよく分からないのだ。オームをオーシャンマスター=地球最大の軍の指揮官に立てて地上と戦争をしたがっていたらしいことは、メラとの複数のやりとりからも分かる。ではなぜ最初の会合であれほど(その後あっさり了承するにもかかわらず)渋ってみせたのか?なぜわざわざ地上の兄アーサーのことを持ち出して煽ったのか?強大な国力を笠に着た、自信満々の生意気な若造(前作でのオームはまさかの20代算定)が気に入らなかっただけ?将来の禍根は先につぶさせておきたかったとか?

マンタを買収して自分たちの会合を攻撃させたオームの小芝居には、引っかかったフリをしただけなのか本当に引っかかったのか。それも分からない。

そもそもなぜ戦争をしたがっていたのか?国内に問題でもあって気をそらしたかった?それともオームに領土を拡張させておいて、後から自分(もしくは自分の子や孫)が乗っ取るつもりだったか。あるいは実は最初から何も考えておらず、戦争の意図も企みもなく、ただオームの尻馬に乗って、おいしいところがあれば持っていこうと思っただけなのか。全くもって分からない。

転んでもタダでは起きない男、ネレウス

ともあれ、おそらくネレウスの思惑通りに事は進み、王を殺して魚人王国を従わせ、ブライン王国との戦争が始まった。そこへアトラン王のトライデントを持ったアーサーが登場。彼こそが王だとメラに説得されても、まだオーム体制をあきらめきれない様子のネレウスだったが、オームが一騎討ちで負けた瞬間に寝返り、さっさとアーサー側に付く。

変わり身早すぎ!今の今までオームの協力者だった君が、目の前でオームに父王殺されたフィッシャーマンプリンセスより先に「アーサー王ばんざーい」とか叫んじゃダメだろ

なんにせよ、オームを前面に立てておけば失敗しても全て彼のせいにできると踏んだのだろうし、その点ネレウスはこれ以上ないほどうまくやってのけた。ブライン王国からも魚人王国からも全くお咎めなし、アーサー体制のアトランティスで確固たる地位を築いているのは本当にすごい。

オームをいびりまくるネレウス

今作に話を戻すとネレウス、その地位が揺るぎかねないことの恐怖からかそれともただ気に入らないからか(たぶん両方だろうけど)、オームに度を越してつらく当たる。重傷を負いつつ懸命に得た情報を伝えているところにギャンギャン言うのもそうだし、その傷の手当てについてもたぶんそう(じゃないかな)。

昆布で済まされるオーム

序盤で同じくマンタビーム浴びたメラは手厚く治療してもらえたのに、オームは昆布で済まされるのは犯罪者への冷遇?でも昆布巻いてあげたのはアトランナだしな……とか思っていた。

直後にトムがマンタに刺されたときは、衛生兵が手当てをしたことが分かる(今作でときおり解説要員だった当のオームのセリフから)。衛生兵いたんだ、でもおそらくオームは対応されていない。ゼベル軍の所属と考えるのが順当だろうから、ネレウスが衛生兵出さずに「お前は昆布でも巻いとけ」って決めたのかなーと、ちょっと深読みした。そりゃトムは生身の地上人なので、ちゃんとした治療が必要だけど。オームの傷は見かけほど重くなかったのかもしれないけど(結局昆布ですぐ治ってたし)。

武器をもらえないオーム

そして一同がマンタを追ってネクラスに出撃する際、ネレウスはオームに武器を与えることを拒む(銃を渡さず、嫌がらせのように小さな斧のようなものを差し出す)。ちゃっかりゼベル兵に交じって銃を受け取ろうとしたオームもオームだし、ここは音楽の使い方からしてもギャグ描写なんだろうけど。

オームは黙って斧を受け取り、眉間にシワ寄せてそれを眺める。その辺に転がっている銃を勝手に持っていけばいいだろうとも思うのだけれど、そうはしない。

犯罪者なオームを誰も大っぴらにはかばわず、本人もただ黙ったまま(お兄ちゃんと2人だったときはわりと言いたい放題だったのに)、でも律儀にけなげにみんなのサポートにまわる。

オームに助けられてまた態度を変えるネレウス

けれどもネレウス、ネクラスで巨大モンスターに襲われて食べられそうになり、その小さな斧でオームに救われる*。命拾いしたネレウスはためらいつつもオームに銃を与える**(お付きの兵から取り上げて)。

*ちなみにこのとき、ネレウスが悪魔の深奥を爆撃開始した際の音楽の変奏が現れる(本人たちは気づいていないかもしれないが、結果として命を救い合っていることの表れらしい)
**このときは「オームの善の主題3」(←勝手に命名)が現れる

音楽についてはよろしければこちらも↓

オームはさらに、マンタにブラックトライデントで狙われたメラとジュニアを救う(ついでにマンタに取り憑いていたコーダックスに乗り移られてまあいろいろあったけどなんとか我に返る)。コーダックスはアーサーに倒され、マンタは救いの手を拒絶して地底に消える。ネクラスは崩壊する。脱出の途上でオームはネレウスのトライデントが落ちているのに気づいて回収し、合流後本人に返す

そしてネレウスは意外にあっさりとオームへの悪意を引っ込めるのだ。死んだことにしてオームを逃がそうと考えたアーサーは、そう本人に告げる。メラも賛成する。オームは信じがたいという表情を浮かべていたが、ふとネレウスを見て眉を上げる。ネレウスは表情を和らげてうなずいてみせる。

いやそいつには聞かんでいい、むしろその隣のブライン王に聞けとは思うが、ともかくネレウスもオームを自由の身にすることに反対せず、アーサーとメラとともに笑みすら浮かべて彼を見送る。どうやら自分の地位が危うくなることはなさそうだと思って安心したのか、それとも本当にオームの行為にほだされたのか。

別にあくまでもオームをいびり倒せとはいわないが、最後までころころとよく態度を変える男ではあった。「アーサーの決定に乗っかった」という点ではまた長いものに巻かれたわけで、その意味では一貫性があるといえるのかな?

蛇足:オームの贖罪とフィッシャーマンプリンセス

ネレウス、前作での謎の煽りと手の平返しが意味不明&無節操すぎたので、今作での理不尽すぎるオームいびりにもついつい突っ込みまくってしまった。でも実際のところ今作では、オームの贖罪を描くうえでいびり役が必要で、いびる→助けられる→許すという役割をネレウスが持たされたのだろうなとは思う。

個人的にはオームは、ネレウスの前で贖罪せんでいいからフィッシャーマンプリンセスの前で贖罪しろと思うのだけれど、それには彼女の気の済むまで砂漠の牢獄でボコられ続けないといけないのか……。そもそもそこから逃げちゃったわけだしね。

アーサーがプリンセスに「オームの死の経緯」を何と言って説明するつもりか分からないが、どう考えてもバレそうな気がする。魚人王国でも疫病は発生してしまったので、その原因を取り除くのにオームが貢献したことが、少しでもみんなの救いになるといいのだけれど。

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