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トライデントから3回手を離すオーム〜映画『アクアマン』二部作への愛とツッコミが止められない3

「王になりたくてなったわけじゃないよ」「ウソだろ」という兄弟のやりとりは何の伏線だったのか?という疑問から、憑依された際のオームの行動と、兄弟にとって王とは何かについて考えてみました。まだまだツッコミが止まらない……。


この兄弟、気が合わなすぎ

映画『アクアマン/失われた王国』でアーサーとオームの兄弟は、宿敵マンタの手がかりを求めて世界中を探索する。が、なにしろ前作にて初対面の直後にケンカ別れし、数年ぶりに再会を果たしたばかりなので、関係が良好とはいいがたい。

そもそもこの兄弟、まあ気が合わないことこの上ない。

「よくやった弟、ハイタッチ!」
「否」

「キングフィッシュ(←情報持ってる悪党)ぶっ飛ばす」
「手を出すな!まず情報をしゃべらせる」
(↑でも結局ぶっ飛ばす)

「援軍が欲しい」
「ビールとバーガーが欲しい」
「おえ」
……
「終わったらビールとバーガー食いいこーぜ」
「いらん!」

みたいな感じで常にしょうもないことで軽く争っているのだが、1つ、しょうもなくなさそうなやりとりがある。

夜の沼地にて、オームの混乱

とうとうたどり着いたマンタの本拠地「悪魔の深奥」の沼地にて。メラに怪我を負わせたマンタに怒り心頭、特に作戦もなく殴り込みをかけようとするアーサーをオームは制止する。そこまではいいのだが、また説教モードでいらんこと言うので口論になる。その中でオームは、アーサーが自分に挑み王座を奪ったのは、王座を欲したからではない、そして今も望んで王でいるわけではないと知って混乱する。いや、だからアーサー最初からそう言ってんじゃん!

アーサーは、王の仕事なんて大っ嫌いだ、自分が王でいる理由はただ1つ、アトランティスに地上を破壊させないためで、その心配さえなければ今もオームが王なのに、と言う(彼としては、自分を狙うマンタが海も地上も破壊しかけていることに少なからず責任を感じており、多少自虐的な物言いになっていることは前後のセリフからうかがえる)。

一方オームは、王座を狙ってなどいなかったとアーサーに言われても、すぐには納得がいかない。幼い頃から父王に、いつか地上の兄が王座を奪いに来るぞと言われ続け、戦いに備えさせられてきたから。

その後、言い争った勢いで2人して特に作戦もなく殴り込みをかけ、オームはマンタの部下たちにどつき回されてイライラし、マンタが登場するやアーサーが止めるのも聞かず突っ込んでいってボコられる。さっきと逆。

アーサーは王の責務を嫌っている?

このやりとり、何かの伏線には見えるのだけれど、最初のうちはよく分からなかった(というか今もはっきりとは分からない)。兄弟の関係改善のきっかけになるのかもと考えたけれど、「アーサーは王座を欲していなかったし、望んで王でいるわけではない」という事実で2人が仲良くなれるとも思えなかった。むしろオームは「欲しくもないのにわたしから奪ったのか?!」みたいなこと言ってるし。

ただ、このような解釈はできると思った。「アーサーは王でいたくない、もともと望んでなったわけではない、王の責務を嫌ってすらいる」というオームの認識が、コーダックスに憑依された際の行動につながった、と。

過去に囚われたオーム

物語終盤、ネクラスの王の間で、オームがコーダックスに操られて血の封印を解いた後。アーサーはオームにブラックトライデントを離させようと、自分もそれに手をかける。兄弟はブラックトライデントをつかんでにらみ合う。コーダックスはブラックトライデントを通して2人の心に入り込み、猜疑心を煽っていがみ合わせようとする。

このとき、コーダックスの影響下にはあるものの、オームが自分の言葉を話し出す(それまでは乗っ取られた形でコーダックスの言葉を話していた)。セリフとしては2つ(最初の「No!」を除く)で、それぞれ以下のようなことを言っている。
「今こそ、わたしの運命を取り戻す*
「アトランティスに必要なのは真の王だ*
はっきりとそうは言っていないが、アーサーを廃して自分が王座に復帰する、と宣言しているように受け取れるし、挟み込まれた過去のシーンからしても実際そうなのだろう。

*この2つのセリフ、結局最後には実現する形になっているのがすばらしいです……

コーダックスに心を蝕まれたオームが、「国に人生を捧げた王」であった過去に囚われ、再びアーサーに敵意を向けた。夜の沼地でのやりとりはその伏線の1つであり、「アーサーは望んで王になったわけではなく、その責務を嫌ってすらいる」→「アーサーはアトランティスの王にふさわしくない」→「それなら自分が」となったのかもと考えた。

それまでのオームの言動にあった「アトランティスへの忠誠」「王らしさ」へのある意味異様なこだわり、素直に振る舞っていると見えても国が関わるとなんかずれちゃうのも、単なるギャグやアーサーとのかみ合わなさを出すためではなくここに収束するのかなと。たとえば魚人王国との条約がある(破ったらアトランティスに不利になる)から脱獄はできないと主張するとか(罪を償うためじゃないんだね)、メラのことで怒りまくってるアーサーの気持ちを全く理解せず「個人ではなく王として行動しろ」とお説教しちゃうとか(メラは幼なじみの婚約者だったのにね)。

トライデントから3回手を離したオーム

これら伏線(と裏切るフラグ)の末、再びアーサーと対峙したオームだが、そのアーサーの助けもあって、ついに過去の呪縛から抜け出すことができた*。そしてブラックトライデントから手を離し、コーダックスの支配を脱する。

*ではどのように、どの段階で克服したのか?については、この場面で音楽(ライトモティーフ)が非常に重要な役割を果たしている(と思っている)ことも含め、また記録したいです……
追記:記録しちゃいました

このときのオームはすでに、王座への執着をきっぱりと断ち切っているように思える。ブラックトライデントからの手の離し方にもそのことが表れているのではないだろうか。指がゆるんでアーサーに渡るとかではなく、こう、腕ごと手をぐっと持ち上げて大きく離して*いる。自分の意思を示すように。ブラックトライデントは王座と、兄(アーサー、コーダックスにとってはアトラン)への敵意の象徴だから。2つとも、過去を乗り越えたオームにはもう必要のないものだから。

その後オームは、アーサーのトライデントを拾い上げて本人にパス*し、ネクラス脱出時にはネレウスのトライデントを回収して本人に返す。このアーサー→ネレウスのトライデントから手を離す、の2連続も、同様にオームがもう王座に特別な感情を持っていないことの暗示に思えた(前作では意思に反して父王のトライデントを粉砕されているので、それとの対比の意味もあるかも)。もしかしたらアーサーのトライデントは、コーダックスを倒すのに少しは貢献させてあげるためかもしれないし、ネレウスのトライデントは、オームが自由の身になるのを了承する理由付けのためかもしれないけれどね。

*追記:この2つのシーンで流れる音楽についても記録してみました

まとめ:アーサーにとって王とは?

アーサーがオームに「王の仕事なんて大っ嫌いだ」とまで言ったのは、地上を守るために王になったのに、結局守れていないと感じていたことへのフラストレーションからだろう。が、それと同時に、アーサーは本当に王とかどうでもいいのだと思う。どうでもいいというのは、アーサーにとって王とは目的ではなく手段に過ぎないという意味で。

オームの地上侵攻を止めるために王になったアーサーは、望んで王になったわけではないと言いつつ(そしてオームにはさんざん王らしくないとか王らしくしろとか言われつつ)、世界を救い、海と地上の架け橋となることに成功した(その手段として王であることを活用はするが)。

アーサーはまさしく、かつてアトランナが語った「国のためだけに戦う王ではなく、皆のために戦う英雄(ヒーロー)」だった。

逆にオームにとっては、王であることは目的であり人生の全てだった。こちらもまさに「国のためだけに戦う王」。やたら「アトランティスの都合」と「形の上での王らしさ」にこだわる描写があるのは、そのことを強調するためもあったのだろう。で、態度が王らしくないとかなんとかアーサーにダメ出しし、また悪い言葉で「buttholeがsuper tight」(ガッチガチの堅物ヤローみたいな意味らしい)とか反撃されて静かに首を振ったり(そしてさらに嫌味と嘲笑を返したり)する。

そんなオームも今作を通して過去の呪縛を捨て去り、最後にはアーサーこそが王にふさわしいと認めた。「アトランティスの民はお前が王で幸いだ」「(王として)わたしになかった全てがある」とまで言っている。

そして退場時に、悪い言葉ごとお兄ちゃんのセリフをマネしてお兄ちゃんにっこりさせちゃうのはほんとに愛しい!笑

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