アーサーとオームの音楽的な融合〜映画『アクアマン』二部作への愛とツッコミが止められない4
どうにもソリの合わないアーサーとオームの兄弟が、それでも協力して事に当たる姿は、映画『アクアマン/失われた王国』の見どころの1つではないでしょうか。背景に流れる音楽でも兄弟2人の協調が表現されていて、ちょっと意識を向けてみるとより楽しめるかもしれません。
音楽でも、兄弟2人がわちゃわちゃしてる
前作『アクアマン』の音楽の使い方が好きすぎたあまり、続編『アクアマン/失われた王国』を見終わった後、勝手なことを思った。「歳上の弟、敵から味方になってこれほど活躍するんだったら、音楽にももうちょっと何か欲しかったなー」「アナキンの主題にダース・ベイダーの動機が含まれていたみたいな仕掛けとか」
2度目に見たとき気がついた。アーサーが牢獄の扉を蹴破って突入しオームを救うシーンで初めて使われ、その後も兄弟のシーンで再現される音楽、単にアーサーの動機の変奏だと思っていたけれど、よく聞いたらオームの動機も組み込まれていた。仕掛けあった!
前作から引き継いだ、アーサーとオームそれぞれを表す音楽、今作ではその2つのミックスが兄弟を表す1つの新しい音楽になっているわけで、なかなかの仕掛け。っていうか好きです。
ちょっと解説:『アクアマン』二部作におけるライトモティーフ
「アーサーの動機」「オームの動機」という言い方は、オペラや映画における「ライトモティーフ」の概念に基づく。ライトモティーフとは、登場人物やその行動などを表現する短い音楽(動機=モティーフ)のことで、多くは変奏を伴って劇中で繰り返し用いられる。『スター・ウォーズ』の『帝国のマーチ』がよく知られた例かもしれない。この曲は(ときにはその一部が)ライトモティーフの手法でダース・ベイダー関連シーンに使われる。
たとえば今作でのアーサーの助手、トポが前作のコロシアムでドラムを叩いていた人物いやタコであることは、アトランナのセリフを聞かずとも、トポが砂漠の牢獄に侵入するシーンであのドラムが鳴り響くことで分かる(ドラムがトポの動機として機能している)。
前作ではちょっとびっくりするほどライトモティーフが多用されていて、とにかく分かりやすく話を盛り上げる。あの、詰め込みすぎな内容をサクサク見せる独特の疾走感とノリの良さにも一役買っていると思う。……いえ、映画にも音楽にも全く詳しくないので分かりませんが、内容にぴったりで要するにすごく好みでした!こういうのは割とあることなんでしょうか?ヒーロー映画(のような、キャラが立った作品)では。
アーサーには複数*の、メラ**、オーム、マンタ、アトランナにも1つずつの動機があり、それぞれの関連シーンで使用される。終盤の4分の1ほど(カラゼンの元に向かうシーンから本編の最後まで)は、ほぼアーサーの動機とその変奏からできているといっても過言ではないかも。『アーサーの主題による変奏曲』かなーって思った(もちろんそんな細かいことを意識せずとも、なんとなく聞き覚えのあるメロディがいろいろなアレンジで場面を盛り上げ、アーサーの活躍を彩ってくれる。あくまでも、こんな楽しみ方もできるかもというだけの話です)。人物以外にも、アトランティス王国(アーサー側のアトランティス)の動機やアトランティス軍(オーバックス/オーム側のアトランティス)の動機、アトランティスの歴史の動機などが繰り返し現れる。
今作でも、前作ほどの凝りようや整った流れはないもののライトモティーフの手法が用いられ、大部分が引き継がれている。特にオームの動機は、ときにアーサーの動機とつながり合い、さまざまな変奏を伴って全体に散りばめられている。前作ではメラとアーサーの主題が全体をタテに貫いていたように。
アーサーの動機+オームの動機=兄弟の主題
ちょうどいいDC公式動画とワーナー公式音源があったので、先ほどの「アーサーの動機」(英雄の動機1)と「オームの動機」が組み合わさって「兄弟の主題」を形作っている具体例を。
「アーサーの英雄の動機1」「オームの動機」の例
(前作ラストの兄弟対決シーン)
0:11-0:13 オームの動機
ついでに 1:16-1:18 アーサーのエレキの動機(アーサーが見得を切った直後)
3:03-3:09 アーサーの英雄の動機1
「兄弟の主題」の例
(今作のサウンドトラック第2曲)
0:03-0:08 兄弟の主題(0:03-0:05がアーサーの英雄の動機1の変奏、0:06-0:08に2回繰り返すのがオームの動機の変奏)
ついでに 0:15-0:18 アーサーのエレキの動機
0:23 この辺りまで、ほぼ劇中と同じ音楽が収録されている
この主題が、オームのいる牢獄の扉をアーサーがぶち破ると同時に流れるわけだが、明るく歯切れよいニ短調と輝かしいトランペットの響きが非常に印象的。まるでファンファーレのようで、これを境に全体の雰囲気が(アーサーも)ガラッと変わって楽しげになる。続いてアーサーとオームが相対し、「アーサーのエレキの動機」「オームの動機」が順に現れる点は、前作ラストの対決シーンを思い起こさせる(まさに上記リンクのシーン)。
兄弟の主題はこの後、
騎獣を奪って牢獄から逃走
深淵の砦から脱出
悪魔の深奥のジャングルで疾走
するシーンでも再現され、2人の協調を表す。
さまざまに現れるオームの動機
オームの動機は、兄弟の主題に組み込まれるだけでなく、単独で、またさまざまな変奏で劇中に用いられる。オームの行動内容(と観客をリードしたい方向)によって、「善のオームの変奏」「悪のオームの変奏」(ここでの善=アーサー側、悪=アーサーに反する側)などなどが登場する。
オームがアーサー側に立って闘うシーンのうち3つ(牢獄の追っ手を返り討ち、アーサーに加勢しオクトボットを倒す、ネレウスを救い銃を与えられる)では、「オームの善の主題1〜3」というべきものが現れる。悪魔の深奥に泳ぎ着くシーンでは、兄弟の主題とは異なる変奏で2人の動機が組み合わされる。かと思うと、アーサーやネレウスに悪人ヅラでニヤリとしてみせるときにはオリジナルに近い(低い金管と打楽器の目立つ)オームの動機が不穏に鳴り響き、「えっ裏切るフラグ?!」とドキドキする(が、別に裏切らずちゃんと手助けしてくれる)。
終盤、オームはコーダックスに憑依されて再びアーサーに敵意を向け、悪のオームの変奏が続けざまに現れる。しかしアーサーの呼びかけに応じて憑依を振り払う際に「善の(本来の?)オームの動機」と呼べるものが出現し、これまでのオームの動機(いわば悪のオーム/オーシャンマスターの動機)を上書きする。これ以降、もともとのオームの動機は現れず、アーサーにしばしの別れを告げて海に消える際にはアトランティス王国(アーサー側のアトランティス)の動機の変奏が用いられ、オームが最終的にアーサー側に行き着いたことが示唆される。そして物語は大団円に向かう。
アーサーとオームの物語
音楽で見ても、あらためて、前作がアーサーとメラの物語であったように、今作はアーサーとオームの物語だったのだと感じる。エンドクレジットで「Born to Be Wild」の後に流れる曲「Deep End」も、メロディこそ関連性は見られない*ものの、「闇と恐怖に囚われて、海の深みから抜け出せないように思えても あなたが望むときわたしはいつでもそばにいる」のような内容が歌われていて(まるめすぎ?)、まさにアーサーとオームの関係を思い起こさせ、今作を総括している。アーサーに寄り添われ深みから抜け出したオームが、再び闇に囚われることがありませんように。
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