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オームとマンタの音符が同じな件〜映画『アクアマン』二部作への愛とツッコミが止められない6

すりキズをこしらえつつ軍を率いるオーム、ぬめっとした一匹狼のマンタ(音楽の話です)。大好きすぎる映画『アクアマン』二部作の音楽、特に前作でのオームとマンタの動機について、引き続き偏愛を記録します。


『アクアマン』ヴィラン2人の動機

映画『アクアマン』におけるメラの動機について長々と記録してしまった。が、まだツッコミが止められず、オームとマンタ2人のヴィランの動機についても触れたい。

オームの動機*とマンタの動機はかなり似ている。というか音名とリズム(音の高さと長さ)は同じ、つまり音符が同一で、次の3音で構成される。

E♭ D C

*オームの動機の使用例については、以前動画にリンクを張ったのでよろしければご参照ください(「オームの動機」の例

音符が同一なら同じように聞こえるかというと、もちろんそんなことはなくて、演奏する楽器やアーティキュレーション(音のつなぎ方や強弱)で変化がついている。

最初は、なぜわざわざ同じ音符に?2人ともアーサーの敵だからってまとめちゃった?それってあんまりでは?と思ったが、表現と使われ方を見ているとこれはこれで面白く、ありかなーと思うようになった(←なぜ上から目線)。

シンフォニックなオーム、エレクトロニックなマンタ

オームの動機は低い金管(主にトロンボーン)、打楽器、弦が目立つ編成で、1音1音をはっきり区切って演奏されることが多い(例外もあり)。マンタの動機は一貫して電子楽器で、かつ1音1音は区切らず滑らかに音高を下げてつなげるように演奏される(こういうのもグリッサンドといっていいのでしょうか)。オームの動機は重々しい、シンフォニック、トラディショナルなイメージになり、マンタの動機は動きのある、比較的軽快な、カッコいいイメージになる。

『アクアマン』では2人は直接会っておらず(海水に投影した立体画像でちょっと話す)、動機も重なることはないが、続編『アクアマン/失われた王国』では魔物(コーダックス)がマンタからオームに乗り移るシーンがあり、そこで2人の動機が連続して流れる。違いがよく分かって興味深い。

使われ方もかなり異なる。オームの動機は単独で効果音っぽくなったり、同じくシンフォニックなアトランティス軍の動機と組み合わされたり、変奏されたり、続編ではアーサーの動機とくっついて新たな主題を成したりとさまざま。マンタの動機は単独でも現れるが、等間隔でいくつかつなげたマンタの主題(やその変奏)になることが多い。他の動機と組み合わされることはあまりない。オームは前作では軍を率いる一国の王で、続編ではアーサーと組むけれど、マンタは(部下やシン博士はいても)心情的には一匹狼で、行動にもそれが表れるので。

ほぼトロンボーン(ときどきホルン)なオーム

アーサーやメラの動機や主題の場合、楽器編成は場面によっていろいろで、あまり「この人はこの楽器」という印象にはならないと思う(「アーサーのエレキの動機」は別にして)。

でもオームとマンタの動機は楽器も要素の1つなので、映画を見て(聞いて)いると、知らず知らず人物と結びつくことがある。トロンボーンが低くブカブカいうと、オームが少し傷のある甲冑に身を包んで軍を統率する様子が浮かぶし、電子楽器のスマートさや滑らかな音は、マンタの個性的なコスチュームや微妙にぬめり感のあるヘルメットを思い起こさせる。ちょっと楽しい。

ちなみにオームの場合、オームの動機やその変奏以外にも、(単発で)行動や心情を表す音楽がいくつか出てくる。それらも多くは低い金管で奏でられる。コロシアムからアーサーを連れて逃亡するメラの船に戦闘艇をぐっと寄せ、彼女と視線を合わせる過程のホルンとトロンボーン、王座を失い捕えられての退場時、声をかけたアーサーを振り返り、無言で見返し、波間に消えるまでの低いC♯(バストロンボーンかな)の繰り返しなど。

ちょっと面白かったのが、アーサーとの掛け合いのうち1つ、コロシアムでの決闘前に初めて2人きりで向かい合い、互いにちらっと本音が出るシーンの音楽(続編『アクアマン/失われた王国』で、オームが再び闇に落ちかけた際に回想で現れるやりとりのところ)。

アーサーが変ロ長調のピアノと弦の高音で嫋嫋と語りかけ(長調もピアノも本二部作ではわりとレア)、オームがロ短調のホルンと弦の低音で荘厳に切り返す(そして打楽器の連打とバストロンボーンが最高に重いオームの動機に続く)。雰囲気の落差激しいし、音の高低差も激しい。なんとアーサー→オームで一気に2〜3オクターブ下がる。まあ言ってる内容が、弟に会いたかった、お前にはおれがいるって伝えたかった→お前をずっと憎んできた、でも殺したくない、二度と戻ってくるなといきなりダークになるからなのだけれど。音楽だけ聞いているとまるでアーサーが可憐な少女かのようだ。

キーワード「オーシャンマスター」と「マンタ」

オームの動機とマンタの動機は、それぞれを示すワードと連動することがある。

海賊デイヴィッド・ケインが父ジェシーから、さらにその父の持ち物だったマンタの刻印入りナイフを譲り受けるとき。ジェシーの語る「マンタ」のワードに合わせてマンタの動機が流れる。デイヴィッドはアーサーとの闘いの結果父を亡くし、オームから渡されたアトランティスの武器を身につけてブラックマンタと名乗るようになる。

オームではもっと徹底している。彼は地上侵攻に必要なオーシャンマスターの称号を得ようと画策する。劇中、「オーシャンマスター」のワードがオーム本人もしくはほかの人物から発せられるときには、必ずオームの動機が流れる。

その意味ではむしろ、オームの動機ではなく「オーシャンマスターの動機」と呼ぶべきなのかもしれない。続編では「オーシャンマスターの動機(悪のオームの動機)に対するオームの動機(善の/本来のオームの動機)」が突如出現するので、そことの兼ね合いからも。

おまけ:みんなハ短調で勇壮な前作、明るく輝かしい続編

上で見てきたように、オームとマンタの動機はハ短調。メラの動機とそれを含む各種主題もハ短調。アーサーの動機も、(勝手に名前を付けた) 6つのうち頻度の多い4つはハ短調だった(もちろんどれも、劇中で調を変えて使用されることはあるけれど)。動機を持つ主要登場人物のうち4人がハ短調*で表現されているわけだ(もしかしたらなにか特殊な理由でもある?音楽に詳しい方なら分かるのかもしれない)。

*唯一、アトランナの主題はイ短調で現れる。調が変わることも二部作を通してほぼない(13歳のアーサーがバルコにアトランナのことをたずねるシーンで、アトランナの主題のオリジナルの2音がホ短調のコードに乗って流れたことはある)

理由はともかく、4人の動機がハ短調であるため、『アクアマン』は比較的ハ短調が目立つ(と思う)。これに対して続編『アクアマン/失われた王国』はニ短調が目立つ(ような気がする)。「兄弟の主題」や「オームの善の主題2と3」がニ短調で現れるからかもしれないし、中盤のハイライトといえる悪魔の深奥での兄弟とマンタチームの戦闘シーンでニ短調が多いからかもしれない。

でもこれ、たぶん妄想や錯覚ではない。前作では主人公アーサーの初登場時、彼の主題がハ短調で流れ、タイトルロゴにかぶる音楽(エレキの動機と英雄の動機1)はハ短調。そしてエンドクレジット最後のタイトルロゴ(←なんと呼ぶのでしょう?)にかぶる音楽(同じくエレキの動機と英雄の動機1)もハ短調。続編ではアーサーはニ短調で登場し、タイトルロゴこそハ短調だが、最後のタイトルロゴにかぶる音楽(英雄の動機1)もニ短調なので、おそらくある程度はハ短調→ニ短調を意図されて作られているのだと思う。

個人的なイメージにすぎないが、ハ短調には勇猛さや壮大さを、ニ短調にはある種の明るさや輝かしさ、清澄さを感じる。アーサーが自分を知る旅を描いた神話的な英雄物語の前作、オームが家族の愛と絆に気づき自分を取り戻す続編にぴったりだ、なんて思うのは、ちょっと音楽を愛ですぎでしょうか。

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