アトランナとオーバックスの関係を邪推してしまった〜映画『アクアマン』二部作への愛とツッコミが止められない12
謎多きオームの父王、オーバックス。本人の登場はなく言及されるのみなのに、「この人相当あぶないかも」と思わせる見事なキャラ立ちを誇る。映画『アクアマン』二部作でなかなかに重要な父たち、アーサーの父トムに続いてオーバックスについても深読みしてみました。
出番はないけどそこそこ重要、オーバックス
映画『アクアマン』二部作における、アーサーとオーム兄弟の2人の父、トムとオーバックス。愛情あふれるアーサーの父として、また寛容かつ豪快な海の男としての人となりがよく分かるトムと異なり、オームの父、アトランティスのかつての王オーバックスは謎に包まれている。そもそも劇中に本人は全く登場しない。わずかにアーサーの語りと、登場人物のセリフに言及があるのみだ。
しかしその内容だけで「あ、こいつ相当あぶないっぽい」と分かる。なにしろアトランティスの女王アトランナが、国を捨てて地上に逃げてくることになった元凶がオーバックスなのだ。ということは彼がいなければ、アトランナがトムと出会うこともアーサーが産まれることもなかった。
その意味でオーバックスは、出番のなさにもかかわらず物語でまずまずの位置を占めているといっていいのではないか。前作『アクアマン』ではメインヴィラン、今作『アクアマン/失われた王国』ではメインお笑い担当ではなく味方に転じる重要人物オームに、多大な(悪い)影響を及ぼしたという点でも。
オーバックスの横顔
オーバックスに関する言及は、二部作を合わせて10もない。少ないので全部拾ってみるとこんな感じ。
オーバックスに関する情報は実にこれだけなのだが、それでもある程度のことが分かる。
アトランナの処刑(未遂)はいつごろだった?(ついでに兄弟の年齢を計算してみた)
劇中で語られるアトランナの処刑(未遂でよかった!)の経緯は上記の通りで、これ以上のことは分からない。けれど、何年も結婚していて跡取り息子も産んでいる自分の妃を、ある日突然結婚前のことに腹を立てて殺すってあんまり頭おかしすぎない?(この辺りは正直、陸と海の世界をつなぐ英雄アーサーと、弟にしてその対極にあるオームという存在を成り立たせるため、そうならざるを得なかったのかもしれないけれど)
ではアトランナの処刑が結婚後どのくらいたってのことだったのか(ついでに兄弟はいつ産まれたのか)、劇中の数字から絞り込んでみる。
バルコと泳ぐシーンのアーサー13歳時点で、既にアトランナは処刑されていた(「いつ母さんに会える?」と聞かれたバルコが一瞬暗い顔になるから。ここは素直に受け取ることにする!)ようなので、「アーサーが1985年生まれと仮定すると、アトランナはアーサーが13歳だった1998年終わり〜1999年終わりのある時点より前に処刑された」ことになる。
明らかにアトランナ派のバルコがいつからアーサーのことを知っていたのかは分からないが、オーバックスに事が露見→アトランナがバルコに依頼→(アトランナの処刑)→バルコがアーサーの前に姿を現す→初めての泳ぎ、という流れが自然なように思える。仮にそう考えると(もうこの辺になると全部憶測でしかないのだけれど)、処刑から泳ぐシーンまで何年もたっているわけではなさそう。たとえば処刑は1997年〜1999年半ばのどこか*とか。
そうなると結婚後少なくとも10年近くたってから、結婚前のことを咎められて処刑されたことになる。いやー、やっぱりちょっとあぶない人でしょ、オーバックスさん。
兄弟の年齢
このときオームは最大で(1989年後半に産まれたとして)7〜9歳という計算になる。
ついでに前作時点での兄弟の年齢は、劇中の「現在」を同様に2018年とすると最大でアーサーが33歳、オームが29歳。現実的にはアーサーの誕生は早くて1986年(のハリケーンシーズン)、オームは1990年より後くらいだろうからもっと若いかも。32歳と27歳とかね。アトランナ母さんが異様に若いんだと思ってたけれど、どちらかというと兄弟(特に弟)がふけてたんだね!
結婚前から「アトランナ女王とオーバックス王」の不思議
オーバックスがそんなあぶない人だと分かっていたから、アトランナは彼との結婚をなんとか避けようとしたのだろうか。よっぽど嫌だったんだろうね。だって、女王が国捨てて逃げてきちゃうって相当じゃない?
だけどそもそも、アトランナの「女王」という呼称がちょっと不思議なのだ。アトランナはトムと出会ったとき、「アトランティスの女王(Queen of Atlantis)アトランナ」と名乗っているし、数年後にアトランティス兵にも「アトランナ女王」(Queen Atlanna)と呼ばれている。
「Queen」には「王妃」と「(女性である)王」の2つの意味があると思うのだけれど、アトランナはまだオーバックスと結婚していなかったわけだから王妃ではない。すると王?でも兵がアトランナを連れ戻しに来たときのセリフから、当時アトランティスには(アトランナより強い権限を持ち、彼女に帰還を命令できる)「オーバックス王」(King Orvax)がいたことが分かる。
アトランナはその名前からも、メラが「本来、アトランティスの王座はアトランナの長男であるアーサーのもの」という内容を話していることからも王家の直系(王の子)と見ていいと思う(その後、今作で初代王アトランの血を引いていることが明らかになる)。けれどもアトランナの婚約者のオーバックスが王となり、彼女の帰還後も権力を振るっていることから、アトランティスでは女性は王になれないらしいと推測できる(魚人王国はプリンセスが王を継いだけれどね)。
アトランナの父王には男子がなく、アトランナの夫を王にすることになって、選ばれたのがオーバックスということなのかもしれない。それが「ずっと前から決められていた」と。
でも結婚前からアトランナは女王を名乗り、兵からもそう呼ばれ、まだ彼女の夫ではないオーバックスが王として君臨している。うーん、分からん。
アトランナとオーバックス、禁断の結婚説
一瞬だけ、ふと怖すぎる想像をしてしまった。きっかけは今作の登場人物、コーダックス。アトランティスの初代王アトランの弟。あれっ、オーバックスと名前そっくりだなあ。
Atlan—Kordax 兄弟
Atlanna—Orvax ……姉弟?!?
もちろん、単なる思い付きの妄想です。ただオーバックスはアトランナと結婚前であるにもかかわらず、(おそらくアトランナの父王の死後)アトランティスの王となった。それはアトランナの父王の長男だったから、と考えたら一応論理的には破綻しないよなと思ってしまった(ほかの問題ありまくりだけれど)。
いくらアトランティス王国の仕組みが前近代的(王座でもめたら決闘とか、負けたら殺されるとか)だからといって、さすがに王族の近親婚はないよね!とうとう結婚することになったとき(それこそ前の王が亡くなったタイミングでなど)、アトランナはそれを拒否して逃亡し(でも呼称はなぜか王女から女王になり)、とりあえずオーバックスが王座を継いだ(そしてアトランナの腹心らしいバルコが補佐役に就いた)という辺りが考えられるだろうか。
オーバックスは王家の血縁?腕が立つ?
アトランティスの王の座は明らかに世襲制だから、オーバックスはアトランナの兄弟ではないにしても、血族ではあったのかもしれない。さすがに王家と何の血縁もない人が、暫定的とはいえ王にはなれないかなと。もしそのままアトランナが見つからなかったら血が絶えてしまうしね。
そのほかに分かることとして、オームのセリフでオーバックスは相当腕の立つ人物だったことが匂わされている(それもあってアトランナの夫に選ばれたのかも)。腕が立って性格があぶなすぎる王って、めちゃくちゃ恐ろしくない?
そんな恐ろしいオーバックスもどこかの時点で(おそらく)死去し、その王座とトライデントをオームが継いだ。アトランナが帰還した時点でオーバックスの影も形もなかったのはまことに都合の良いことだった。
というよりも、オーバックスには地上への敵意や差別意識はあったにせよ、戦争を仕掛けるという考えまではなかった。地上侵攻を企図し行動に移したのは、彼の教育を受け後を継いだ(そして立派なヴィランに成長した)息子オームであり、それによって初めてアーサーはアトランティスに介入する決意をし、結果としてアトランナを救い出すことになったわけだ。
アトランナを地上に追いやってまた連れ戻してオームを産ませ、(アーサーと対照的な)自国第一主義の侵略者に育てて、その役目を終えたらひっそりと消えていったオーバックス。彼もある意味、アーサーの英雄物語のために都合良く使われちゃった人のような気がしてならない。そう思うとちょっとかわいそうになってくる。
オーバックスがオームに与えた影響の強さ
個人的にオーバックスを最も「こわっ」と思ったのは、オームに与えた影響に関して。唯一今作で言及している、「悪魔の深奥」の沼地でオームがアーサーに向けたセリフを聞いたとき。先ほども挙げたこれ。
「お前の存在を知ったその日から、父はわたしに闘いの準備をさせた。いつかお前がやってきて王座を懸けてわたしに挑む、そのときのために」
この直前のやりとりでオームは、「アーサーには王座への野心など皆無だった。オームを倒し王になったのは、ただアトランティスに地上を攻撃させないためだった」と初めて理解し、かなり混乱している。
英語が得意ではないのでニュアンスを読み違えている可能性はあるのだけれど、「その日から」(from the day my father found out you existed…)「そのとき」(for the moment that you would come…)っていう言葉が怖いし、なんかアーサーに懸命に訴えてる、というか分かってほしくて必死で説明してるような感じの表情してるのも怖い。
オーバックスはすでに亡く、オームもいい大人になっているにもかかわらず、まるで子どものように「ずっとそう信じてたのに、違うの?」みたいな雰囲気をにじませているところが。オームがその身に負う、父の影響というか呪縛の強固さが透けて見えるようで。
いかにも、幼かったある日、全てが変わってしまった日から始まって毎日毎日、地上の兄がお前の王座を狙っているぞ、いまに王座を奪いに来るぞ、来るぞとねちねち言われ続け、兄を倒すために仕込まれ続けてきたという感じがしてしまう。
9歳になるかならないかの息子から(自分の妻でもある)母親を奪っただけでなく、兄弟への敵愾心まで植え付けて……。いやー、やっぱり相当あぶない人でしょ、オーバックスさん。
アトランナも認めた(?)オーバックスの呪縛
「アーサーがずっと自分の王座を狙っていた」というオームの思い込みに関しては、だからアーサー最初から、戦争を止めるために来たって言ってたじゃん!って全力で突っ込みたいところ。だけど彼としては、前作でアーサーがアトランティスにやってきたとき、父の言っていたとおりとうとう兄が王座を奪いに来たとしか思えず、話の内容なんか耳に入らなかったのかも。アーサーを言葉巧みに決闘に誘い込んだように見えたけれど(バルコもそんな感じに言っていたし)、そうじゃなくて本気で、兄が自分に挑戦していると信じていた。
前作の終わりでアーサーに敗北すると同時にアトランナが生きていたと知ったとき、洗脳が解けたに近い勢いでそれまでの価値観が崩壊したかと思ったけれど、まだまだ父王の呪縛は残っていたんだね(今作の最後では過去のあらゆる呪縛を完全に振り払えたと、個人的には解釈しているのだけれど)。
そして20年ぶりにオームに再会できたとき、アトランナは、「2人ともわたしの子」「心から愛している」と告げたうえで、オームにこう言うのだ。
「あなたは誤った道を教えられた。父親はあなたに2つの世界があると信じさせたけれど、彼は間違っていた。陸と海は、ひとつなの」
それまでオーバックスについて、あいつが悪いとかあいつのせいでひどい目に遭ったとかは一切言わず、アトランティスに戻らざるを得なかった点についてもひたすら「わたしが自分で決めたこと」「あなたたち(アーサーとトム)を守るためにそうした」と繰り返していたアトランナが、愛する息子をかばう気持ちからとはいえ初めて「あなたは誤った道を教えられた」「彼は間違っていた」と明言する。
アトランナはアーサーとメラからオームの現状を聞いて、おそらく察したのだろう。自分がいなくなった後、オーバックスがオームにどのような思想を教えどのような呪縛を与えたか。その結果、オームがどのように実の兄への敵意を育んできたか。
前作でのえげつない悪事のかずかずは、オーム自身がオーム1人の判断で行ったもので、すでに死去している父のせいにすることはできない。それは確かだけれど、幼い頃から教え込まれた思想の影響を無視できないこともまた確かだろう。
いやー、やっぱり怖いですね、オーバックスさん。それとも、オームを立派なヴィランに育ててくれてありがとう!って思うべきなのかな??
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