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読書感想文

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『檜垣澤家の炎上』を読みました

『檜垣澤家の炎上』を読みました

 書店でフラフラしていたときにふと目に入った本でした。物騒なタイトル、帯の『細雪』×『華麗なる一族』×殺人事件、「富と権力の館に拾われた娘が抱いた野望とはー」というアオリ文。気にならないはずもなく。
 主人公のかな子がしたたかで、ほんとによくやってました。子どもなんだからもう少しぼんやりすごさせてやりたい、油断をさせてやりたいと思うのは大人の勝手で、彼女は必死だったんだよなぁ。よく生き延びた。
 

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米澤穂信『黒牢城』を読みました。

米澤穂信『黒牢城』を読みました。

 疎くてよかった戦国時代!
 「歴史」というネタバレ無しで『黒牢城』を読めたのは幸運でした。担任で日本史の教科担当だったM先生ごめんなさい!!(南北朝あたりから戦国時代ってわけがわからなくなりませんか?松井優征『逃げ上手の若君』を読んでいるとあの頃の復習してる気分になります。山川の教科書が手元に欲しい……)

 さて、冒頭の章から「官兵衛」なる人物が出てきて、「黒田官兵衛」かな?とは思いあたりまし

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小川洋子「からだの美」を読みました

小川洋子「からだの美」を読みました

 小川洋子の文章、特に小説を読んでいると不思議とこういうイメージが浮かぶ。
―真っ白な、不要なものはなにもない、そういう清潔な部屋で、しかしどこかしらに緊張感を保ちながら、座り心地の良い椅子に座って、そうして読書している―
現実はもちろんそんなことはない。ちゃぶ台のそばでお菓子をかじりながらだったり廊下に座りこんでだったりしながら(大変お行儀が悪い)、しかし心のなかは静謐な空気に包まれる。どことな

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北村薫『六の宮の姫君』を読んで

読み終えて最初の一言。「いい時代だなぁ……。」

 性能のいいワープロが欲しくてアルバイトを始めるというのがそもそも時代を感じますが、何よりも大学の四年生でこののんびりさです。いいなあ。卒論に一部は転用できるからといってここまで文豪たちの内面を文献をもとにたどっていくのは、いくら国文科の学生でも時間も手間もかかりますから並大抵のことではないようにみえます。私が国文科出身じゃないからかな。
 この令

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『奇面館の殺人』読みました

『奇面館の殺人』読みました

 どうにか〈館〉シリーズ最新作まで追いつきました。以下は未読の人にはわけが分からないけれど読み終えた人にだけわかる、ネタバレだけどネタバレにならない各作品のギリギリの一言感想(というか悲鳴)です。
既読の方にニヤニヤして頂ければ幸い。
十角館:……えっ?アッッ!?(例の1行)
水車館:とりあえず児相ー!
迷路館:血ぃー!
人形館:そもそもかよ!
時計館:時空が歪んでるよー!
黒猫館:地球がひっくり

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『暗黒館の殺人』を読み終えました

『暗黒館の殺人』を読み終えました

 \出して!早く!ここから出して!!/
というのが読んでる最中の最大の感想(悲鳴)でした。暗い!怖い!寒い!(これは季節の変わり目だから)
 閉所が苦手なんです。どのくらい苦手かというとポケモンのゲーム内の洞窟ですら長時間さ迷って出口が分からないとムズムズゾワゾワしてくるくらいです。グラフィックの進歩が憎い。長距離のトンネルも助手席ならいざ知らず、運転しているとじわじわと胸を押さえつけられ続けてい

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綾辻行人「館」シリーズに手を出し始めましたのですが

綾辻行人「館」シリーズに手を出し始めましたのですが

 先日、Twitterでたまたま綾辻行人先生のアカウントを見つけたのでフォローしていました。ぷいぷいかわいい。アカウントフォローしてるのにご著作を全く読んでいないことにある日ふと気づいたのでひとまず「Anotherだったら死んでた」で有名な『Another』シリーズを読みました。あんなに分厚いのに一日ないし二日で読み切れたのも久々でした。(逆にもっと薄いのに何日も何ヶ月もかかる本があるのはなぜ。)

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「アガサ・クリスティーと14の毒薬」を読みました

 クリスティの作品は、ポアロとミス・マープルならあらかた読みました。で、関連本も読みたくなりまして色々眺めていたらこの本の存在を見つけました。物騒な本ではありますが、毒薬の本って歴代の蛮勇達の記録でもあるんで好奇心が刺激されるんですよね。しかし、アマゾンにもバリューブックス(古書店)でも現物が見当たらない。地元の大きい書店の在庫検索でヒットしたのに探し回っても見当たらない。店員さんに尋ねたところ、

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横溝正史『貸しボート十三号』とアガサ・クリスティ『ヒッコリー・ロードの殺人』を読みました

横溝正史『貸しボート十三号』とアガサ・クリスティ『ヒッコリー・ロードの殺人』を読みました

※ご注意
『貸しボート十三号』ならびに『墜ちたる天女』のネタバレがあります。ほんの少し『マギンティ夫人は死んだ』の筋書きにもふれています。『ヒッコリー・ロードの殺人』についてはトリックや犯人に関する記述はしていません。

以前、なにもわからずに図書館で『金田一耕助の帰還』(『貸しボート十三号』等の原形の作品が掲載された短編集)を読んでいたので、あらすじやトリックは大雑把に覚えているから楽しめ

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横溝正史『三つ首塔』を読んで

横溝正史『三つ首塔』を読んで

米澤穂信が「『三つ首塔』は少々官能的すぎる」と『米澤屋書店』で書いてらした意味がよくわかりました。もちろん直接的な表現はありませんが、何度もアレ?私官能小説読んでるのかな?という気分になりました。それに作中ちょいちょいあらゆる特殊性癖が紛れ込んでいた気が致しますが気のせいでしょうか……いや、このシリーズにはよくあることのような気もしてきたな……そもそもこれはミステリなのか、というところからよく

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アガサ・クリスティー『ホロー荘の殺人』他数作を読んで考えたこと ほんの少し金田一耕助を添えて

アガサ・クリスティー『ホロー荘の殺人』他数作を読んで考えたこと ほんの少し金田一耕助を添えて

※毎度のことながらネタバレばかりですので未読の方はご注意ください。
今回ちらっとでも触れる作品
アガサ・クリスティー
『白昼の悪魔』『五匹の子豚』『ホロー荘の殺人』『満潮に乗って』
横溝正史
『犬神家の一族』『白と黒』『悪霊島』

 最近ずっとポアロを順番に読み続けています。今は『マギンティ夫人は死んだ』に手をつけ始めたところです。今回は最近まとめて読んだ名作について少しずつ触れたうえで、私にとっ

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ただ好きな作品を書き記すだけ

ただ好きな作品を書き記すだけ

個人的に好きな作品と一言コメントを載せていこうと思います。
きっと今後気が向いたら更新していくことになると思います。
ネタバレになるところは念のため伏字にしています。
伏字の中身は最後にまとめて書いています。

横溝正史
『迷路荘の惨劇』
 キャラクターが多彩で楽しく、金田一先生と一緒に冒険している気分になれます。陽子さんが健やかでチャーミング。等々力、磯川両警部と同じかそれ以上にキャラが立ってる

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『病院坂の首縊りの家』(横溝正史)を読んで数ヶ月たってからの感想 ほんの少しアガサ・クリスティも添えて

『病院坂の首縊りの家』(横溝正史)を読んで数ヶ月たってからの感想 ほんの少しアガサ・クリスティも添えて

※当然のようにネタバレカーニバルですので未読のかたはお気をつけくださいね。
 今回作品名だけでも触れている作品
  横溝正史
  『病院坂~』『白と黒』『三つ首塔』
  アガサ・クリスティ
  『動く指』『白昼の悪魔』『ナイルに死す』

 読んで数ヶ月ってなんだよ、とお思いの方もおありでしょうが、一時は書こうとしたんですがなんかこう、落ち込んじゃってですね。あの、こう、わかるでしょ、あの作品読ん

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三十代にして今度は『八つ墓村』を初めて読んだ感想

三十代にして今度は『八つ墓村』を初めて読んだ感想

 ※当然ネタバレありの感想ですのでご注意ください。
 先日の『犬神家の一族』の感想に軽率なことを書いてしまった。『八つ墓村』について、

 死ぬべき人がほぼ全員死んでから事の真相が金田一耕助氏によって解説されるため、一族の膿は出し切ったぞ!あとは幸せになるしかねえぞ!っていう前向きさに好感が持てて、あんなに人が惨たらしく死んだのに読後感がすっきり爽やかなのがとてもいい。

と書いていたが、『八つ墓

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