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矢作直樹著(2017)『今を楽しむ』ダイヤモンド社

孤独も悪くない、そう思わせる内容

2017年に購入したまま積読本としてずっと眠っていたままだった。改めて大病を患い、孤独というのをひしひしと感じている状態で、また出会ってしまった。

個人的には孤独というものをあまり淋しいとも思わないし、むしろ自分に自由で慣れると楽としか感じていない。本書の第1章で孤独死を論じているところがあるが、著者によると、孤独死が生み出す効果として、①雇用を生み出す。②優越感を生み出す。雇用というのは医療関係者、警察関係者、地元自治体関連で独り身が亡くなると仕事が生まれるというロジック、優越感というのは「ひとり身は孤独」とか「ひとり身はみじめ」という考えの持ち主が孤独死した人に対して抱く相対的な感情とのこと。なかなか最初から面白い考えに遭遇した感がした。すかさず著者は、誰かと暮らしていても、孤独死することがあると述べ、一人でいようと複数で暮らそうと、人間は最終的には一人で人生を全うするのかも知れない。

本書は一人で生きていくための知恵や考え方が秀逸にまとめられている。たとえば評価を気にせず仕事に取り組むと、不思議と助けてくれる人が現れるとか、自己の認識から外れた存在は、存在しないのと同様であり、関わりたくない人と上手く縁切りできるとか、そして必要な時には必要な人が登場するのが人生というものらしい。御縁が重すぎるとか、中年期の孤独とか、孤独に関する色々な視座が行き届いている。

また、コミュニケーションとして大切なのは、①プライドを傷つけないこと、②必ず逃げ道を残すこと、③話すよりも聞くことに重点を置くこと、と説き、この点はわたしも完全に同意するもので、社会人生活が長いと、どの分野の職業であっても皆さん同じような見解に行き着くのではないだろうか。このことが思わぬ言いがかりなどの危険回避手段としても有効であることは皆ご存知のはず。

後半は死に関しての考え方も記載されているが、著者は生命に関して輪廻転生を信じておられるような節が、その文章からうかがい知ることができる。わたし自身はあまり輪廻転生に関しては信じていない方であるが、むしろ信じておられる方々は、現世の経験もまた肉体という宿への仮住まい程度に認識されているのかも知れない。

本書は総じて孤独に関する学びを得られるが、個人的には大病を患ったことで、既に自分の死というものに向き合ってきたので、本書のようなものでも気楽に読めてしまった感がある。その意味で、本書の題名の通り今を楽しむことができた。わたしも先が長くないので、まだまだ孤独を楽しもうかと思っている。清々しい読書感を得ることができた。

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