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痴呆症、老人介護が不安なら観るべき。映画「ボケますから、よろしくお願いします」

痴呆症について、不安はありますか?
自分の両親はどうなるのか?自分自身はどうなるのか?
この作品は、その不安を少しでも解消できるかもしれません。

「ぼけますから、よろしくお願いします」は、実際に痴呆症になった夫婦を記録したドキュメンタリー映画です。
作品タイトルは、痴呆症になった本人が冗談で言ったセリフが元になっています。

「わたし、ばかになってしもうた」

しっかり者だったお母さんが、痴呆症になってしまいました。
初めは違和感。
でも、自分が変わっていくことを、確実に感じていきます。

「なんね? なんね?」
戸惑いと恐怖。

ついに、お母さんは料理も洗濯もできなくなってしまいます。
すると、家事を全くやったことがないお父さんが、慣れないながらも、その役割をこなすようになり、新しい日常が営なわれます。

しかし、
「お母さんは、なにもせんでよかよ。」
ある日、そう言われたお母さんは、「ころしてくれ」と泣き叫びます。
すると、いつも穏やかなお父さんが、怒鳴り返す。
「おまえは感謝してればいいんだ」
あんなに仲の良かった夫婦が喧嘩をする。思わず手も出てしまう。

ご飯を食べて寝るだけの生活。
そんな状態になっても、自分の居場所だった台所だけは、一生懸命掃除するお母さん。
いつかは良くなるはず、と辛抱強くお母さんの面倒をみるお父さん。
だが、ある日お母さんは、食事中に倒れてしまい......。

痴呆症とは、残酷な症状です。
チャンドラーの小説に「さよならを言うことは、少しの間死ぬことだ」というセリフがありましたが、つまりは、死ぬということは「いなくなるとこと」
ところが、痴呆症というのは、それが中途半端な形で現れてしまいます。
本人はそこにいるのに、その人の一部がなくなっていくのです。介護する人たちも大変ですが、痴呆症になった本人も辛いんです。

またこの作品は、痴呆症だけではなく、老々介護になった場合の大変さ、寝たきりになっても生きる意味はあるのか?延命治療の是非は?など、いろいろな事も考えさせられます。

でも、この映画を観て感じることは、そんな辛いことではないんです。

感じたのは希望。

普通、痴呆症や老人介護のテレビ番組を見ると、気持ちが重くなりますよね。
それが、この作品を観ると、とても明るい気持ちになります。爽快感さえある。
その理由は、、、
「愛だよ。愛っ。」

いや、はずいっ。

このドキュメンタリー映画ですが、どのくらいドキュメンタリーかというと、映画監督は、この映画に出てくる夫婦の娘だったります。

つまり、実娘である監督が両親を見る愛情。
そして、それを遥かに超える、夫婦の愛

いや、はずいっ。何回もいわせないでっ。

でも、痴呆症という、辛い状況を打ち負かすようなのは、この愛なんじゃないでしょうか?
どんな状況になっても、この家の中には、明るさに満ち溢れています。

あとは、魅力的な人物です。
まず、料理裁縫はプロ級。書道習ったら全国表彰。こんな才女でしっかり者でユーモアのあるお母さんが素晴らしい。
さらに、仕事人間だったお父さん。お母さんの痴呆症状が進むにつれ、このお父さんの魅力が、爆発してきます。

お父さん、お母さんが痴呆症と診断されたら、男らしく覚悟を決めます。

「まあこれも運命よ。定めじゃわい。おっ母には今まで、家のことをようしてもろうたんじゃけん。おっ母がおかしくなったんなら、今度はわしがかわりにしてやらんと、しょうがないじゃろう」

家事を一切したことがないお父さんは、掃除洗濯炊事など、めきめきと主婦業を極めていきます。そして甲斐甲斐しくお母さんの世話をします。
しかしその姿は、いついかなるときでも、飄々と楽しそうです。

90代の父が、何事にも動じず飄々と受け止めている姿に驚かされます。
今まで包丁なんて持ったこともなかったのに、危なっかしい手つきながら母の好きなリンゴを剥いてやる父。
母がうどんを食べたいと言えば、いそいそと買いに行って作ってやる父。
母の下着まで洗って、母がやっていたのと同じ畳み方で畳んでやる父。
母の気持ちに常に寄り添い、朝、なかなか起きない母に腹を立てるでもなく、たまに早起きした日には「今日は早う起きた。えらい!」とほめてやる父――。

信友直子「ぼけますからよろしく」より

どんな状況になっても、必要なら新しいことを覚え、いつも飄々としているお父さん。
こんな男性になってみたいものです。

そんなマイペースのお父さん、駄々をこねるお母さん、オロオロする娘(監督)の家族3人の生活を観ていると、コメディを見ているような感覚になります。

母と一緒になって嘆き始めるといくらでも悲劇に思えるけれど、ちょっと引いた目で見るとけっこう笑えて、喜劇に思えてきます。
「人生はクローズアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」喜劇王チャップリンの名言です。
本当にその通りだなあ、と今の私は痛感しています。

信友直子「ぼけますからよろしく」より

痴呆症について、不安はあります。

両親が痴呆症になったらどうする?
将来の自分が痴呆症になったらどうする?
そんな不安は尽きません。でも、その不安は本当なんでしょうか?

「考え方ひとつで世界は変わる。」
もちろん、この言葉は、使い古された言葉です。
現実無視のポジティブな考えで使われると、新興宗教やブラック企業などによる搾取の道具となります。
でも、先入観のある偏ったネガティブな考えもまた、誤った感じかたを招いてしまうのではないでしょうか?

どんな物事も、白黒100%では出来ていません。
「地獄」と思ってるような出来事の中にも、素晴らしいことが沢山あるのではないか?

この映画は、痴呆症や介護の中にあるキラキラしたことを、最大限に見せてくれたような気がします。

実際の介護の現場では、この家族のようにはいかないかもしれない。
でも、これも実際にあった話。
痴呆症や老後に不安とある人は、是非観てほしい。
「ぼけますから、よろしくお願いします。」


一部ですが、今も全国で上映しているようです。

ちなみに、今回自分が観た作品は、2022年公開の完全版です。初回は、2018年に公開されました。
その作品なら、DVDと本で見ることができます。
本の方は、映画では見れなかった、現実的な問題も書かれていたりします。


そこに●●はあるか
愛でもネコでも、どちらでもOKです。

東のテツ

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