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口笛世界大会に出て考えた「臨床口笛」という名の“音楽解放”

こんなマイナーなトピックに目を止めてくださり、どうも有難うございます!貴方も相当なオタク気質とお見受けしました。何なら試しに「臨床口笛」とネット検索してみて下さい。おそらく上位全て私の記事かと…そう、口笛と医療を結びつけるなんて、世の中で私くらいしか考えてないのです。


これまでの投稿とこの記事の主旨

思えば、私がnoteに初投稿したこの記事⬇️以来…

その後に「舌圧測定」結果を纏めたレポート⬇️や…

オーラルフレイル(口腔の筋力低下)の中でも誤嚥性肺炎に繋がる可能性が高い舌筋の衰えについて、「口笛世界大会出場者+観客(共に口笛を吹く頻度が高い=普段から舌筋を鍛えている人達)は、一般の平均値よりも高い舌圧を記録するはず」との仮説を立て、それと矛盾のない結果を得た。

口笛の健康効果について~オーラルフレイル予防の観点から(金井・森山 2022)

「口笛が鳴る原理」の音響工学的な考察⬇️等を…

福井大学/森准教授の研究(2011)や、オーストリアの口笛仲間が撮影した自ら演奏中の口腔MRI画像(2019)を基に、口笛の音が鳴る原理を解明して、口笛を吹けない人が居る理由を考察。結論として、口腔機能に異常(歯の本数が少ない,舌が麻痺/自在に動かせない,唇をすぼめられない等)がなければ口笛は吹けるはずだが、口の中で音が鳴る形を正しくイメージできないが為に、口笛を吹く形を上手く作れない人が居るのではないだろうか。

『口笛の吹き方』~音響工学的な考察&誰でもできる練習法の試案(金井 2023)

色々発信してきましたが、そう言えば「臨床口笛」自体についてしっかり伝えていなかったと気づき、現在進行中の口笛オンライン世界大会と絡めて纏めてみよう!というのがこの記事の主旨です。

口笛世界大会に出場して考えたこと

この大会、私も参加していました⬇️

まだ開催中なのに過去形で書いたのは、上位25名が進むステージに残れなかったからです。この演奏に対する採点表がこちら⬇️

ジャッジの上2人が、アカペラ(伴奏なし)演奏に否定的

でも私、そう言えば前回(2021)もアカペラでした…凝りませんね(笑)⬇️

実はこれ"あえて"アカペラで吹いているのです。(ジャッジ曰く)伴奏ないと音程が難しくリズムも安定しない?・・・分かっていますそんなことは。しかし楽器と合わせたら口笛の良さが失われる気がして、私は嫌なのです。上手い人ならオーケストラとだって合わせられるでしょう。だけどそれは口笛でなくていい。他にも沢山の楽器があるのだから。

口笛が他の楽器と異なる所は何でしょう?・・・

①演奏できるメカニズムが見えないこと
②楽譜が読めなくても演奏できること
③脳内の音と体内に響く音を合わせること

「臨床口笛の基礎となる3要件」(金井 2024)

①はミステリアスですよね。私が音響工学的考察でご紹介した通り、演奏中に自分の口腔内をMRIで撮影でもしない限り、口の中で何が起こって音が鳴っているのか分かりません。(ちなみに日本で医療機器をそのように使うのは、倫理委員会の関係で不可能に近いです)そうなると通常の楽器演奏のように、行為と発音が対応しません。自分が口の中でどういう形を作っているか正確に分からないのですから。

なので②の通り、楽譜を読めるかどうか関係なく、自分の音を聴きながら感覚だけを頼りに音を変えてゆくしかないのです。

そうすると③のように脳内に流れる伴奏イメージを頼りに体内に響く音を合わせることになりますが、実は他人に届く音は、自分が聴いている音と違う(他人は、口笛がどこに向け吹かれているかという指向性に影響され、自分は、体内の骨伝導や口腔内反響の影響を受けるため)そうなのです。

だから口笛は(他の楽器と比べて)音程が不安定にならざるを得ないが、雑音を多く含むので何となく演奏になっている気がする…そんな適当な楽器です。私などは口笛のそんないい加減な所が愛おしくて、また雑音の量や混ざり方に個々人の身体的な特徴が反映されると考えて、口笛を個人認証に使う小説を書いてしまった程に、口笛が大好きなんです!

そんな愛すべき口笛を伴奏に合わせて吹くことは、私にとっては「"推し"が似合わない格好や役柄を押し付けられている」のに匹敵するショックです。だからアカペラの演奏にこだわっている訳ですが、最近さらに私のこの嗜好を後押ししてくれる学説と出会いましたので、以下に纏めてみますね。

絶対音感より相対音感こそ人間の特権

この本の冒頭で編著の大学教授(重野知央先生)が書いておられる趣旨を纏めると、こんな感じです。

鳥は美しい鳴き声で特有のメロディを奏で、様々なコミュニケーションを取っているが「調が変わると全く理解できない」との研究がある。これは鳥が「絶対音感」しか持っていないことを示している。だが、人間は変調しても同じメロディと認識する「相対音感」を持ち、これは人間に特有の能力だ。

「音楽する」は脳に効く~イントロダクションより要約

では人間にとって「絶対音感」とは何か? 新生児は絶対音感を持ち、視力が未発達でも両親などを判別できるが、成長に伴い、音の高低より「音の連なりと意味づけ」をひとつの塊と捉える「相対音感」が重要になってくる。つまり人間にとって絶対音感とは消去されずに残った残留能力なのである。

「音楽する」は脳に効く~イントロダクションより要約

こういう視点で口笛の審査を見ると「相対音感」を軽んじ過ぎていると思いませんか? 「絶対音感」は希少だから格好いいし、伴奏と上手く合えば音楽としても凄い!となります。でもそれは「口笛みたいに不安定な楽器をそこまで使いこなせてすごいね」という(音楽を専門とする方々からの)上から目線の称賛にしか聞こえないのです。「相対音感と正面から向き合う」という口笛の唯一無二な特質を全然称えていないじゃん!と思ってしまいます…ひねくれ過ぎですかね。

だから私はアカペラ(伴奏なし)演奏に拘ります。入賞とか…もはや出来なくて構いません。それより、口笛を吹くことで自分の中に広がる、豊かな音楽を楽しみたい。そしてその世界を(口笛だけで)聴く人達にも届けたい!…このことを表現したくて、私はアカペラを選択したのだと、書いていてやっと整理できました。

口笛を遠く 永遠に祈るように遠く 響かせるよ
言葉より確かなものに ほら 届きそうな気がしてんだ

Mr.Children「口笛」(桜井和寿 作詞 2000)

臨床口笛で音楽を解放し民主化したい!

こうして辿り着いた「臨床口笛」。前述の3要件を再掲し深めてみますね。

演奏メカニズム不可視 ⇒舌筋・口内筋を総動員 ⇒摂食・嚥下を保つ訓練
楽譜を読まずに演奏可 ⇒音楽を専門家から解放 ⇒声帯衰えても楽しめる
脳内音と体内音を合致 ⇒微小な技術で楽器演奏 ⇒脳で広範に血流が増加

「臨床口笛の基礎となる3要件」(金井 2024)

私が以前、娘と口笛で介護施設を回った時、看護師さんが言っていました。「普段は“あいうべ体操”とか摂食・嚥下に良くてもやってくれないのに、口笛はもう、あれから吹きっぱなしですよ!」と。声帯が衰えても伸びやかな音を出せるから、下手な口笛でも脳内には最高の音が流れているのです。

その(自分にだけ聞こえる)芳醇な伴奏に合わせて吹く口笛は、(手足が衰えても)毎日使うから衰えにくい、頭蓋骨の中だけで完結するわずかな動き歌より伸びやかな(高周波)音を奏でてくれる為、日本認知予防学会がグレードA(効果あり)と認める「楽器演奏」の中でも一番、脳の血流を広範に増加させるはず!…と確信しているので、いつかこの研究論文を書き、口笛の臨床効果をエビデンス化したいのです。(ご協力者を只今、絶賛大募集中!)

一般社団法人 日本認知症予防学会/エビデンス委員会HPより

これだけオンリーワンな口笛を「伴奏に合わせた方がよい」だなんて、ちょっと見くびりすぎじゃないでしょうかね。でも音楽の専門家はそういう立場を取るでしょうし、大会という立場的にも正解を出す必要があるので仕方がないのでしょう…分かります。でもだからと言って私が推す口笛に、似合わない服を着せて過小評価するのだけは見過ごせないので、私は「口笛はアカペラが最高」だけは譲りません。

YouTube口笛世界大会がクライマックス

そんなことを吠えながら…世界大会には出ますよ、これからも。入賞とかを目指さなければ、良いペースメーカーなので。だからせっかくの世界大会、最後に宣伝して、この長文を締め括りたいと思います。YouTubeの応募者から25人が第2ラウンドへ進み、さらにベスト10が選ばれています。

そして今大会のクライマックスがこの週末、15日(と公式HPにはありますが、米国時間が基準なので日本では15日夜23時)に最終結果発表があります。ご興味ある人はぜひ、公式のYouTubeチャンネルでご確認下さい。貴方もこの機会にいかが? ようこそ魅惑の口笛ワールドへ!

そしてつい先程、最終結果の発表がありましたのでそのセレモニー動画も載せておきますね。願わくば貴方と、次の大会でご一緒したいものです。

【大会の概要】
出場者:18ヶ国から64人(14〜70歳,平均38歳)
※うち29人が口笛大会に初参加
※14ヶ国に亘る作曲家の作品が演奏された

GWC2024 Final Award Ceremony より

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