隣のアイツは何してる?~ラボインタビュー vol.12 対話型検討会ネットワーク
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隣のアイツは何してる?~ラボインタビュー vol.12 対話型検討会ネットワーク

対話2

東京学芸大学Mistletoe(ミスルトウ)が取り組む新たな教育の試み、Explayground(エクスプレイグラウンド)。
Explaygroundには、子どもたちや学芸大を始めとした各大学の学生、教職員、地域住民などが参加し、今後、企業や行政などとの共同研究の核となっていく「ラボ」が多く存在します。
しかしラボにおける活動も、コロナ禍による影響を大きく受け、大幅に制限されたり活動自体を休止したりしています。
でも、何事にも学びはある。
第12回は「対話型検討会ネットワーク」のリーダー、渡辺 貴裕先生に話を伺いました。

このラボがどういう活動をしているラボなのかを教えて頂けますか?
 元々は私が教職大学院の総合教育実践プログラム(2015~2018年度はカリキュラムデザイン・授業研究コース)で行ってきた「対話型模擬授業検討会」が元になっています。大学院の中にとどまらず、外部から多くの視察者を受け入れたり、院生が実際に学校現場と関わり校内研修の充実に協力したりするなど、授業から発展して外部とつながりを広げていく動きもあり、それならばExplaygroundのラボという形にして、より身動きを取りやすくしようとしたというのがキッカケです。 
 ただ立ち上げたのがコロナ禍に入る時期、2020年3月でしたので「対話型検討会ネットワーク」と言っておきながら、ネットワークとして外に広がっていくような活動を実質できなかったっていうのが去年の1年間でした。
 2020年3月、「ラボ始動」というnoteを書いた時点では、学校現場や他大学から声をかけていただき、院生たちもやる気で、さあ動き出そうという頃合いでした。ですが、コロナ禍で学校に出入りするのが難しくなり、それどころかそもそも移動したり外出したりするのも極力控えるようになり、以前であれば京都教育大や福島大などとも交流していましたが、対面でのやりとりが全部ストップしちゃいました。
 去年はこんな感じでほとんど活動はできませんでしたが、一つできたのはオンラインでの取り組みでした。
 M2(教職大学院2年生)の院生有志が、兵庫教育大の教職大学院生らと互いの検討会の参観などオンラインで交流を行い、さらに、対話型検討会の紹介動画を作成してくれました(「対話型授業検討会とはなにか」)。そしてそれを、オランダの教員養成機関Marnixと兵庫教育大と東京学芸大の3者で開催したオンライン国際シンポジウムにおいて公開し、国際的な発信をしてくれました。その動画には通訳の方にオランダ語字幕をつけてもらってオランダでも公開しています。それが、去年できた数少ない活動ですね。

 ▼そもそも「対話型検討会ネットワーク」とは何ですか?
  このnoteにも書きましたが、従来学校現場で行われてきた、あるいは大学の養成課程で行われてきた授業検討会の多くは、「評価する/される」「指導する/される」「助言する/される」というモデルに則って行われています。「授業のここがよかった」「あそこはもっとこうしたらいいんじゃないか」とか。
 でもこれまで、そうやって議論してもいまいち何も変わっていかないし、下手したら険悪になったり喧嘩になったりしてきた。またそれを避けるために当たり障りのないことを言い合う形に陥っているそして形骸化しているようなのもあるので、それをもっと違う形にしようじゃないかというのが起点になっています。
 その違う形というのは、ざっくり言うと「もっと主観を大事にする」ということです。自分が学習者役になる場合は、学習者として「自分はこう感じたよ」「こんな風に頭動いたよ」とかを語る。実際の授業の場合には「自分はここですごくハッとしたよ」「なんかこの子どもの反応を見てエーッと思った」など。
 このような心の動きをもっと語り合っていこうじゃないか、そこから対話を始めようじゃないかというのが「対話型検討会」です。 
 現場の先生にしても学生にしても、ともすれば、「知っていること」を言い合っちゃうんですよね。「この教材だったらこういうところが落としどころになる」「こういう教材がこういうやり方もある」「こういう風ないい方法があって」「これこれはこうするもので」みたいに。けれども、それをぶつけ合っていても必ずしも良い方向に向かわないし、いっぱい知識持ってる者が勝ちみたいなのになっちゃうところもありました。
  そうじゃなくて、その場で起こったこと、その場で生まれた心の動き等などを大事にして、そこから何かを見つけていこうじゃないか、という発想に立っています。
  最近、雑誌『教職課程』の臨時増刊号にも「対話型模擬授業検討会 経験から学びを引き出すリフレクション」という記事で取り上げてもらったりしており、少しずつ注目されてきているように思います。
 
▼この取り組みを始めるきっかけや背景があれば教えていただけますか。
  実際の授業の場合でも模擬授業の場合でも、授業をもとに話し合うのはすごく面白いことのはずなのに、実際に行われてるのを見ると、いかに良いこと・それっぽいことを言うか、マウンティングしあったり知識をひけらかしたりする場になっていたりします。あるいは、それを避けるためにひたすら当たり障りがないことを言う、授業者自身傷つかないように言い訳に徹してしまう場になっていることもあります。それがもったいないなと思ったのがきっかけです。
 授業をやってみて、そこで何かしら起こった出来事があるんだから、そこから何かを見いだしていくってすごい楽しいはずなのに、それが出来てない・行われてないのが残念という意識があったのだと思います。
 
▼もともと教育自体を面白がっている人たち同士の場なのに、何か面白がってないという感じですかね。
  そうですね。授業をやってみて起こることは、本当は失敗も含めてすごく面白いもの、思考を刺激するもののはずなんですよね。
 対話型検討会そのものではないですが、架空の大学生らが登場人物になって模擬授業をやって、いろんな失敗もして、そこで起こったことをもとに話し合って学んでいく『授業づくりの考え方』という本を以前出版しましたが、この本のもとになってるのが、前任校での学生らの勉強会に同席した経験です。
  その勉強会で学生が模擬授業をすると、私から見ると「えっ、なんでそこでそうするの!?」みたいな、教材の扱いや授業の進め方の点で、とんでもないことをやってくれるんです(笑)。
 でもそのとんでもないことを「君、それ間違ってるよ。これはこうするもんだよ」じゃなく、「なんでそれだったらうまくいかないのか」「なんでそれだったら子どもの頭が混乱するのか」などから考えていくとすごい面白い材料になるんですよね。
  実際、学生らにとっても、自分自身がいま目の前で体験したことから話がつながって何か見えてくる、自然と理解が染みていく、そういう風な感覚があったのだと思います。 
 
▼この考え方を全国の教育現場に広げていく工夫や課題はありますか。
    オンラインの方が圧倒的に難しいですね。場を作る際はホワイトボードを囲み、写真のような感じで実施していますが、これそのものが対話型検討会での参加者間の関係性を表すものにもなっています。
  例えば、泳ぐ感覚というのは、一通り泳ぎ方を本で学んだら泳げるようになるのではありません。泳ぐ前に「泳ぐ感覚ってこういうものなんだろう」と理解してそれを実現するというものではないのです。とりあえず水の中でバタバタ手足を動かして、泳げるようになって初めて「あ、泳ぐ感覚ってこういうことなのか」って分かるんですよね。
  このような分かり方が身体知の特徴ですが、リフレクションを引き出すための対話をおこなうのも、一種の身体知と私は捉えています。なので、外部とコラボしたりして場と体験を共有しながら広めていくのが一番良いやり方かと思いやってきたのですが、一方で教員養成課程や教員研修の視点で考えると、そんな悠長なことやってても変わっていかないよ、と言われることもあります。たぶん両方のアプローチが必要なんだろうと思いながらも、まだ踏み込めてない領域ですね。
 
▼リフレクションを深める話し合いはオンラインでも試されていると思いますが、対面との違いや利点があればお聞かせください。
  オンラインの方が圧倒的に難しいですね。場を作る際はホワイトボードを囲み、写真のような感じで実施していますが、これそのものが対話型検討会の参加者間の関係性を表すものにもなっています。

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 一枚目の写真や図の左側のような「授業者に対してみんなが評価してあげる」「アドバイスしてあげる」という形ではなく、共通の目標である授業に関して、それぞれ立場こそ違えどそこに向かって肩を並べ合っているといった右の写真や図の右側のような形を、対話型検討会ではイメージしています。
 これがオンラインになるとどうしても難しいですね。
 去年、院生たちがオンラインホワイトボード(Miro)などを使いながら、オンラインならどういう検討会ができるかを模索しました。
 例えば対面でふせんを使う際、まず各自でふせんを何枚か書き溜め、模造紙などの上に出し、そこから並べ替えるやり方を取ると思います。
 これが対面で成り立つのは、書くときに様子が互いに何となく目に入ってて、模造紙上に並べた時にざっと一覧できて、気軽に手を伸ばしてふせんを動かせる、みたいな条件があるからです。これがオンラインだと、どこで何が起こってるのかわからない、誰が何を見ているのかがお互いつかめない状態になっちゃう。
 だからオンラインホワイトボードを使う場合には、Twitterやメッセンジャーでのやりとりみたいに、ふせんを吹き出しのように扱ってパパっと会話していく、それを同時多発でやる、といった使い方を学生達が試行錯誤していました。
 
▼例えば企業人や、授業を受けてる当の子どもたちが、その授業の検討会に入ってくるのは、関係性においてどうでしょうか?
  企業の方も子どもたちも検討会に入ったら面白いと思います。趣旨は少し異なりますが、ある私立高校と検討会で実際にやってみたのは、「一コマ生徒体験」というアイデアです。
 通常の検討会は、それに先立つ授業参観のとき、クリップボードみたいなものを持ち教室の横や後ろに立って観察するのが一般的なんですよね。それを、傍らに立って観察するぐらいだったら生徒の中に入って一緒に授業を受けたらいいんじゃないということでやったら、すごい面白かったんですよ。
 実際に数学の授業を一緒に受けていた体育の先生は、「次の問題がわからない」「答える順番迫ってくる」「どうしようどうしよう」みたいに本当に焦ったそうですし、英語の先生がフットサルの授業に本気で参加したら、普段はサボりがちだった生徒が発奮して「あいつが本気でやるなら俺も本気でやる」みたいになったりとか。
 
 このように、生徒が置かれる緊張感を実際に味わったり、先生という立場をいったん脱ぎ捨てて生徒の中に入って一緒に学習者の立場を体験してみるような形は、先生じゃなくてももちろんできます。
 企業の人や外部の人が学校に関わる時にも、外から見て傍らに立って観察するのではなく、実際に生徒らと机を並べて一緒に授業を受けて、その体験やそこで得た生徒たちの様子をもとに交流する方が楽しいし、色々なことが出てきそうな気がします。授業を受けた子どもが検討会に参加するというのも、きっと面白いですよ。本格的な形ではまだ行えていないのですが、小規模で数名の子どもたちに授業を受けての感想を話し合ってもらうと、「そんなふうに受け止めていたのか」とハッとさせられる内容が出てきたりしていました。
 
▼なるほど。対話のベースには信頼の土俵がある気がします。
信頼があるからそういう対話ができるのか、対話している経験が信頼を育んでいくのか。両方あるでしょうね。

  よく尋ねられる質問というか批判に、「これは、教職大学院というみんな同じ立場、同じような年齢の人たちの間だからできることじゃないか。学校現場は、教員の経験年数も年齢も全然違うんだからこうはいかないんじゃないか」というのがあります。
 一理ありますが、むしろ学校こそ、言いたいことを言い合える、気楽に互いの思いを交わせる、そういう場にしていく必要があるんじゃないですか、そのときにこうした対話の持ち方は1つの手がかりになりますよ、とお伝えしています。
  一緒になって体験することはとてもいいことです。授業の構想を他の先生方らと共に考えるときに、「指導案検討」という形で意見を交わすのではなく、学習活動を一緒に体験して「自分はここでワクワクした」「自分はここで『えっ』と思った」などと感じたこと・考えたことを出し合う形にするだけで、話し合いのモードが変わります。
 ちなみに、行政の偉い方や議員さんが視察にいらした場合も、私は基本的に学生のなかに入ってもらうようにしています。学生のなかに入ってもらい、例えば学生に「今日の活動、あれどういうことやってたの?」などと小グループに分かれたなかで聞いてもらう。学生がそれに答える。
 学生にとっては、外部の他者に対し、自分たちがやっていることを言語化する機会になるし、視察に来た人も気楽な形で話を聞けます。公式のカッチリした視察の場合ほど、そんなのやっていいのかなと躊躇しちゃうかと思いますが、実際にはすごく好評です。
 そうそう。ラボ支援金で作らせてもらった冊子「院生が答える! 対話型模擬授業検討会Q&A」も好評です。現場の先生が蛍光ペンで印つけて読み込んで下さっていたりしていて非常にありがたいです。 

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▼最後に。コロナ禍ではまだ難しい面もあると思いますが、近日こういうところから始めたいとか、こういう形で再開したいなどがあれば教えてください。
 大きな形としては、教職大学院総合教育実践プログラムでは、M1の間にこうした検討会のスタイルを全員が経験し、M2では特に関心を持ってる学生が「カリキュラムデザイン・授業研究Ⅴ」という授業を取ります。対話型検討会ネットワークのラボは、このカリ授Ⅴの授業を取っている学生たちが中心に活動してきました。今後もそうした学生らが中心になるかと思います。
 ちなみに今年度に関しては、学生らがこんな動画を作ってくれました。これは教職大学院総合教育教育実践プログラムの紹介動画で、対話型検討会そのものの紹介ではありませんが、こんな形でお互い対話しながら学んでいることは伝わるかなと思います。
 教員養成や教師の成長に関するイメージとして、正解を持っている人がいてそれをその人が伝授していく図式で捉えている人がまだまだ多くいます。
 対話型検討会ネットワークは、対話型の検討会を大学や学校に提案して相互のつながりを役立てられるようにするのがメインではありますが、より広く、教員養成における学生の学び方とか学校における教師の学び方を変えていくことにもつなげていけたらなと考えています。
 (了)

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インタビュアー:Explayground
編集:フジムー、ミーコ
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●これまでの連載
vol.1 変人類学研究所
vol.2 codoschool
vol.3 Edu Coaching Lab
vol.4 EXPitch
vol.5 武蔵野らぼ & グローカルジオラボ
vol.6 授業研究ラボ「|IMPULS」
vol.7 VIVISTOP GAKUGEI準備室
vol.8 東京学芸大学ヒューマンライブラリー
vol.9  金文ラボ
vol.10 Möbius Open Library
vol.11  防災教育ラボ



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