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隣のアイツは何してる?~ラボインタビュー vol.5「武蔵野らぼ」「グローカルジオラボ」

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東京学芸大学Mistletoeが取り組む新たな教育の試み、Explayground(エクスプレイグラウンド)。
Explaygroundには、子どもたちや学芸大を始めとした各大学の学生、教職員、地域住民などが参加し、今後、企業や行政などとの共同研究の核となっていく「ラボ」が多く存在します。
しかしラボにおける活動も、コロナ禍による影響を大きく受け、大幅に制限されたり活動自体を休止したりしています。
でも、何事にも学びはある。
第5回は、先日2つのラボを立ち上げた椿真智子先生に話を伺いました。

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まずは椿先生が立ち上げたラボをご紹介いただけますでしょうか。

具体的な活動はいずれもこれからですが、無謀にも「武蔵野らぼ」と「グローカルジオラボ」という2つのラボを立ち上げました。
「武蔵野らぼ」は名前のとおり、武蔵野、言い方を変えると武蔵野台地を舞台にしたラボで、地域をある程度限定しているイメージです。徹底的にローカルにこだわり、場所に根ざした実際の体験・経験をみんなで共有するっていうところに重きを置きたいと思ってます。

小金井や周辺地域では、武蔵野に関する自然や文化・歴史に興味関心を持っている方が多く、NPOや研究会などがたくさん存在しており、私自身も地理学を専門としていることから、大学の公開講座や市民講座を担当したり、学芸大キャンパスや周辺地域を案内する市民の方向けのスタディツアーを、学生や院生と企画したりしてきました。
しかし学芸大生の多くは4年間、人によってはそれ以上この小金井キャンパスにいるのに、周辺地域のことをよく知らないまま卒業してしまう。
私たちは現場でフィールドワークをするのが信条なので、学生たちが周囲を知らないで卒業していくのは、日頃からもったいないなと思っていました。
またフィールドワークもただ見て歩くだけじゃなく、色々な人たちとコラボして、お互いの知識とか情報・経験を交換しながらやることにすごく意味があると思っています。

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そういうことをそれぞれがバラバラにやっているだけでは凄くもったいないなあと日頃から感じてました。ゆる~い感じで横のつながりができ、何かあったときにみんなで集まってワイワイできたり、場合によっては専門的な研究成果の発表の場にできる拠点やたまり場的な場所・機会があるといいですよね。このようなことを考えている際に、ほかのラボの話を聞いたり活動を目にしまして、金子先生(ジンズー)に相談して2つのラボを創らせて頂きました。

もう1つの「グローカルジオラボ」は、私が文化・歴史地理を専門としていることから、文化的な事象や日常的な感覚を時空を越えて共有するラボです。
土台は武蔵野ラボと共通なのですが、実際の生活体験とか場所体験を大事にしたいと思っており、このコロナ禍でオンライン中心となったなか、余計にそういう体験・思いを共有できる場っていうのが必要じゃないかと思い立ち上げました。
グローカルジオラボは、文字通りグローバルとローカルなので、対象は地域限定ではなく、もうそれこそ身近な地域でもいいし日本全国や世界のどこでもいいと考えてます。

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グローカルジオラボを立ち上げたもう一つの理由は、私の所属は社会科なのに、まわりの学生が、一部を除き、意外にも留学生となかなか積極的に交流してくれないという悩みがありました。
今はコロナの影響で留学生はほとんど来日していないのですが、本学には約30ヵ国から年間200名を超える留学生が毎年来ていました。
私自身はかつて留学生センターや今もキャンパスアジアに関わったりして、留学生と交流する機会が結構多く、学生をみていてもどかしいなあと。
また毎年ゼミにも留学生を呼んだりするのですが、なかなか日本人学生との活発なコミュニケーションが生まれない状況を長年みてきました。
日本にいる間もそうだし、留学生が本国に帰ってから同じ大学生として、例えばコロナのこの中でどんな思いで日々を送ってるんだろうみたいな、日常的でありふれたことなども、わかってるようで全然わかりません。
本国に戻ってしまった留学生にも、先生になる学生は少なからずいますし、海外の学校で教えている卒業生もいるので、日常体験や学校や学び、子どもたちの様子などを寄せてもらい共有する活動ができればと思い、グローカルジオラボを立ち上げました。
こちらはオンラインのメリットを最大限に活かしたいですね。
ただいずれの活動もまだ企画段階なので、これからという感じです。ただ今月から「SDGs✕環境」セミナーin Gakugeiをオンラインでスタートします。創造力あふれる刺激的なお話を提供できたらと思ってます。

ありがとうございます。同時に2つも始めるのはすごいなと思います。実は私、国分寺市出身で小学生から大学くらいまで国分寺市に住んでいましたので、武蔵野ラボにとても関心があります。それこそ小学3年の時は国分寺市の歴史とか近隣市町村、4年になったら東京都や都道府県について勉強した覚えがあります。

小学校3年生で身近な地域を学習します。私が学生たちを日々案内しているような中身も、実は小学生の方がよく知っていて、その親御さんは全然知らなかったりすることがあります。これもまた面白いですよね。
一昨年とその前年、本学の公開講座やワークショップに親子や多様な世代の方に来ていただいて、立川から世田谷までつながっているハケ・崖線を題材に、地形図を大きく引き伸ばして色を塗ったり、ムジナ家族がどこに住むのがいいだろうと考えたりなど、ゲーム感覚で学ぶ試みをやってみました。
そうすると、親世代と子供世代とで経験が違う面と、意外と時代が違うのに同じようなことやっているなと思う面があったりして、すごく面白いと思った次第です。ということなのでぜひ、色々と関わっていただければありがたいです。

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公民館やカルチャーセンターを利用した活動で、地域や地形、地形に関係ある地域性などを学ぶ機会があるのではと想像します。
今回の活動との違いや注力したいポイントがあれば教えてください。

確かに私も国立や国分寺、小金井など、いろんな市民講座でお話しさせていただくことがあります。一般的な市民講座ですと成人、特に比較的ご高齢の皆様を対象にすることが多いので、このラボでは学生や院生、子どもたちも巻き込んでやるなど、スタイルや対象者を広げたり変えた形でやってみたいと思っています。

あと冒頭申し上げたように、既に色々な活動をされている団体組織もあるので、そういう方々の経験や知見をどこかで結び付ける場があればいいなと思っておりました。
多分シンポジウムとかワークショップなど複数の団体の方が一緒になる機会はあると思うのですが、それぞれ発表されて終わっちゃうことが多いので、日常レベルでフランクにお互いの活動とか悩みとかを話し合い、組織間を結びつけるような活動ができたらいいなと思っております。

椿先生はどうしてそういうジャンルに興味を持たれたのでしょうか。

武蔵野や周辺地域が研究フィールドということではなかったのですが、学芸大学での在籍期間がすごく長くなっちゃいまして(笑)。なので必然的に授業やゼミでこの周辺地域でフィールドワークすることや、学生と一緒に歩くことも多くなりました。
例えばタモリさんの番組じゃないんですけど、単なる崖だと思っていた場所が実は歴史的や文化的にみると、文学者とか画家がある時期に移り住んできて、アトリエを構えたり別荘を作ったりしていたとか、多角的に見ていくと単なる崖じゃない文化環境だったということがどんどん分かってきたりします。
見方変えると意外と面白い。色々な発見ができるという体験を、皆さんにも経験してほしいと思うことがすごくあり、日々の教育活動の中でやってきたって感じです。

私がいま住んでいるエリアは、自転車に乗っている人をほとんど見かけないくらい平らなところがなく、坂だらけなんですよね。みんな車やバスを使って移動する感じなんですけど、多摩地区は基本的に平らで、自転車だらけじゃないですか。なので崖やハケなどがすごく特別な場所というか、自転車を押して上がったり降りたりしないといけないみたいな、特殊な意味があるような気もします。

そうなんです。通勤通学や買い物などで、毎日ハケを上り下りされている方って結構いるんですけど、そういう方たちに話を聞くと、ハケをガーって自転車で降りるともう空気が全然違うっていいますね。
温度も違うし風も違う。匂いも違うというんですよ。こういうことは本当に体験されたことがないと分からないので、日常体験・生活体験みたいなことを、何でもないような場所と結びつけると結構面白いなあと勝手に思っております。

お話を伺っていると、LivingAnywhereという別のプロジェクトとも上手くつながる気がしました。少しだけLivingAnywhereの説明をさせてください。
LivingAnywhereというのは、文字通り「どこにでも住める」ということなんですけど、定住からの解放といいますか、場所にとらわれずに好きな時に好きな場所で暮らすっていうライフスタイルはアリなんじゃないかと、そういうふうに暮らしていくにはどうしたらいいんだろうみたいなことを実際にやってみたり、そのための課題解決みたいなことをやっていくプロジェクトです。
最近でこそ、コロナ禍でアドレスホッパーやホテル暮らし、会員制で月3万円ぐらい払うと全国のあちこちに泊まり歩けますよみたいなサービスが出てきたりしてますけど、そういうのがまだ一般的ではなかった4、5年前から始まったプロジェクトです。
このプロジェクトを進めていると、改めて住む場所の意味みたいなものを考えるようになって、何で僕はここが好きなんだろうとか、何故ここに住んでいるんだろうなど、居心地みたいなことや、その地域の人たちとのつながりなどを改めて意識するようになったと思っているんですね。

なるほど。場所に対する愛着は、私の中で結構こだわっている部分なので、すごく通じると思いました。
別に場所に対する愛着というのは固定的なものに限らず、いま伺ったように住まい方もどんどん多様化していると思いますし、一方でコロナの影響で身近な地域に対する眼差しもまた強まっているような部分もあるのかなと思ったりもします。すごい興味深いですね。

コロナ禍の影響で、社会的にも暮らし方がだいぶ変わってきているところもあると思います。
例えば今まで会社に長い時間いた人たちが、急に自宅で長い間過ごすようになり、改めて家の周りとか歩くことが多くなったりとか、自分の地域のことを意識するようになったりしている人も多いんじゃないかなと。
椿先生がこの活動をやっていくに当たり、リアルな活動が中心になると思いますのでやりにくい面もあると思いますが、これから向こう半年や1年、どういう風に動かれますか?

そうですね。この状況下で現場に大勢で行くのはなかなか出来ないのは確かです。
なので1つは写真の活用。地理では教材としても素材としても写真をよく使います。写真は媒体に過ぎず、一枚の切り取られた景観というか風景でしかないんですけど、逆に言えば切り取り方とかその1枚に込められた思いとか、実は1枚の写真で色々なことを語ることができます。
例えば景観写真や動画を使い、みんながその場を実体験できなくても、ツールを通して場所体験を共有することはできると思っています。

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どういう写真を鑑賞するのですか?崖の写真とか?

例えば学芸大周辺だと同じ住宅地域の写真といっても、江戸時代の新田開発の細長い地割が今もたくさん残っています。そういう新田開発の集落にできた新興住宅地と、江戸時代前からあるもっと古い集落にできた新興住宅地では、同じ新興住宅地といっても景観が全然違うんですね。

例えばその2枚の写真を比べただけでも、「家の形が違うよね」「大きさが違うよね」だけじゃなくて、その場所の履歴とか、自然環境などが色々見えてくる。誰が見てもわかるっていうこととはちょっと違う視点なのですが、そういう意外な発見や面白さがあるんじゃないかなと思ってます。

あとコロナの影響で、附属の各学校では地学実習が行けなくなり理科の先生は悩まれています。行ってみるのが一番なのですが、代わりにVRの利用も検討したりしていますので、そういう学校の先生方と一緒に考えてみるのも面白かと。VRで「全国崖めぐり」とかしてみたいですね。

いいかもしれませんね。凸凹学会とか近年、結構注目されてますよね。崖は災害地にもなるのでやっぱり良い面だけではないですが、色々な視点で見ていくのも面白いかもしれません。我々も春学期に各教員が巡検というのをいつもやっているのですが、コロナ禍で予定通りにはできないので、自分で歩きながら写真撮影して、学生に見てほしいポイントを動画で示すとかをやり始めてます。

動画といえば、ブラタモリも相変わらず人気ですし、身近な近所の話題を取り上げる散歩雑誌や旅行ガイドブックが、地元の良さなどを再発見したいという人たちに支持されヒットしていますね。

いま本当にそういうものに対する関心って高まっていますよね。身近な地域もそうですし、歴史好きはほんと世の中にいっぱいいますよね。地理・地図好きって、一定数いると思うのですが、歴史ほどはメジャーでないですね。でもブラタモリはまさに地理じゃん!って我々はいつも言ってるんですね。
歴史を地形とか地質とかで説明していくことへの関心は今、確実に広がってますので、やっと市民権を得つつあるなって感じです。

私が思うに、ブラタモリが何であんなにヒットしているかって、タモリさんの魅力にくわえて、坂道のこういう傾斜のところは昔はきっとこうだったっていう、地域や場所固有の特徴もありながら、どこでも通用する法則性とか一般性の両方を知ってるってことが、場所が変わっても絶対説明できちゃうことにつながり、誰もが納得できる答えを示してくれるからだと思います。
地理学分野の人間は、地理って昔から地図だとかその地形がどうのこうのなんてみんな普通に言ってはいるのに少々真面目すぎな感じで、地理って一体何なの?と言われたりします(笑)。世の中受けする表現方法というかプレゼンの工夫が足りないのかもですね。

私は大学受験の際、地理を選択したのですが受けられる大学が少なくてちょっと困りました。

確かにそれありますね。来年度から地理総合がやっと高校で必修化されるので、ちょっと変わってくれるかなと思っています。うちの社会科も一貫してやっぱり歴史好きが多いです。

逆に言うと地理って何でも結びつく可能性がある気もします。

そういうふうに言っていただくとすごく良い感じがする反面、捉えどころがないみたいな(笑)でも、とっても大事なことを指摘してくださいました、まさに「関係性」なんです。崖は湧水とつながり、湧水は生きものや人の暮らしとつながる、でも時には水害も引き起こす・・・いろんなことが場所や大地をベースに関わりあい、時空一体、人の経験や思いもつながります。

今後、何か活動を進めていく上でExplaygroundがお手伝いできることや、活動していく上での課題みたいなものはありますか。

そうですね。まだラボのイメージができていないんですが、皆さんがどういう活動をしているのかが、もう少しわかるといいなと思っていました。

学芸大キャンパス内に来春、Explaygroundの拠点が立ち上がります。そこに集まって頂き、他のラボの方たちとコミュニケーションを取って頂けるといいなと思っています。また、コロナ禍でほとんど使えてないのですが、本部棟1階にフリースペースを設置しました。ガラス張りの部屋なのですが、誰でも入れますので是非お使いください。

少し話をさせて頂いただけでも、結びつくなあと思う活動内容を伺えました。確かにほかのラボが、何をどんな風にやっているのか、どんな連携を取っているのかなど、そういう情報があるといいかもしれませんね。

正直今まではあまりラボの間での交流というのがイマイチできていなくてですね、それがコロナで余計できなくなっちゃったという状態ではあるんですよね。基本的にExplaygroundは、それぞれ集まってきた人がやりたいことをやり、遊びまくり、その中から学びを得ていく。あるいは、遊びから学ぶということを普遍化していくみたいなところがあるので、色々なジャンルの興味あることをそれぞれ堀り下げていくのが基本形になりますが、一人で研究していればいいよねとなってもExplaygroundでやる必要性があまりなくなります。
なので本日の話みたいに、そういう活動なら僕がやっているのと関連付けると広がりが出てくるねとか、こういう視点から考えてみると今までと異なる掘り下げ方ができるんじゃないかとか、横に広がることも追求していきたなと思っています。

短時間で話を聞いただけでも、クリエイティブな新しい発想というか、柔軟な発想でもってやってらっしゃるんだなということはすごく伝わってきました。
なのでラボ同士がちょっと交流できる場があると、それぞれの創造力や発想を刺激として受けられる可能性があるのではと思います。
普段、大学のなかで日常的にそういうワクワクする場ってやっぱりなかったと思うので楽しみにしています。

(了)

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インタビュアー:フジムー、ジンズー、ミーコ
編集:フジムー、ミーコ
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●過去記事
vol.1 変人類学研究所
vol.2 codoschool(こどスクール)
vol.3 Edu Coaching Lab
vol.4  EXPitch


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