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隣のアイツは何してる?~ラボインタビュー vol.2「codoschool(こどスクール)」

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いつだって世界を変えたのは変わり者だった。
東京学芸大学Mistletoeが取り組む新たな教育の試み、Explayground(エクスプレイグラウンド)。
Explaygroundには、子どもたちや学芸大を始めとした各大学の学生、教職員、地域住民などが参加し、今後、企業や行政などとの共同研究の核となっていく「ラボ」が多く存在します。
しかしラボにおける活動も、コロナ禍による影響を大きく受け、大幅に制限されたり活動自体を休止したりしています。
でも、何事にも学びはある。
この1年、各ラボがどのような活動を行っていたかをオンライン取材。
第2回は放課後を中心とした学校外教育の新しいモデルを、実践的に研究開発している『codoschool(こどスクール』。
その中心的存在である田嶌さんに話を伺いました。

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●ラボ設立の経緯

学芸大の児童・生徒支援連携コンソーシアムで特命助教をやらせていただいてます田嶌です。よろしくお願いします。
僕の所属している児童・生徒支援連携コンソーシアムというところは、2015年度〜2019年度まで設置されていた児童・生徒支援連携センターでの取り組みを発展的に継承していくために2020年度から設置された組織となっています。児童・生徒支援連携センターでは、「子どもの貧困と教育」「学校教員・教育支援者養成」といったことを中心的なテーマとして様々な研究開発に取り組んできましたが、個別の取組みの中の一つに、大学の中に放課後児童クラブ(学童クラブ)を設置して、同じ大学の敷地内にある附属小金井小学校の学童クラブとして運営をしながら、放課後教育のモデルを開発するという取り組みがありました。

その研究を進めている過程で大学のほうでは大きな枠組みとしてExplaygroundが立ち上がったところで、ラボとしてもどうかいう話をいただいて、連動させてやらせていただいております。

●どんな活動をしていきたいのか

すごく大きく言うと「子どもの放課後をもっとおもしろくしたい」という思いを持って研究開発をしているラボです。
放課後は発達段階・学齢期によって状況はさまざまですし、また横をみても学童クラブだったり、放課後子ども教室というようなものであったり、民間の習い事であったり、地域で遊んだりと、いろいろな状況があります。
その内の1つである学童に焦点を当て、面白くできないかとやってきたのがこれまでの取り組みになっています。

もう1つ、小学校1年生から3年生を対象にした学童クラブに加えて、昨年度からは、小学校4年生以上や中学生高校生も対象にできるような新しい放課後フィールドというのを、武蔵小金井駅前に新しく建ったマンションのコミュニティスペースで開発していく取り組みを進めています。

なのでこのラボの取り組みは、もともと大学の研究プロジェクトから立ち上がった取り組みで、引き続き大学の研究プロジェクトの中でもやっているものにもなりますが、Explaygroundのラボとしても動きを作りながら、特に学外の放課後を面白くしようということを考えている方も多く募りながら進めていこうとしている、といったものになっております。

現在のメンバーは、学内から教員として金子嘉宏先生(東京学芸大学教授)や正木賢一先生(東京学芸大学准教授)がいるほか、公認サークルcococolors(ココカラーズ)の大学生たちが20名ほどいます。また、学外メンバーとしては学童の運営を業務委託している株式会社パソナフォスターさんや運営スタッフとして関わってくださっている地域の大人の方々に入っていただいています。

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●学童のいま

コロナ禍で変わってくる可能性はありますが、これまでは夫婦共働き家庭がすごく増えている状況で、全国的に学童の利用者も増えています。

学童には、民間が運営しているいわゆる民設民営の学童と公設の学童があり、メインは公設になっています。
公設の所管は厚生労働省になっており、事業の性質としては親御さんへの働き支援的な文脈が強く、一般的には家庭の代わりに子どもを預かりますという性質が非常に強い場になっています。この点で考えると、まずは安全に子どもを見守りますという観点が優先される状況が広く広がっています。

しかし教育的な観点で見ると、それだけ多くの子どもたちを預かっている場所は、見守り以上にもっとできることがたくさんあるんじゃないかという視点からやってきたっていうところはあります。
実態としてはまだまだ安全管理をしながらやっていく方向性が強いなかで、少しずつ研究を重ねながら、子どもたちが多様な体験をでき、いろんな人と関わりながら成長していけるような面白い場を、そこに関わる人材の養成という要素も合わせて開発することで、多くの子どもを預かる場となっている学童の運営モデルを作り、社会的に学童という場がもっと面白くなるといいな、とそんな思いでやっています。

実は僕自身、スポーツの研究が専門です。放課後の研究プロジェクトは松田先生(東京学芸大学副学長)から立ち上げ時にお声掛けいただき、関わることになったのですが、初めて取り組んだ時はほとんど学童のことを知らなく、いちから勉強し始め、やっていく中でいろんなことを学ばせていただいて継続している状況です。

学んでいくうちに、公設のいわゆる一般的な学童は予想以上に管理運営や安全管理によっているという印象が強く見えてきました。
学童は基本的に子どもたちがかなり自由に過ごせる場所で、本来ならたくさん色々な面白いことができる環境は整ってるんだけれども全然進んでいないという、そのギャップが面白いなと感じています。

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●コロナの影響

まず第一に学童がある学芸大小金井キャンパスでは、外部からの入構を制限する措置が取られた時期がありましたので、それに伴い学童の運営も1カ月弱ぐらい中断されました。その部分では非常に影響を受けたと思います。
その間の取り組みとしては、Zoomを使ってオンライン学童という実践をスタッフの方にやっていただいたりしました。

また僕は、生涯スポーツ専攻の授業をいくつか担当しているのですが、ある授業では、大学生が運動遊びを企画して学童の子どもとやることを通じて、教育支援の実践力を養うというような演習形式の授業を行っています。この授業では2019年度までは実際に子どもたちと対面して運動遊びを行っていたのですが、2020年度はオンラインのコンテンツを作ってやってもらったり、ライブ中継で子どもに関わってもらったりという形で、オンラインツールを活用しながらやる実践をいくつか積み重ねてきたので、そういうところの逆に新しさと面白さも見えてきたかな、というところはあります。

ラボ活動としては、オンライン定例ミーティングを現場の方とは隔週のペースでやってきたのですが、金子先生や正木先生、より広い外部の方に参加していただきながら研究を進めていくことを昨年度中はできていなかったので、今年度は進めていきたいなと思っています。

研究開発は実践的な内容が多くなっています。学童の方では月一回ペースで親子会を開催しました。リアル参加が難しい方に対しては、オンラインでも参加できる形式にしたところ、意外とできるという感触はつかめましたし、オンラインとリアルを合わせてハイブリッドみたいな形でやっていく、そういうノウハウもかなり蓄積されたという感じがあります。参加して下さっている親御さんからも、オンライン参加できるものは残してほしいという要望もあり、このあたりは継続してやっていけるのではないかなというふうに思っていたところです。

実は先ほどお伝えした、小学4年生以上のフィールドも少し動き始めていまして、こちらは子どもたちがより多様な活動をしていくことを支えていけるような環境を作ろうと開発を進めています。
こちらのポイントになるのが、運営をお願いしているパソナフォスターさんのネットワークを活かした形で企業の方にいろいろ関わってもらう点になります。これはExplaygroundの取り組みとも似てますね。こちらも「ミラクルラボ」という名称で活動しており「ラボ」いう名前が付いています。

ここでは企業の方々に、子どもと一緒になって取り組んでみたい社会課題、解決したい社会課題とか、新しく生み出したい価値みたいなものを持ち寄っていただき、それに大人も子どもも関係なく一緒になって取り組むことができるようなフィールドをつくることを目指しています。プロジェクトベースドラーニングの手法を用いながら取り組んでいくような枠組みになっています。
昨年度の実績としては、JリーグとかBリーグなどのようにMリーグという形で競技リーグをおこなっている麻雀のプロリーグであるMリーグさんがテーマを持ってきてくださり、子ども達と取り組みました。
麻雀はまだまだ社会的にはダーティーなイメージがあります。しかし昨今は、ゲームとして非常に頭を使いますので、マインドスポーツみたいな呼ばれ方もされ始め、非常に奥の深い、しかも学びのあるゲームなんじゃないかという考え方もされています。しかし子ども世代ではやってくれてる人たちが少ないから、子どもでやってくれる仲間を増やしたいというテーマでラボ活動がスタートしました。
実際にそのラボ活動に参加した子どもが、Mリーガーというプロ選手に麻雀を教わり、結果的に麻雀はめちゃくちゃ面白い!となってくれたりしたんですけど、楽しさを味わった上でそれを広めていくプロジェクトとして3カ月ぐらい運営しました。

これは1つの例ですが、さまざまなネットワークを使いながら子どもたちが大人といっしょに何か取り組みを進めていける、それが放課後の面白い1つの姿として存在している、なんかそういう場所を作りたいということでやっています。

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●公立に広げていくこと

学童の方は、開発した運営モデルを発信して、全国各地の公設学童運営の参考にしていただけるようにすること、つまり、成果の発信と普及が大きな課題の1つだよねという話がラボ内でも出ています。
簡単に見ていただけるハンドブックみたいなものを作成し発信していくことは考えています。また、各自治体の放課後児童支援員の資格認定に関わる研修についても、内容をしっかり作りながら、指導員・支援員の方々の資質能力向上に寄与できるように展開していけたらという話が出ているところです。
大学の所在地である小金井市の学童クラブの指導員さんや担当している市の職員の方々などとは不定期で情報交換をさせていただいています。これまでには、運動学講座の森山先生にご協力いただき、水泳のプログラムに大学の学童の子どもたちと、大学から一番近い小金井市の本町学童の子どもたちが一緒に参加するといった取り組みを行ったりもしました。

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●メッセージの届け先

ひとつはパソナフォスターさんが都内の数自治体で学童の運営をされているので、学芸大でやっていることを、各地域の実態にあわせ担当されている自治体のスタッフにもできるようにアレンジしていただいたりしています。
あとは民営の学童にこちらからアプローチするのは難しいところではありますが、我々の活動に興味を持ってくださっているかたは民間でも結構いらっしゃっいますので、色々なセクターの人たちと一緒に考えていけるラボとして展開していけたらその先の戦略もいろいろ出てくるかなと思っております。それこそ今はオンラインなら集まりやすくなっているような状況があるので、声掛けをしながらやっていけたら思っています。

●効果の測り方

これも取り組みたい課題の1つです。僕自身が効果測定の手法を用いることにあまり慣れていないので、仲間や先生方とチームを組みながらやっていけたらと思っています。まだそんなにしっかりしたデータはないのですが、学童の方もラボの方もインタビューを行ったり、アンケートを取ったりして結果を少しずつまとめはじめています。これをまとめつつ、データとしてこういう観点があるといいというようなアドバイスをいただいたり、他の学童にご協力いただいて比較していくことなどができたりすると、研究という点では精緻になっていくと思っておりますので、今後取り組んでいきたいなと思っているところです。

●学童ならではの要素

まさに検証が必要ですし、低学年を対象にした時と4年生以上を対象にした時では変わってくるとは思いますが、低学年を対象にした場合は、基本的には「おかえり」みたいな感じで子どもたちが帰ってくる場所が学童だと感じています。

子どもたちが過ごす他の場との比較でいうと、学校教育だったらカリキュラムというものがあり、習い事も基本的なプログラムが先に整備されてることが多いと思いますが、この年代にとっての学童は、プログラムが先にあるというよりは、集団で生活するみたいなことがベースになり、場所や環境が先にあるのかなと思っています。

子どもの活動をよりよい方向に導いていけるような支援や環境を、コンテンツに縛られることなく設計していくというアプローチは、学校より学童の方がとりやすいのかなと思います。

●企業との協業

学芸大の学童は、パソナフォスターさんと共同研究契約を結び、運営も業務委託しておりますので、そことの関係とラボの枠組みをどうするのかについてはちょっと整理が必要なのかなと思っています。
できればラボの方は、利害関係に囚われずにどういう風に子どもの放課後をよくしていけるのか、ということについてフラットな形で自由な意見を交換できる場にしたいなと思っています。

4年生以上のミラクルラボの方は、一発目が麻雀だったので尖っている感が出てたんですけど、今後も色々な取り組みができるよう動いてます。
町おこし×アートみたいな取り組みとか、企業のブランドイメージを絵にしてみる取り組みとか、小金井市内で地域を盛り上げられるアートプロジェクトができないかなどのアイデアが出ています。
また企業との協業だけじゃなく、地域の観光協会やNPO団体、行政などのプロジェクトとラボ活動の連携も検討しています。

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●子どもとの関わり方の違い

教育課程がないことは、やっぱり大きいと思います。子どもたちとより自由な関わりを持てることと、これに関連しますがフラットな関係で一緒に活動できる。
同じ目線で遊んだり、同じ目線でおやつの準備したり、より横の関係になりやすい感じはすごくしてます。
また子どもたちの考えや思ってることが、より素の状態でポンポン飛んできて聞かせてもらえる環境ですね。学校のことを愚痴も含めていろいろ聞かせてくれる。逆に学校では学童のことも言ってるのかもしれないですけど、先生のこととか友達関係とかそういうことがより出てくる。
あとはスタッフも保護者の方と学校よりさらに距離が近くやり取りしているとも思います。
多分、保護者のみなさまにとっては学校の先生に言ってしまうと子どもの評価に関わってしまうみたいな意識が結構強く働いてるのかなという感じはするんですけど、実は学校の先生には言いづらいみたいな悩みを相談されることもあります。
放課後のフィールドは、そういう子どもの悩みとか家庭の悩みとか親御さん自身の悩みとか結構出てくる印象がありますね。
学芸大キャンパス内で学童の取り組みが始まって5年以上経ちますが、当初から学校の先生に有益だと思ってもらえる情報をどれだけ伝えられるかみたいな感じでスタッフも一生懸命動いてきましたので、逆に最近では、先生方からちょっと学童の様子どうですかと連絡をいただいたり、逆に学童で気になることをお伝えしたときに、学校ではこうですと返信いただいたりとか、そういう連携ができるようになってきてます。
過去に学童ではいつも無茶苦茶元気だけど、学校にはすごく行きづらくなってきた1年生の子がいました。
学校の先生にそれをお伝えしたら、学童で元気ならまずはそれでもいいんじゃないですかねと言っていただきました。本人にとっては学童が良い環境だったと思うんですね。
子どもから見たとき、そういう環境を用意できている状態は非常に良くて、それを大人がある程度把握できていて、ちょっと遠目から見守れている状況が学童と学校の関係性としてよい感じがしています。

●Explaygroundでお手伝いできそうなところ

ミラクルラボの方の実践で、Mリーグさんとのプロジェクト実践の際に感じたのですが、外部の方と連携しながらプロジェクトを進める際は、リーダーというか、推進力のある人材の有無が課題になると感じました。
そういう人材を育てるサポートや仕組み作りなどにお知恵いただけるとすごくありがたいです。

(了)

「学び」の扉をひらいてみよう 。
codoschool(こどスクール

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インタビュアー:Explayground
編集:フジムー、ミーコ

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