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隣のアイツは何してる?~ラボインタビュー vol.10 Möbius Open Library

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東京学芸大学Mistletoeが取り組む新たな教育の試み、Explayground(エクスプレイグラウンド)。
Explaygroundには、子どもたちや学芸大を始めとした各大学の学生、教職員、地域住民などが参加し、今後、企業や行政などとの共同研究の核となっていく「ラボ」が多く存在します。
しかしラボにおける活動も、コロナ禍による影響を大きく受け、大幅に制限されたり活動自体を休止したりしています。
でも、何事にも学びはある。
第10回は、MOL(Möbius Open Library、メビウス・オープン・ライブラリー)の高橋菜奈子さん(ななたん)に話を伺いました。

▼はじめにMOLについて、改めてコンセプトから教えていただけますか?

Explaygroundの活動、学びを活性化していくというような活動が東京学芸大学にあるということを知ったときに、私自身が東京学芸大学附属図書館の図書館員なので、図書館として何ができるのかを最初は考えていました。

図書館屋としてずっと考えていたことは、これから図書館はどうなっていくんだろうかです。図書館というところは、資料や図書を収集し、整理し、保存し、提供している場所ですが、Explaygroundの関係者と話をしていくなかで、図書館の外側の学びの世界というのは、図書館が本を提供したあとに、提供された知を吸収し、活用し、創出し、発信するところ、この“創出・発信”のところを学びの世界の人たちは重視をしてるんだなと感じ始めました。
ならば、そこで発信されたものを図書館はまた捕まえて、収集・整理・保存・提供というふうに、知をメビウスの輪のようにぐるぐる回していく、そんな活動ができたらいいなと。そして各々のパートでまずはやれることを考えるというコンセプトで、Möbius Open Libraryは始まりました。

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「図書館」という言葉だけやイメージしか知らない人は、基本的に「図書館=本」というふうに捉えているんですね。図書・本があるところが図書館、だから「知の循環」と言っても「本」を収集・整理・保存・提供してるんでしょと思われると思いますが、例えば大学図書館は約20年前から、電子ジャーナルなどデジタルで学術情報を流通させています。「本=知」と考えるだけじゃなく、もっと知の総体、色々な知を図書館は扱っていくんだと。そしてその先にどんな未来が見えるのかを考えたいなと私は考えています。

▼ななたんの経歴がMOLの活動にも関連しているように思いますが、ちょっとだけその辺もお聞きしてもよろしいですか。

大学では歴史学を学んでいました。そして図書館員のなかでも、いわゆる公共図書館の図書館員になりたかったわけじゃなく、大学図書館の図書館員になりたいとの思いをもっていましたね。いろんな研究書を先生に提供するとか、古文書が好きで、こういう面白い史料があったから整理した、みたいなのが好きだったからかもしれません。
図書館員になってからは、図書の目録データ作成から始まって、一通りの業務を経験しました。国立大学は国立大学同士を異動できるので、いろんな大学の図書館で働き、2010年から6年間は国立情報学研究所にも勤務していました。国立情報学研究所はCiNiiとか機関リポジトリとかを提供している機関なので、図書館プラスアルファというか、図書館をどういう風に捉え、どういう活動をやっていくといいのかを考える機会になったと思います。
東京学芸大学へは2019年4月に着任しました。Explaygroundも2018年秋から活動を始めたと聞いているので、学芸大に赴任したタイミングがよかったというか、ほぼ一緒にスタートすることができたのがよかったなと思っております。

▼活動開始から約2年が経ちました。活動の中で何か感じたことや気づき、また最近の動きなどを教えていただけますか?

そうですね。この活動そのものを、私自身は図書館員的な目線で見ています。なぜかと言うと、学芸大附属図書館の若手職員や未来を担っていくような人たちに積極的に参加してほしいという思いもあって始めたからです。
直近の活動としては、コロナ禍ということもありオンラインが中心です。2020年には、オンラインでつながりながら毎朝の決まった時間に、一人一人静かに読書をする「オンライン朝読書ルーム」や、学芸大図書館の本棚の様子をインターネットからみれるようにした「デジタル書架ギャラリー」などの取り組みをおこないました。
ラボの活動においては、単に本を整理してカウンターで貸し出すような図書館のルーティーン業務以外を追究していこうとも思っていましたので、コロナ禍における制約は色々続いていますが、ラボ活動を休止せずに動くことができたと思っています。
また本務としての図書館自体の取組みとしても、ラーニングコモンズを拡張するため増築工事を進めている最中でしたので、図書館として具体的に計画を考えるタイミングとも合っていました。
そういう意味で、業務でやろうとしていたこととラボ活動が、すごくリンクしていましたね。ラボのコンセプトを基にラーニングコモンズを考えたらどうなるかなどを、若手職員などと気軽に話すようになったのは、非常に良かったと思っています。
一方で図書館関係者以外に直接アプローチするのは、とても難しいとも感じました。学生さん向けのイベントを企画しても、関心をなかなか持ってもらえませんでしたね。図書館という場を使って何かをしようという思いを関係者以外に伝え、興味を持ってもらうのはとてもハードルが高い、というのが2年間活動してきた率直な感想です。
我々は図書館で働いているからこそ、図書館をどうするかを一番に考えますが、そうじゃない人たちにとって図書館をメインテーマにした活動に興味を持っていただくことは簡単には行かない。
ただ「知の循環」というMOLのコンセプトで考えれば、右側の輪が皆さんの活動そのものだとも思っていますので、そこら辺をどう繋いでいけるのかを色々と模索しています。

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▼東京都文京区竹早地区の附属学校では「未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト」をやっていますが、ななたんはそこでの「未来の学校図書館」にも関わっていますよね?

はい、そうです。MOLの活動では大学図書館を中心にして「知の循環」を考える活動を進めてきましたが、これの学校図書館版をやってみたいと考えて、ひとつのプロジェクトを立てていただきました。GIGAスクール構想が動き始める中で「未来の学校図書館」がどうなるのか、「未来の学校」にはきっと「未来の学校図書館」が必要だろうと考えています。ICTを活用した学校教育に学校図書館が果たすべき役割があるのではないかと。今は、企業さんの協力を得て、小学校の授業で電子ブックを使ってみる取組みとか、探究授業に利用していただけるようなリンク集の作成に取り組んでいます。

▼これまで図書館業務とは関係の薄かったフジムーは、メンバーの中でもMOLを客観的にみられると思いますが、どんなふうに考えられていますか

フジムー:そうですね。MOLがこれからどういう風にどこにアプローチしていくかにも関係してきますが、Explaygroundのさまざまな活動が「知の循環」と結構関係していると思う瞬間が多くあります。
Explaygroundで掲げている「遊びから生まれる学び」というコンセプトも、他者が作ってきた知を、自分でいろいろ体験したり試行錯誤したり遊んだりとかして取り込み、それを「あーおもしろかった」で終わらせずに、何かを誰かに伝えるとか、必ずしも役に立たなくていいけど発信したり、さらに多くの遊び仲間を探し求めたりなどの行動とも関係があると思いますので、その辺がもう少しうまくできるやり方が見つかれば、この活動ももっと活性化すると思っています。

また、施設でどういう風に集いを作っていこうかなどを考えていく際にも、例えばある時間はXXラボが活動し、別の時間には●●ラボが活動していて、そのラボ間には何のやりとりもないとなっていくかと思いますが、そこをどういう風に工夫したらラボ同士で刺激しあえるようにできるだろうかを考えるときも関係あるし。
「知の循環」をどうしたらうまくやれるのか、活性化できるのかは、MOLだけではなく色々なところでも課題になっていると思っています。

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▼ななたんに伺いますが、図書館では今、「知になりきってない何か」みたいなものは、アーカイブできないですよね。それをうまくアーカイブできると面白い気がします。

メビウスの右側の輪を図書館が扱うのは難しいんですよね。ただ、最近は、研究成果になる前の研究データについても大学図書館が何らかの支援していこう、という動きも出てきていますので、「知になりきっていない何か」への注目は高まっていると思います。

個人的には、Explaygroundと図書館は双子だと思っています。Explaygroundみたいな仕掛けがない大学では、同じようなことを図書館がやろうとしているケースは結構あるかと。具体的には、図書館のラーニングコモンズをプレイグランドとして色々なことをやっていきましょう、みたいな取組みが多々ありますね。
学芸大の場合はExplaygroundと図書館があるなかで、それぞれが持ち味を出しながらハイブリッドにやれると相乗効果があると思います。もしかしたら成果、アウトプットを循環させていくことかもしれません。図書館は今回の増築でラーニングコモンズのエリアも広がったので、活用の幅にも繋がっていくと思います。ラーニングコモンズでこういうことやったらどうかなみたいなのを、Explaygroundの人も関わって一緒に作っていくなどの施策に結びつけていけるといいかもしれません。

ラーニングコモンズのなかでのグループ活動は、やっぱりどこまでいってもグループの活動であって、それを他人に見せようとは思ってないし、そう思わずに活動しているのが良さでもあります。ただ、周りに人がいたり、本があったりすることで、必要な時にちょっと助けを求めたりできるといいのかな。他人がいる場所で、自分たちのグループも見える状態で何かディスカッションしている。その行為自体や、場から受ける刺激、その場所が持っている力みたいなものを大事にしていきたいと思います。それが図書館のラーニングコモンズとExplaygroundの建屋にあり、二つの場所でやってることが同じなのか違うのか、これからが楽しみではありますね。

▼いまお話し頂いたあたりがメッセージかなと思いながら伺っていましたが、最後に一言お願いします。

MOLの活動は、特定した活動を行っているのではなく、「知の循環」をどうのように活性化していくのかを考えながら、「場」の力やデジタルも含めた「知」みたいなものを探究している部分もありますので、図書館という場を使ってこんな活動がしてみたいなという学生さんや関心を持ってくれる人が出てきたらうれしいなと思っています。

(了)

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インタビュアー:Explayground
編集:フジムー、ミーコ
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●MOLの活動紹介(note
●これまでの連載
vol.1 変人類学研究所
vol.2 codoschool(こどスクール)
vol.3 Edu Coaching Lab
vol.4 EXPitch
vol.5 武蔵野らぼ & グローカルジオラボ
vol.6 授業研究ラボ「IMPULS」
vol.7 VIVISTOP GAKUGEI準備室
vol.8 東京学芸大学ヒューマンライブラリー
vol.9   金文ラボ




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