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隣のアイツは何してる?~ラボインタビュー vol.6 授業研究ラボ「IMPULS」

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東京学芸大学Mistletoeが取り組む新たな教育の試み、Explayground(エクスプレイグラウンド)。
Explaygroundには、子どもたちや学芸大を始めとした各大学の学生、教職員、地域住民などが参加し、今後、企業や行政などとの共同研究の核となっていく「ラボ」が多く存在します。
しかしラボにおける活動も、コロナ禍による影響を大きく受け、大幅に制限されたり活動自体を休止したりしています。
でも、何事にも学びはある。
第6回は、授業研究ラボ「IMPULS」を牽引する松田さんと西村先生に話を伺いました。

授業研究ラボ「IMPULS」は、授業研究による教育支援のプロジェクトを2011年から6年間実施してきた実績をもとに、授業研究を通した教育支援のサービスを継続的に世界に発信できるよう、Explaygroundに支援をいただきながら活動を進めています。
IMPULSは2008年から6年間、JICAの依頼で、アフリカ向けの研修を企画・実施しました。
また、2011年から2019年までは、主にアメリカ・イギリス・オーストラリア・シンガポールなど、授業研究や日本の算数数学教育に興味のある先生方を日本にお呼びするプログラムを毎年開催してきました。またその間、EDU-Portニッポンとも連携して、バンコクの日本人学校を拠点とした授業研究のプロジェクトなども行ってきました。

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●コロナ禍におけるIMPULSの活動を教えてください
そもそも海外からは来日できないし、日本でも研究授業を公開すること自体が難しい状況にあったなかで、2020年9月と10月にオーストラリア数学教師協会からお声掛けいただき、ウェビナー型の授業研究を行いました。
お互いの国の研究授業のビデオを使い、協議するというものだったのですが、16カ国から参加がありました。
また、11月にはJICAから直接依頼があり、ケニアのモデル学校向けのオンライン講座を行いました。当初は、ケニアの先生方が来日する予定だったのですが、それもできなくなってしまったので、オンラインで授業研究型の研修を提供しました。

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今後の事業展開として、ターゲットを大きく3つに定め、それぞれのニーズに沿った質の高いサービスが提供できるよう検討しているところです。1つ目は、授業研究を自分たちの国でもやってみたいという学校の先生方。2つ目は、授業研究はすでにやってはいるものの、深まりや継続に悩みを抱えている学校の先生方。3つ目は現地の大学等教育機関やJICA等国際協力機関が実施しているプロジェクトです。
IMPULSの提供する教員研修プログラムは、参加者が自ら問いを持って探究する、いわゆる授業研究型のプログラムになっているのが特長です。
また、海外から注目を集めている日本式の算数数学の「問題解決型授業」が、どのようなものかも合わせて理解を深めていただけるよう、教材と子供の学びにフォーカスを当てながら、工夫を凝らした研修内容であるということがウリです。日本式の教員研修や算数数学教育を、海外の方に誤解なく理解いただけるよう、海外での算数数学の授業研究の普及に長年携わっている元東京学芸大学附属世田谷小学校の高橋昭彦先生に、プログラムの構成・内容・ファシリテーションなどにご協力いただいたり、またネイティブスピーカーの数学教育の専門家から監修を受けた英訳資料を用いたりしています。

現在提供している研修プログラムは大きく分けて2種類あります。オンライン形式で5日間程度行うものと、コロナの状況が良くなってから募集しますが、訪日型で10日間程度行うものです。
オンライン型の研修の構成内容をちょっとご紹介しておくと、個人の課題と全体会を日ごとにサンドイッチさせる形で、個人でできる時間にやる課題と、全員で集まってきちんと議論する時間を分けて、5日間でコンプリートするものです。

受講者からは「字幕付きの授業のビデオをじっくり見ることで先生や子どもの実態から学ぶ機会が得られた」「ライブで同じ授業を見た時には気づかなかったことが数多く学べた」というポジティブな声を得られています。
しかしその一方で、ライブでの研究授業の参観を経験したことのある方からは、「やっぱり授業研究はライブで見ることに勝るものはない」というコメントも頂戴しています。
このようなコメントを踏まえ、今後のオンライン型の研修の工夫として、できるだけライブに近い経験のできるような授業研究型の研修が提供できるように、東京学芸大学次世代教育推進機構のCoDOMoS(コドモス)を使わせていただくことにしました。CoDOMoSを使うと、教師アングルと子どもの手元を映したアングル、それから全体像と3つのアングルから撮影した3つのビデオを同時再生することができ、自由にメインの大きい画面を切り替えたり、指導案や板書の写真などの資料も同画面上でダウンロードができるようになります。

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それからもう1つの工夫としてデジタルクレデンシャルと呼ばれているデジタルバッジで研修の修了証を出すことしました。モジュールごとにバッジを集めていただき、専門的経験を積み上げていくようなプログラムを今後展開できるといいなと考えています。

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●松田さんや西村先生がこのような活動を始めたきっかけや想いをお話しいただけますでしょうか。

松田:私は元々JICAにいて学芸大でのアフリカ向けの教員研修の担当をしていました。そのとき、日本の授業というのは世界に誇るべきもので、世界中からも注目されていることをひしひしと感じましたし、日本ができること、日本の教育現場から発信できることは非常に多くあると思ったのがきっかけです。
しかし海外に伝えることはやっぱり難しい。もちろん言葉の問題もありますけども、いかに海外の方にも分かりやすく、かつきちんと日本の良いものを誤解なくきちんと伝えていく、発信していくことはプロの仕事でないとやれない。海外の先生や研究者たちと、日本の専門家をしっかり橋渡しし、授業研究によって世界中で質の高い教育の実現をサポートできるよう、プロの仕事としてやっていきたいと思い取り組み始めました。

西村:授業研究のコンテンツは、小学校の算数の授業がメインになっています。他方で、日本の高校数学に目を向けるとガラパゴス化しています。つい最近までほとんどコンピュータも使わずやっていました。海外で「日本の大学入試では関数電卓を使えない」と言っただけで、驚かれるような状況もあります。
授業研究の交流を通じて、海外の事情を日本の中学や高校の先生が知り「これは何かとんでもないことになっているぞ」ということを認識してもらう契機にもなればと思っています。もちろん英語の壁はありますが、お互いに授業をもとに対話ができるようになれば日本の数学教育をバージョンアップする突破口になるかもしれないという想いをも持っています。

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●IMPULSにおける望ましい形は、興味を持ってくれた先生がお金を払って授業研究セミナ-に参加し、多くの学びを持ち帰って広めてくれるのが理想的だと思いますが、なかなか難しい面もあるのだろうなと思います。海外と日本はまた違うかもしれないですけど、日本で考えた場合、工夫できる面はありますでしょうか。

そうですね。参加者視点で言うと、二人以上の先生が一緒に同じものを見て、同じことを協議して、話し合ったことを学校に持ち帰ってもらい、その学校の中で広がるのが理想的です。
また授業研究自体も、国内的には新たなモデルも考えなければいけない時代になったのかと思います。
例えば、子育て中の先生の場合、休日に授業研究会に参加することが難しいわけですよね。中・高の若い先生だと部活の引率があって、代わりの先生もなかなか・・・ということもよく聞きます。世代やライフステージによって時間の使い方は異なりますから、それに応じたコミュニティをオンラインで作れればと思っています。例えば土曜日の夜に授業ビデオをみて研究協議をするとか、事前に授業ビデオをみておき協議をするとかです。他方でただ視聴して協議を聴いて終わりではなく、仲間同士で振り返りをするなど、参加型にできるといいのではないかと思っています。もちろん、仲間内でただ喋って終わるだけにならないような仕掛けも必要ですが。

(了)

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インタビュアー:Explayground
編集:フジムー、ミーコ
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●過去記事
vol.1 変人類学研究所
vol.2 codoschool(こどスクール)
vol.3 Edu Coaching Lab
vol.4  EXPitch
vol.5 武蔵野らぼ & グローカルジオラボ 


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