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エッセイ

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執筆した雑記、月報などをここにまとめています。
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#小説感想

渡辺浩弐『令和元年のゲーム・キッズ』――寿命制限時代の人間。それからゲーム

渡辺浩弐『令和元年のゲーム・キッズ』――寿命制限時代の人間。それからゲーム

渡辺浩弐『令和元年のゲーム・キッズ』星海社FICTIONS、2019を読んだ。

いくつかの前提の上に成り立ったショートショートだ。前提は以下の通り。

・政府によって市民の寿命は五十歳に制限されている。五十歳になれば法定寿命を過ぎたとして、市民は処理施設に連れて行かれて安楽死させられる。

・反対に、五十歳になるまでは人権、生活保障が約束されている。

・時代設定は、ソシャゲー、ガチャ、スマート

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Orphe『HEARTS OF IRON』――Death, death, and death

Orphe『HEARTS OF IRON』――Death, death, and death

Orphe『HEARTS OF IRON』、50 blessings、2019を読んだ。『ドールズフロントライン』というソーシャルゲームの同人誌であり、二次創作だ。主にboothで販売されている。

ゲームを知らない人のために書くと、このゲームでは戦術人形(女性)が登場する。そしてこの戦術人形はおおむね実在の銃から名前を取られている。有名な銃だとAK47がキャラクター化されているし、バイオハザード

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野尻抱介『南極点のピアピア動画』――初音ミクが宇宙と交流する頃の人類

野尻抱介『南極点のピアピア動画』――初音ミクが宇宙と交流する頃の人類

野尻抱介『南極点のピアピア動画』ハヤカワ文庫、2012を読んだ。SF小説である。小説だが実在ジャーナリストが実名で登場しててびっくりした。

四篇収録の連作集である。一話六十ページほどで、最終話が書き下ろしの百ページ。どんな内容かというと……ボーカロイドの小隅レイである。カバージャケットはどう見てもミクなのだがこの世界では小隅レイである。そういうことにしてほしい。小隅レイがラブソングを歌い、地球外

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銅大『SF飯 宇宙港デルタ3の食糧事情』――だるまさんがころんだ、ぐりっ、ぴーっ!

銅大『SF飯 宇宙港デルタ3の食糧事情』――だるまさんがころんだ、ぐりっ、ぴーっ!

銅大『SF飯 宇宙港デルタ3の食糧事情』、ハヤカワ文庫、2017を読んだ。以下続刊している。

飯である。宇宙で飯である。もともと住めるところでなかった宇宙まで来れたんだからそこまでこだわらなくてもいい気がするが、そんな融通がきかないのが人類である。栄養を取らなくては倒れるし、栄養を取れるなら、ちょっと一捻りしようじゃないか。焼こう。煮よう。発酵させよう。

ということで、食料合成機ができた。宇宙

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鷹見一幸『再就職先は宇宙海賊』――意地、意地、意地、ロマン!

鷹見一幸『再就職先は宇宙海賊』――意地、意地、意地、ロマン!

鷹見一幸『再就職先は宇宙海賊』ハヤカワ文庫、2018を読んだ。次がありそうな書き方だが、もしかしたらこれで完結かもしれない。

SFには前提がある。スチームパンクならかっこいい蒸気機関車とか飛行船が出てくるし、ニンジャスレイヤーの場合は2000年問題でUNIXがばくはつし、そもそも平安時代はニンジャに支配されていたという前提だ。このSFの前提は、月である。ざっくりいうと、スーパーテクノロジーを持つ

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マックス・ブルックス『WORLD WAR Z』――ゾンビ出現を経たパラレルドキュメンタリー

マックス・ブルックス『WORLD WAR Z』――ゾンビ出現を経たパラレルドキュメンタリー

マックス・ブルックス(訳:浜野アキオ)『WORLD WAR Z』2013、文春文庫(上下)を読んだ。実際にはもっと前に読み終えていたのだが、やっと感想を書く気になれたというほうが正しい。

一口でいうならゾンビと人間の戦争である。個人やグループ間の逃げる話でなく、人類がアジアやユーラシアの場所で戦いきってゾンビを絶滅させる話だ。つまり、ゾンビに勝った。

他のゾンビ作品ではゾンビと人間の争いや人間

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飴村行『ジムグリ』――まつろわぬ民、銃、地雷、そしてシャッテン

飴村行『ジムグリ』――まつろわぬ民、銃、地雷、そしてシャッテン

飴村行『ジムグリ』集英社文庫、2018を読んだ。ジャケットそのものが極彩色で怖いし書いてあることの意味もわからない。帯には「関根勤さんも大絶賛!」と書いてあるのだが、作者の粘膜シリーズを読んで大ファンになったそうだ。解説も関根勤さんが書かれている。

どこから始まるのかというと、トンネルだ。主人公である博人が大宮あたりから引っ越してきた小仲代群獅伝町には、虻狗隧道と呼ばれるトンネルがある。トンネル

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水城正太郎『道化か毒か錬金術』――自由に暴れるエンタテイメント

水城正太郎『道化か毒か錬金術』――自由に暴れるエンタテイメント

水城正太郎『道化か毒か錬金術』HJ文庫、2018を読んだ。以下続刊している。

どんな作品かと聞かれたら、半分シリアスだが半分自由な作品だ。陰謀が出たと思ったら日本の相撲取りの話になったり、事情聴取のすぐ後でヘヴィメタ突っ込んできたりとギャップが忙しい。雰囲気としては夜中になんとなくつけた深夜ドラマのノリなのだが、最終的にはエンタメに収束していく。

舞台設定がなかなか凝っている。ページを開くと最

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三河ごーすと『友達の妹が俺にだけウザい』を読んだ

三河ごーすと『友達の妹が俺にだけウザい』を読んだ

三河ごーすと『友達の妹が俺にだけウザい』GA文庫、2019を読んだ。1巻である。

この世界のウザさは褒め言葉に入ると思う。何故かというと最初の語りから若干ウザいのだが、フキノトウめいた味がある。苦いが、山を乗り越えるとおいしくなる。お前……分かっててその語りだな……という入りだ。

出てくる人物は、デキる系主人公にまとわりつく友達の妹で美少女……主人公の教室に転校してくる従姉妹の美少女……そして

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