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銅大『SF飯 宇宙港デルタ3の食糧事情』――だるまさんがころんだ、ぐりっ、ぴーっ!

銅大『SF飯 宇宙港デルタ3の食糧事情』、ハヤカワ文庫、2017を読んだ。以下続刊している。

飯である。宇宙で飯である。もともと住めるところでなかった宇宙まで来れたんだからそこまでこだわらなくてもいい気がするが、そんな融通がきかないのが人類である。栄養を取らなくては倒れるし、栄養を取れるなら、ちょっと一捻りしようじゃないか。焼こう。煮よう。発酵させよう。

ということで、食料合成機ができた。宇宙に食材をそのまま持ち込むことは難しい。コンロや電子レンジを持ち込んでも、電力や熱操作とかを考慮すると難易度が跳ね上がるし、そもそも食材がない。そこで宇宙船に備え付けられた食料合成機に食用藻などの材料を放り込み、ガチャガチャと音を立てて作るのである。この本に出てくるお店〈このみ屋〉は、食料合成機で飯を作ってお客さんに出す。かつて先代の時は栄えていたが、コノミの時代だとお客さんはあんまりいない。たぶん……コノミが料理修行中だからだろう……

〈このみ屋〉で奔走するのは少女コノミである。店に転がり込んでくるのが、ふらふらしすぎて実家を勘当された若旦那である。主人公だ。コノミは若旦那の家に小間使いとして仕えていたので、立場逆転である。どうやらコノミは若旦那にひとかたならぬ想いを抱いていたらしいのでこのシチュエーションなら速攻でハッピーエンドだな、と思うが、若旦那があんまりにもふらふらするのでそうはいかない。宇宙酔いや空腹に苦しめられながら、若旦那はあちこち飛び回る。

若旦那とコノミはひょいひょい、丁々発止で生活していく。その様は漫談ともライトノベルともつかないもので、初めて入った読者には異様な軽さが気になるかもしれない。しかし、その丁々発止が本書を読む時のハードルを下げ、かなり読みやすくしてくれる。かなりガッチリしたSFなので、とっかかりができるのはありがたい。

本書の登場人物は若旦那、コノミ、知性強化をしたすごいイルカ……サイボーグ、スリーマンセルで行動する二足歩行の虫星人などなど……である。異文化交流どころの話ではない。人類だけでは宇宙ステーションが回らないのだ。

クセだらけのキャラクターを〈このみ屋〉に呼び込み、うまい飯を食わせる。それは大変な仕事である。満点サラダ……グーライ菌の子々孫々丼(当店の一番人気)……昆虫星人……宇宙ステーキ……ヌカミソハザード……様々な要素を検討しながらも、人間やだいたい類似の知的生命体が同じテーブルについて食べられるレイヤーまで底上げしていく。そして互いがウマイというような飯を作るのだ。

そういう面倒くささ、難解さを噛み砕いて本書の底を通るのは、やはり若旦那とコノミの丁々発止である。これによって本書はハードSFでありながら、なんとなく面白い会話とシチュエーションでスイスイ読んじゃえる楽しさ――ページをめくる喜びを生み出すことに成功している。面白い小説だった。

なお途中で、若旦那のところにGが出現する展開がある。グアテマラとかドイツのGでなく、虫のGである。確かバイオハザードでも敵キャラで出た気がする。若旦那は虫が苦手でないのでGが頭に載っても大声をあげたりしないが、だいたいの人はそういう目にあったら叫ぶとか逃げると思うので、ここだけ書き出しても若旦那はそうとうな大人物だといえる。だがもうちょっと彼は衛生に気を遣ってもいいのではないか? 若旦那はふらふらしすぎて職業判定がDマイナス(働いたら職場災害が起きるので労働禁止)になっているが、Gに抵抗がなさすぎるのも一因を担っているのでは? コノミや彼の妹は若旦那を憎からず思っているが、そのへんもきちんと話し合ったり腰を据えて会議することでGを出さない感じにするべきではないだろうか……

《終わり》

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