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欧州: 建物エネルギー性能指令(EPBD)

2023年末にEUレベルで合意に至った建物エネルギー性能指令(EPBD)改定案の概要をさくっと整理した。

記事要約

  • 欧州において建物部門のGHG排出は全体の36%、エネルギー使用は全体の42%を占める。

  • 2030年に向けた「Fit for 55」に建物のエネルギー性能指令(EPBD)の改正案が盛り込まれた形。

  • 合意内容は、2030年以降新築はネットゼロ新築住宅にはソーラーパネル完備義務2040年までに化石燃料暖房フェイズアウト補助金は25年までに撤廃)など




1. 建物部門の脱炭素

2050年気候中立を達成するために欠かせないのが建物部門の脱炭素化。建物の暖房や冷房、照明器具、他各種電化製品などは多くのエネルギーを必要とし、運輸交通部門や産業部門を合わせた合計エネルギー需要・使用&温室効果ガス(GHG)排出の約三割を占める(世界平均)。暖房需要などの多い&産業部門の脱炭素化が進む欧州では、建物部門のエネルギー消費は全体の四割GHG排出は全体の三割以上を占める。

欧州における建物部門のエネルギー使用&排出
(出典:欧州委員会ファクトシート

特に問題なのが、商業用ビルや一般住宅を含め、既存建造物。日本と違って取り壊し&新築のペースが遅い欧州では、これら既存建造物の改築をどう促すかがカギとなる。

2. EPBD改定法の概要

欧州委員会は2021年12月、2030年の温室効果ガス55%削減(1990年比)を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」の第2弾を発表、そこに建物のエネルギー性能指令(EPBD)の改正案が盛り込まれた形。その内容は、欧州委員会が2020年10月に発表した「リノベーション・ウェーブ戦略」を踏まえ、既存建築物の改修を促進する内容となっている。

主な規制内容は、①2030年以降新築はネットゼロ(公共建物は2027年以降)②省エネ効率の悪い建物(エネラベがG)はリノベ義務③エネラベ取得義務の対象となる建物拡大④住宅&商業用建物にEV充電施設設置義務など。全容は以下の図参照。

EPBD改定案内容
(出典:欧州委員会ファクトシート

EPBDはあくまで建物のエネルギー効率の最低ラインを設定することを目的とした規制。ただ、それだけではこの手ごわい建物分野の脱炭素化は難しいよね、ということで、他の既存の規制にも建物関連の要求事項を盛り込んじゃおう、というのが上述Renovation Waveイニシアティブで、エネルギー効率指令(EED)、代替インフラ規則(AFID)、EU ETSにもそれぞれ建物分野での取組が言及されている。

Renovation wave戦略
(出典:⼀般財団法⼈⽇欧産業協⼒センター

コデシに従って欧州議会&EU理事会で政策議論が行われ、2023年12月に暫定合意、2024年3月に欧州議会にて正式採択され、今後EU理事会正式採択を経て官報発行へと至る。

合意内容は、当初の欧州委員会提案に比べ、多少トーンダウンした形

  • 2030年以降新築はネットゼロはキープ。

  • 省エネ効率の悪い建物(エネラベがG)はリノベ義務はドロップ。

  • 住宅用建物の一次エネルギー消費量を-16%減@2030年、20-22%@2035年すべく施策を講じる義務をEU加盟国政府が負う。なお、新築は2030年以降ソーラーパネル完備義務。

  • 非住宅用建造物については、省エネ効率の悪い建物の16%を2030年までリノベ、2033年までに26%をリノベする義務を、EU加盟国政府が負う(最低エネルギー効率などの設定)

  • EU加盟国は、2040年までに化石燃料暖房(ガスボイラーなど)のフェイズアウトすべく、その戦略や各種施策を実施する義務を負う(補助金は25年までに撤廃)。

  • 他、農業用建築物や歴史的建造物の例外など。

3. コメント

運輸・交通分野の法規と同じだが、特に一般市民が絡んでくる建物分野では、法規制定も大事だが、いかにそれを丁寧に実施/Implementationが大事。というのも、強引に物事を進めると、その先にあるのは国民による反動しかないことは、ドイツの化石ボイラー禁止令の件から明確(以下関連リンク)。

私も欧州小国に不動産を所有しており、リノベやったのでわかるのだが、リノベは本当に大変。お金がかかるのはもちろんの事、信頼できて腕もあり、最後まで工事を完遂してくれる業者を見つけ出すのが至難の業。お金払ったはいいが、途中で逃げられて、リノベは途中でストップ、仮住まいに住み続けなければならないというストーリーは、ニュースで流れるほどよく聞く話。

こういった現状の中リノベを促進するためには、政府による補助金の拡充や最低省エネ効率の設定などは当然重要だとして、もっときめ細かな施策が必要。例えばブラックな工事業者のリストアップや、工事業者の政府認定、リノベ中に何かあった場合の政府保証などは有用かもしれない(実現可能性はさておき)。


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