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【読書】ファシズム再来の条件とはなにか?/「ファシズムの解剖学」から

ヒトラーやムッソリーニのような独裁者が21世紀の現代社会に再来しうるのか?どのような社会的・経済的条件が満たされるとそのような事態になりうるのか?という疑問に答える一冊。

記事要約

  • ムッソリーニの国家ファシスト党のような極右政党による国家第一主義/全体主義/権威主義的政治体制を指すファシズム(Fascism)。

  • 戦間期のイタリアで、社会のあらゆる不満を吸い上げ、個人自由主義と社会/共産主義にとって代わる、新たなイデオロギーとして台頭。

  • ファシズム台頭のプロセスには5ステップある。社会的分断、行き詰まり感、既存大政党との連立等の条件さえ揃えば、現代社会でも起こり得る現象。




1.本の紹介

台頭著しいポピュリスト政党、この現象をどう捉えたらいいのか気になったので、手にした一冊。

本のタイトルは「The Anatomy of Fascism」(2004年刊行)。コロンビア大学にて政治科学を教えたロバート・オーウェン・パクストン教授(Robert Owen Paxton、1932年生まれ)著。邦訳あり(「ファシズムの解剖学」)

You tubeをあさってみたが、メディア出演はあまりされていない模様。

2.本の概要

①そもそもファシズムとは?

極右政党による国家第一主義/全体主義/権威主義的政治体制を指すファシズム(Fascism)。第二次世界大戦時にイタリアにて台頭したムッソリーニと元軍人&好戦派革命集団を基盤とし勢力拡大した国家ファシスト党が提唱した思想や運動全般の総称として使われることが多い。

そもそも語源はイタリア語のファッショ(Fascio)で、その意味は束(たば)、集団、結束を意味、ムッソリーニ台頭以前も、既存権力に対する結束という意味で、シチリアの農民一揆や左翼国家主義者らによって使用されていた。さらに遡れば、ラテン語のファスケス(Fasces)にまでたどり着く。ファスケスは斧の回りにロッド(短杖)を束ねたもので、古代ローマの執政官の権威の象徴とのこと。

ファシズムの語源
出典:World History Encyclopedia

②国家ファシスト党

国家ファシスト党(Partito Nazionale Fascista:PNF)が台頭し始めた戦間期は、近代以降台頭したブルジョワジーらを中心とした資本/個人自由主義的思想、20世紀初頭前後から台頭し始めた社会主義/共産主義的思想、19世紀チックな軍国主義的保守主義的思想がしのぎを削っていた時代。

イタリアでは、マルクス的共産主義を目指すイタリア社会党が政権を握っていたが、高止まりする失業率やベルサイユ条約体制におけるイタリアの扱い(領土がらみ)により不満が高まっていた(ここら辺の事情は、Try-itの新里先生による高校世界史Bの授業も詳しいのでおすすめ)。

こんな中、1919年3月イタリアのミランで誕生したムッソリーニの国家ファシスト党。イタリア社会党/既存権力や体制への国民の不満を吸い上げ、そのエネルギーを愛国主義、反資本主義と積極的な暴力的解決の混じり合ったイデオロギーとして体現する形で台頭。主に3つの社会グループから構成。

  • 元軍人:第一次世界大戦後のベルサイユ条約体制に不満(戦勝国なのにバルカン半島や地中海沿岸の領土割譲で不利な扱い)

  • 過激派社会主義者/労働階級:マルクスの提唱する資本主義の終焉/共産主義の到来を、意思と力で早めようとう過激派達/高止まりする失業率に対し効果的な対策を実施できないイタリア社会党に失望

  • 若年インテリ層:既存社会システムを支配する富裕層や資本家らに対する強い反感

既存大政党であるイタリア社会党政権の失敗により、現体制に対する失望や怒りを覚えた労働者階級や中間層が大量に生じたこの特定の時期だからこそ、ファシズム運動の拡大があり得たと著者。

Only when the state and existing institutions fail badly do they open opportunities for newcomers.

p. 73

③ファシズムの理念

民衆の各種不満に答える形で、資本主義/個人自由主義および社会/共産主義に対するアンチテーゼ的に形成されていったファシズムには、アダム・スミスやカール・マルクス的な絶対的な知的/理念的バックボーンは存在しない。ニーチェの超人思想やジョルジュ・ソレルの神話論(@暴力論)、グスタフ・ル・ボンの群集心理社会的進化論などの考えを取り込み、ファシズムの理念的根幹を形成していった。

そんなファシズム理念の特徴としては以下(p. 41):

  • 既存制度では対応できないほど、圧倒的な危機に直面している

  • この状況下で、集団/Group(おそらく「国」を想定)優先で、個人の権利は二の次である(社会における個人領域がなくなる)。

  • 危機的状況に置かれた自分の所属する集団/国を救うためならば、いかなる手段も正当化されうる

  • 腐敗した個人自由主義、社会階級闘争による自分の所属集団/国の衰退への恐怖

  • より純粋で結束されたコミュニティとしての統合/integrationが不可欠

  • 生来のリーダーの存在が不可欠。そのリーダーによる直感や認識は、他のどの抽象的な概念や普遍的な理よりも優れている。

  • 選ばれた民族が他社を支配し、導いてやるべき。

このような新たな考えを提示したファシズムは、その時代背景(社会情勢、国内経済状況、国際的立場など)も相まって、既存の個人自由主義と従来の社会/共産主義にとって代わっていった。

Benito Mussolini Speech from Britanica

④ファシスト台頭に至る5段階理論

ファシスト台頭に至るプロセスには5ステップある

  1. ファシスト運動の創設/誕生

  2. 既存政治制度への浸食/rooting

  3. 権力掌握

  4. 権力行使

  5. 長期政権化&過激化/Radicalization

ムッソリーニやヒトラーのようなファシストらの台頭は、当時だったからこそ可能なのであって、現代社会では起こり得ない、と考えるのは早計。社会的な分断や行き詰まり感、内外部の「敵」に対する大衆動員/Mass mobilization、既存エリート層のファシスト候補者たちとの共謀/Complicityといった要因さえ揃えば十分有り得る(例:90年代バルカン紛争)。逆に言えば、既存大政党らのアライアンスから除外されている限りは、これら政党が政治的な脅威として台頭することはない。以下引用。

we are not required to believe that fascist movements can only come to power in an exact replay of the scenario of Mussolini and Hitler. All that is required to fit our model is polarization, deadlock, mass mobilization against internal and external enemies, and complicity by existing elites.

p. 116

3.感想/オピニオン

秀逸の一言。歴史学と政治科学を合わせた、お手本のような研究書でファシズム台頭の背景や要因、勢力拡大に至るプロセスを緻密に描き出した名著。

欧州でも徐々に政権を握りつつある、いわゆるポピュリスト政党(詳細は以下の別記事で)。みんながみんなファシズム的政党ではないのだろうが、

条件さえ揃えば、ヒトラーやムッソリーニの再来も有り得るという著者の言葉は心に刺さる。レヴィツキー教授とジブラット教授の共著「民主主義の死に方」(2018年刊行)の分析でも言っていたが、特に既存大政党に対する国民の信頼失墜に加え、台頭するポピュリスト政党と手を組みだすと一気に危険度が増すという主張は両書共通で説得力がある。

共和党が支持したトランプ大統領が好例なのは誰でもわかる話。でも、他のポピュリストといわれる方々は?私には正直どうなのかわからない。「民主主義の死に方」では、台頭するポピュリスト政党が、民主主義という観点から危険な連中かどうかはの判断基準も提示、詳細は以下から。

今年は米国大統領選挙や欧州選挙をはじめ、ドイツ地方選挙、イギリス地方選挙等々、重要な選挙が目白押し。そして欧州各地でもポピュリスト政党が着々と政権へ近づきつつある(政権を握ったケースもあり)。

最後に一言

トランプ前米国大統領を含め、世界的なポピュリスト台頭に対して疑問や不安を感じたりしている方はぜひ手に取って読んでみると良いかと思います。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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