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【読書】 権威主義の台頭は対岸の火事か?/「民主主義の死に方」から

独裁政権なんて言葉はたまに聞くけど、あくまでアフリカとかアジアとかの話、現代の先進国じゃあり得ないよね、という考えが大間違いと教えてくれる一冊。

記事要約

  • 世界各地で台頭するポピュリスト政党。当たり前すぎて真面目に考えたこともなかった我々の民主主義社会はどうなっていくのか?

  • ヒトラーやムッソリーニらは、あくまで選挙など民主主義のルールに則り支持層を拡大した。最終的に権力の座に就く上で決定的だったのは、既存の大政党からの支持を受けた事だった。

  • 権威主義的&反民主主義的なポピュリスト政党による政権掌握の機会を与えないよう、既存大政党らは、民主主義の監視者/"democracy's gatekeepers"としての役割を果たす必要がある。




1.本の紹介

私の住む欧州でも台頭著しいポピュリスト政党、この現象をどう捉えたらいいのか悩み手にした一冊。

本のタイトルは「How Democracies Die: The International Bestseller: What History Reveals About Our Future」(2018年刊行)。共にハーバード大学にて政治学を教えるスティーブン・レヴィツキー教授とダニエル・ジブラット教授の共著。邦訳あり(「民主主義の死に方:二極化する政治が招く独裁への道」)

共に教授を務める著者たち、ネットには彼らの講義で溢れているが、その中でも聞きやすかったモノは下記の講義。

2.本の概要

①民主主義制度の崩壊

過去の歴史を振り返ると、反民主主義的な権威主義者/Authoritariansが台頭するパターンは二つある。

  • 暴力的行動によるパターン: 軍部によるクーデター等は典型例で、政府機関の炎上、大統領の殺害/投獄/追放、選挙停止、憲法の強制停止等の暴力的な手段による政権掌握が伴う。

  • 非暴力的なパターン: 通常の選挙プロセスを経て政界に躍り出て、あくまで合法的に権力を掌握するパターン。

②権威主義者らの典型的な手口

民主国家崩壊に至る大多数のケースは、非暴力的なパターンを取る。ヒトラー、ムッソリーニもチャベスなどが典型的な例。活動開始当初から権力を掌握するまで、選挙含め民主主義ルールに則り、支持勢力を拡大、その上で既存政党/政治家の支持を取り付けるのが常套手段。

既存政党/政治家としても、イデオロギーが異なる既存政党と組むよりも、より御しやすそうな新興のポピュリスト政党/政治家と組んだ方が都合が良いと思いがち。しかし、既存政党がこれらポピュリスト政党とタッグを組むと、国民の目には、既存政党からのお墨付きを得た政党/政治家と映る。彼らの言うことを信じても大丈夫、投票相手も大丈夫となり、結果として、ポピュリスト政党の台頭に絶好の機会を与えてしまう。

こうしたポピュリスト政党/政治家の民主的な台頭は、確固たる民主主義社会システムが構築された先進諸国であっても、大いに有り得ることは、米国前トランプ大統領の例からも実証済み。

③権威主義者/政党の台頭は民意か?

民主主義ルールに則って、選挙にも勝っているのだから、ポピュリスト政党の台頭は民意だという議論もあるが、それは間違い。民主主義の主権者である国民に対して、台頭する新興政党を監視し必要に応じて封じ込める役割を期待するのは、民主主義に期待しすぎだという。

事実、ドイツやイタリアでナチスやファシズムが政権を完全掌握した際も、国民の支持率は過半数にも達していない。チャベスのように過半数に達したケースであっても、当選者が民意に反して独裁的政権を敷くケースもある。

台頭するポピュリスト政党の監視チェックをするのは既存政党。台頭する新興政党の中でも反民主的/権威主義的なグループに対しては、既存政党同士が協力して政権掌握の機会を与えないよう、民主主義の監視者/"democracy's gatekeepers"としての役割を果たす必要がある。

イデオロギーが異なる既存政党と協力することは痛みが伴うことではあるが、民主主義を支持するという点では意見に相違はない。短期的な損得勘定を捨て、台頭しつつあるデマゴーグ達を協力して押さえ込むというPolitical Courageが必要。

③民主主義的規範の役割

ポピュリスト政党はいつの世、どこの国にも存在するが、なぜその一部は権力の座に迄辿り着けるのか?著者は、その答えを、国民憲法には記載されていない暗黙のルール、永い年月をかけて形成されてきた民主主義的な規範/normに見出す。特に下記二つが、民主主義存続という観点から重要:

  • 相互寛容/mutual tolerance: 競合する既存政党らが互いを、敵/enemyではなく正当なライバル/rivalとして受け入れる事

  • 自制/Forbearance: 政治家は、その特権を行使するに当たっては慎重に判断すべき/乱用は避けるべき

相互寛容に関しては、反民主的なポピュリズムの台頭の際には、イデオロギーは違えど同じく国と民主主義に対して忠誠を誓った政党/政治家として、短期的な損得勘定を捨てて協力する事を指す。まさにトランプが共和党の大統領候補者なった際共和党の有力者が意義を唱えていれば、彼は正当性を失い、選挙結果もことなっていただろうとの事。

自制/Forbearanceに関して言えば、各国とも憲法上、最高権限者・機関には特権が与えられる(例: アメリカ大統領の恩赦付与権限)。要はそういった権限を行使するに当たって憲法上何の制約もないが、それでも自主的に時と場所を選ぶべきという暗黙のルールである。

いずれにせよ、既存の大政党らのDemocratic gatekeepersとしての責務が重いというのが著者の主張である。

④権威主義者か否かを判断するための4つの基準

台頭するポピュリスト政党/政治家がまっとうな人間か権威主義者かを判断する基準として、下記4つを提示している。なお、ドナルド・トランプはこの4つの判断基準すべてに当てはまる。

  1. 民主主義的ルールの拒否

  2. 立場の異なるライバル政党の正当性/反憲法性/犯罪を主張

  3. 暴力の容認

  4. メディアを含め、国民の自由権への介入

問題は、トランプが反民主的で権威主義者であること、民主国家アメリカ合衆国の大統領としてはふさわしくないことを共和党の重鎮も認識していたが、あえて積極的介入をしなかったことにある。これは米国が長年築き上げてきた相互間用と自制という民主主義的規範が崩れ去ったことを示している。

3.感想

いくつか思ったこと。

①やっぱり判断が難しいポピュリスト達

世界中で台頭するポピュリスト達。現状の大きな変革を謳い、現状に不満を抱く社会のあらゆる階層から支持を集める。冷静に考えれば、移民排斥、貿易の保護主義などに走って未来はない事は明白だが、厳しい現状からの脱却、現行制度の抜本的改革等を言葉巧みに叫ぶ彼らを支持したくなるのも正直わかるし、まさか民主主義を本気で否定し、廃止しにかかるとは普通は想像できない。

ポピュリズムと民主主義の関係
出典:The University of Kansas

そんなポピュリスト達はすべからく、明日のヒトラーやムッソリーニなのか?それとも全うな政治家/政党なのか?④で説明した4つの判断基準基準は有用だ。ポピュリスト政党といわれる維新の会について言えば、暴力や民主主義ルールへの拒否などはしていないので大丈夫そうである。フランスで人気急上昇中のルペン極右政党党首も、一見大丈夫そうではある本当はどうなのか判断が難しい。そもそも前党首も含め政党そのものが危うい感じを受ける。

②既存政党の役割

既存政党の役割というのも欧州政治上は頷ける。クリスチャン中央右派と左派社会党が、民主主義の守護役として危険なポピュリストを押さえ込むべきという話は腹落ちしやすい。そして米国ほど政治的分極化も進んでおらず対話も超党派協力もまだ可能。しかし問題は、その既存政党の支持基盤が縮小を続けている事&ポピュリスト政党と手を組む場面が増えてきていること。

一方日本の政治をみると、既存政党の力が大きすぎて、逆に硬直気味な感がある。2010年前後の民主党政権の時のような政権交代もあり得るが、政権をとってもしっかりと国政を回せる野党がいないのが課題。ただ、よくも悪くも、安定しているのは良いこと。トランプのような政治家が現れても政権を取られる心配はないそうではある。

最後に一言

政治に興味ある人、これから興味を持ってみようかなと思っている人におすすめ。とても勉強になる、読みやすい本。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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