【読書】感情コントロールの考え方とテクニック/「チンプ・パラドックス」から
一時的な感情に流され、大切な人々を傷つけるようなことを言ってしまったり、ダイエット中なのにお菓子を食べてしまったりというのはよくあること。それは我々の原始的な部分/チンパンジーの仕業であるとのこと。そのチンパンジーを飼いならし管理する方法を記した一冊。
記事要約
複雑な機能をもつ人間の脳を、人間、チンパンジー、コンピューターから構成される簡易モデル「Chimp management model」として説明する一冊。
人間はみな、原始的で本能的な存在であるチンパンジーと共存している。我々の中に存在するこのチンパンジーをいかに管理するかが、社会的な成功や幸福につながる。
自分の感情や行動、過去の過ち等を振り返ると、チンパンジーのせいだなと思える出来事が多々あり。少し気が楽になった。どこまで活用できるかは自分次第だが、自分の感情を管理するツールとして有効な気がする。
1.本の紹介
英国の精神科医で、英国サイクリング含むアスリートの世界で著名なスティーブ・ピーターズ博士著。本のタイトルは「The Chimp Paradox: The Acclaimed Mind Management Programme to Help You Achieve Success, Confidence and Happiness」(2012年刊行)。
私が勤める会社の人事研修講師から進められた本。邦訳あり「チンプ・パラドックス 「自信」「成功」「幸福」を手にする人のマインド・マネジメント・プログラム 」(2022年刊行)。
著者のピーターズ博士はTed talksでもこの本の内容を分かりやすく10分弱で説明している。英国英語がカッコいい。
2.本の概要
内容が濃いため、いくつか項目立てて説明。
①Chimp management model(チンプ・モデル)
異なる役割や機能を担う数多のパーツから構成される人間の脳。この複雑怪奇なマシーンをより良く理解し最大限活用するため、脳/マインドを下記三者から構成されるシステムと想定(Chimp management model(以下チンプ・モデル):
人間 (前頭葉/Frontal部分): 合理的な思考をする部分で、節制、誠実性、良心等人間的な動機/行動原理を持つ
チンパンジー (limbic brain): 一種の本能的で感情的な思考回路を持つ部分で、食べ物や力、セックス、テリトリー、支配欲等、より原始的で動物的な動機/行動原理を持つ。
コンピューター (= 頭頂葉/Parietal他): メモリーや蓄積された価値観や信念等
チンパンジーは、我々人間から独立して考え行動する感情的な機械(emotional machine)。一例だが、ダイエット中なのにも関わらず、目の前に置かれたチョコを見て自然と手が伸びてしまうことがある。著者にいわせれば、これがチンパンジーに脳をハイジャックされている瞬間であろう。多少自制心?罪悪感?のある人であれば、チョコを口に含む前に踏みとどまる事もあると思うが、これが著者の言う「人間」部分が出てきた瞬間となる。
まずは自分の中にチンパンジーがいることをしっかりと認識したうえで、彼/彼女らと上手くやっていく事が、社会的な成功や幸せを掴む鍵となる。
②チンパンジーと向き合うためのテクニック
チンパンジーは人間の5倍以上の力があり、力付くでコントロールしようと思っても押し返されるのが関の山。そこで著者は、チンパンジーと向き合うためのテクニックを提示する:
nurturing(仕込み?育成?お守り?): 子供に対するように、チンパンジーの事を認めてほめてあげる
manage(管理)
安全な環境を確保した上でチンパンジーのやりたい事/言いたい事をさせてあげ、途中で遮らない。
事実や真実、ロジックを使ってチンパンジーを落ち着かせ優しく諭す。
おやつをちらつかせ、指示する。
まずはNurturingから始め、チンパンジーをハッピーな状態にさせるとあるが、それが難しい場合、怒りやフラストレーションを発散させてあげる等の管理手法を取るとのことだ。
また、The Chimp modelの第三の登場人物であるコンピューターを有効活用する事も、チンパンジーをより簡単に管理するための有効なツールとなる。人間部分に比べ20倍以上の速度で情報処理をするコンピューター部分には、これまでの人生で培ってきた情報/経験/信念/価値観に加え、それらに基づく自動化された思考&行動プログラムが組み込まれている。例えば何時なんどきでも平常心を保つ、問題ばかりに目をやらず解決策を探すことにフォーカスする等役立つ信念やプログラム(Auto pilot)もあれば、他人との約束には決して遅刻してはならない、試合をするなら必ず勝つべきといった非現実的で達成不可能なもの(グレムリン)まである。
脳のコンピューター部分を活用するうえで重要なのが、このような非現実的かつ実現不可能なプログラムであるグレムリンをもっと建設的なプログラムであるAuto pilotに置き換えていく事。いかに「~すべき/should」を「可能なら/できる限り/could」に置き換える事が重要となる。
③応用編
チンプ・モデルを使って何ができるのか?日々の生活や仕事等あらゆる場面で応用が可能という。
他人とのコミュニケーションを行う際に、チンプ・モデルを意識して会話を組み立てることが効果的とのこと。具体的なテクニックをまとめると:
感情的かつ攻撃的な会話に陥ってしまうため、チンパンジー同士の会話はさせない
The Square of Communicationを意識する(Right personにたいして、正しいタイミング、場所、話題/Agenda、方法/Wayで話をする)
コミュニケーションを、言葉だけでなくBody languageだったりイントネーション、雰囲気を含んだパッケージとして考える。
Psychopathは避けるべし、他人に偏見を持たないこと(first contact時の印象はチンパンジーが決めるので要注意)、過剰な期待を他人に押し付けない
効果的なコミュニケーションの他、success/成功、happiness/幸福など様々な事例が取り上げられているが、ここでは詳細は割愛。これら事例で共通しているのは、成功にせよ幸せにせよ、チンパンジーと人間で求めるものがことなる。
3.感想
人間の脳の機能というかなり複雑な内容が、一般人でも理解できるように平坦かつ明瞭な言葉で書き下ろされているのが本書の特徴。精神科医として知見の豊富な著者の言葉には説得力がある。
①自分のチンパンジーと向き合う
私自身感情に振り回されることが多々あり、反省多き人生を歩んでいる。人から嫌みを言われても冷静に対処できる人、後ろの車に煽られても平常心を保てる人、レストランにいった時、給仕が遅くともイライラしない人、そういった人になりたいなあと思うことも多々あり。
そういった、頭に血が上りやすい性格?特徴は、この本を読んだからとはいえすぐになおりそうなものではなさそう。ただ、なおらないにしてもそういった短慮的で感情的な行動は、自分/人間ではなく、自分のなかに共存しているチンパンジーが原因なんだと言う著者の視点は、救いにもなる気がする。
②過去の過ちを振り返る
チンプ・モデルを念頭に自分の行動を規定するレベルまで至れればベストかもですが、まだその域には達するのは難しそう。ただ、過去の過ちを振り返り、ああ、あの時あんな感情的な事を言ってしまったのは、自分のチンパンジーを上手くnurture/manage出来なかったからだなあ、などと思うようにはなった。
また、同僚の一人に、感情に任せて物を言う人がいるが、そういう場合はきっと彼/彼女のチンパンジーが会話しているのだろうと考え、まずは怒りを発散させた上で事実確認に入るように心がけている。
このように、本書を読んで、日頃の行動を改善したり、ストレスを提言したり、はたまた自分を責めるのをやめるという観点から、役に立つ。コンピューターのグレムリンのauto pilotへの書き換えなどまで意識的にできるとまた違ってくるのかも知れない。
最後に一言
私のように、自分の感情に振り回されあとで後悔することが多い人には特にお勧め。そこまで自分を卑下しなくとも良いと、教えてくれる一冊。
本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いです。
あわせて他の記事も覗いていただけたら幸いに思います。
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