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■言葉一つで無限に広がる読書体験を―『100分de名著 紫式部 源氏物語』

来年の大河ドラマ『光る君へ』は摂関政治最盛期の平安時代中期を生きた紫式部を主人公とする物語です。

「紫式部」と言って、すぐに思い浮かぶのは『源氏物語』ですよね。これを機会に『源氏物語』を読もうと意気込んでいるかたも多いのではないでしょうか。

でも、『源氏物語』って、ただでさえ五十四帖もある、長大な物語です。しかも初っ端から

いづれの御時にか、女御更衣あまたおはしますなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。

と、全力で古文。

私たちが高校で習う古語文法は、このあたりの時代を基にしています。ですから、係り結びだの、敬語だの、動詞の活用だの、定期テストで苦戦したあのあたりが遺憾なく発揮された本文が、遠慮なく領域展開してくるのです。

つまり、『源氏物語』という名峰に初手から何も装備せずに挑戦しようとすると、最初から最後までクライマックスで、挫折し遭難する未来しか見えないのです。

じゃあ、どうしたらいいのか。

また近いうちにご紹介しますが、最近では『源氏物語』の現代語訳で読みやすいものがたくさん出ています。そこから読んでいくのも一つの作戦です。

が、もう一つ、『源氏物語』そのものについて知ってから本文にトライするのも良い方法だと思うのです。

私たちは、『源氏物語』という作品の名前はよく知っていますが、その具体的な内容については意外と知りません。高校の頃、古文の時間に「若紫」の本文をほんの少しかじったくらい。犬君が雀の子を逃がしちゃったあの場面ですね。

そう考えれば、『源氏物語』について、初歩的な疑問がさまざまに湧いてきます。たとえば、『源氏物語』というのは、

そもそも何が描かれたものなのか。
どういう物語なのか。
どんな風に成立したものなのか。 などなど

いろいろあります。

そして、そういった私たちの持つ疑問を、長年第一線で研究された先生が詳しく明快に教えてくださる書物もたくさんあるのです。

今回ご紹介するのは、そんな一冊。

三田村雅子先生『100分de名著ブックス 紫式部 源氏物語』です。


■『100分de名著ブックス 紫式部 源氏物語』について

■三田村雅子 著
■NHK出版
■2015年12月刊行
■1000円+tax

※本書は「NHK100分de名著」において、2014年4月と7月に放送された「紫式部 源氏物語」のテキストを底本として一部加筆・修正し、新たにブックス特別章「歌で読み解く源氏物語」、読書案内などを収録したものです。

・目次

はじめに 想いは届けられるか
第1章  光源氏のコンプレックス
第2章  あきらめる女、あきらめない女
第3章  体面に縛られる男たち
第4章  夢を見られない若者たち

・あらまし

世界最古の長編小説といわれ、その後の日本文学の流れを決定づけた『源氏物語』は、1000年も昔に書かれたものでありながら、作品の密度、構成、面白さ、美しさ、どれをとっても日本最高峰の古典として名高い。表層と深層の両面から精緻に描かれた、愛と権力をめぐる人間の欲望や因果は、優雅でありながら深く暗い影を落とす。いつの世も変わらぬ生の悲哀と葛藤を、尽きせぬ豊饒な物語世界から味わう。

■イメージだけで踊らされる私たち

・どうやって『源氏物語』は始まったのか

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