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■大河ドラマ『光る君へ』第27話「宿縁の命」感想―たとえば、君がいるだけで心が強くなれること

さて、一週の休みを挟んだ大河ドラマ『光る君へ』第27話です。

私の書く記事のなかで、この大河ドラマの感想がもっとも字数が多く、内容もぎゅぎゅっとしているため、「一回やすみ」が入るとその週はなんとも手持無沙汰になると判明……ずっと書いていると、やはりそれが「習い」になるのだなと実感したのでした。

そんな待望の第27話「宿縁の命」は、のっけからめっちゃ蔵之介さまな『源氏物語』が展開されましたね。なに、その懐の深さ……惚れてまうやろ! と生涯道隆さま推しを自認するワタクシでさえ思ってしまったですよ。

『源氏物語』の主人公である光源氏のモデルには、さまざまな人物が挙げられますが、その一人に「藤原道長」がいます。おそらく、政治的社会的な栄華の在り様や、その裏にある苦悩といったところを踏まえての説でしょう。

それを、まさかのリアルでやるとか。

ちなみなお話、このとき生まれた賢子は、後年母の後を継いで、彰子さまのもとへ出仕します。そして、道長どんの孫(父側から見ると曾孫!)である後冷泉天皇(親仁親王)の乳母となるのです。娘が孫で曾孫の乳母……人間関係の濃さに定評のある平安時代ですが、ここにもその片鱗が伺えるですね。

そんなこんなで、第27話の感想行ってみましょう♪(まだ始まってなかったらしい)

っと、その前に第26話の感想はコチラです。


■今日の中関白家

第27話長保元(999)年が舞台でした。

■定子さま、敦康親王をご出産

定子さまのご懐妊を知り、走る一条天皇のお顔の晴れやかなこと!

女官を置いてきぼりにする勢いで、しかも、あの長袴で全力疾走とか……一条天皇の定子さまLOVEなご様子が健気でかわいくて♡ ききょうお姉さまでなくとも、萌え散らかさずにはいられない笑顔でございました。

それに対して、浮かないお顔をなさる定子さま。
「子を産むことなぞ、許されぬ身」

定子さまは思慮深く、また、ご聡明でいらっしゃいますから、ご自分の置かれた境遇の不安定さ、もっと言えば「有り得なさ」をもっとも強くご理解なさっています。

でも、一条天皇―懐仁と定子さまは似た者同士なのですよね。

親や兄弟から愛されたのは「〇〇である自分」でしかなく。ありのままの自分を十分に理解して、愛してくれるのはお互いしかいなかった。

だから、二人は誰よりも相手を理解し合っているし、ここまで肩を寄せ合って生きてきた。お互いがいるから、ここまで生き永らえることができたのです。

だけども。

二人とも「夢」のなかで生きることはできないと知っている。「現実」のなかでは、「二人」でいることなど許されないと知っている。それは、天皇というこの世で最も強大な権力を以てしても、叶えられない願いだと知っている。

それでも「すべてうまく行く」と笑う一条天皇。そして、それが一条天皇の純粋な願いであり、この世でもっとも叶えられない「夢」であることを理解し、目を伏せる定子さま。

おでこをコツンってして。

きっとこれって、二人で幼い頃からしていたしぐさですよね。だからこそ、余計にうつくしくて、せつなくて、とてもはかなくて。

やつれゆく定子さまの横顔に、涙が出そうになるのでした。

■そうして相変わらずな兄ちゃんは

そうして、無事に生まれた敦康親王を「東宮候補」として愛でようとする伊周兄さま。相変わらず、夢見がちです。

それに対して、妹定子さまと、弟隆家さまは「超」がつくほどのリアリスト。さすがに定子さまは「あんまりお急ぎにならないで…」とやんわりたしなめる程度ですが……

ってか、伊周兄さま、大事な妹中宮さまがまだ体調が復活せず伏せっていることに気づいていらっしゃる……??思わず画面の前で「そういうとこやぞ!」と言いたくなります。

それに対し、帰京以来?兄にも容赦のない隆家どんド正論をぶちかまします。

定子さま所生の敦康親王が東宮になることは、即ち一条天皇は退位することを意味する。そうなれば、定子さまの地位はさらに危うくなり、そこにぶら下がっているだけの我らの地位だってどんぶらことなる。

隆家どんはそう言って、急ごうとする伊周兄さまにぐりぐりと釘を刺し込みます。

999年現在、一条天皇の御代が続いています。このとき一条天皇は数えで20歳。ここから本領発揮な年齢です。そして、現在の東宮は居貞親王(木村達成さん)であり、花山院(本郷奏多さん)の弟親王です。

今回生まれた敦康親王がもし東宮になるとすれば、現在すでに東宮はいますから、「次代の東宮」として立太子することになります。つまり、一条天皇が退位して、次に即位する居貞親王(三条天皇)の東宮として立太子するのが筋ということなのです。

何度か書いていますが、このとき「円融天皇―一条天皇」「冷泉天皇―花山天皇―三条天皇」という二つの皇統が本流をめぐって、ひそかに争っています。

第25話でしたか、主に私が沸き散らかしていましたが、居貞親王(三条天皇)のところには「敦明親王」が生まれています。しかも、このときは一条天皇に皇子はいませんでした。

だからこそ、居貞親王ご自分が即位し、息子である敦明親王を東宮にすれば二つの皇統争いに決着をつけることができるとほくそ笑んでいたのです。つまり、居貞親王が狙ったのは

①冷泉天皇―③花山天皇―⑤居貞親王(三条天皇)―(6)敦明親王
②円融天皇―④一条天皇→→✕

〇番号は即位順、( )仮の即位順

という系譜でした。が、今回の敦康親王ご出生により。

①冷泉天皇―③花山天皇―⑤居貞親王(三条天皇)―(7)敦明親王
②円融天皇―④一条天皇→(6)敦康親王

と、相変わらず両統迭立が続く可能性が大きくなってしまったのです。そりゃ落胆もするというもの。また、一条天皇が「定子、よくやった」とつぶやくのも、このことがあってのことなのです。

まぁ、このあと彰子さまが男御子をおふたり産んで、この系譜のどちらもが絵に描いた餅に終わるのが史実ではありますが。それでも、長保元(999)年現在の勢力図はこのようになっています。

どちらにしろ、伊周どんが相変わらず夢見がちであること、そして、弟妹二人は超リアルに現実を見ていること、このことが彼らの未来を左右に振って行くと思うと、それはそれで現代にも通じるなぁなどと思うのでした。

■今日の彰子さま

第27話では、11月に彰子さまは入内なさり、一条帝から女御宣下を受けられました。

■祝! 初セリフ!(違)

お嫁入りに際して、腹を括った倫子さまは魑魅魍魎がうろつく後宮で娘がなんとかやっていけるようにと、いろいろ気を配られます。そのとき

華やかな何かが欲しい。
皆が振り返るような明るさが。

と、赤染オスカル衛門にこぼします。思わず、「入内する娘をしれっとdisってくる倫子さま……さすが穆子さまのお血筋……」と思ったことはココだけの話💦

それはそれとして、入内すらもヒトゴトみたいな顔をして、おっとりとにゃこさまと幸せそうに過ごす彰子さま……プライスレス……超お可愛らしかった♡

そして、母に促されて「わぁ…きれぇ…」と棒読みされます。えぇ、初めて「仰せのままに」以外でお言葉を発せられましてよ、みなさま。しかも、見事な棒読み! すばらしいです(え)

それにしても。

母から「声を出して笑うところから」と心配される彰子さま、いったいどの部分からドン詰まっておいでなのでしょうか(涙)

それでもきっと、道長どんというより、三郎とそっくりな彰子さまですから、聡明さは果てしなくお持ちでしょうし、いろいろ周りをじっくり眺めていらっしゃることでしょう。だからこそ。

■女御をいとおしむことはない

という一条天皇の言葉に泣きたくなります。

やさしい真顔で「楽しく過ごせ」とおっしゃる声音に、あるいは、これ以降展開される現実に、全部を理解した彰子さまは泣くこともせず、ただ「仰せのままに」粛々とご自分の役目を果たされることでしょう。

それは、もしかすると伯母である詮子さまと同じイバラの道を歩むことを意味するのかもしれない。いえ、おそらくイバラっぷりに関して言えば、詮子さま以上の辛き道となるでしょう。

詮子さまの夫である円融帝は、中宮遵子さまをご一緒に伴い、退位されました。ですから、詮子さまは「現実的に」愛されていない事実を突きつけられました。

一方、彰子さまの夫である一条帝は、最愛の中宮である定子さまを喪います。そうして、その面影を抱いて、終生過ごされることでしょう。敵は「面影」ですから、どうあろうとも彰子さまに勝ち目はありません。

つまり、彰子さまは「現実的に」だけでなく、「非現実的にも」愛されていない事実を突き立てられることになるのです。

それでも、その地獄に放り込まれてしまったからには、そこで生きていく他ない。若干、先走りはしていますが、それでもこれから彰子さまが歩まれる「もう一つの地獄」を思うと、胸が刻まれるように痛くなり、泣きたくなるのでした。

■うるわし男子列伝

今回、一条天皇については上でいくらか語ったので、今回はおひとりで♬

■イケメンは遅れてやってくる

というわけで、今回の藤原公任さまは彰子さまの入内屏風の和歌をお持ちになる場面でのご出演でした。

「下手な歌を詠んでは名折れだからな♡」

もうイケメンは何をしても様になるし、たいていのことは許されます。きっとやきもきしていた行成さまも、あのきらっきらな笑顔を見て、全部を許してしまわれたことでしょう♡

あの場面、思わず「ウィンク」まで幻視し「うおぉ…公任さまが…」と昇天しそうになったのはココだけの話(/ω\)イヤン

そうして、公任さまの詠まれた歌は
「紫の雲とぞみゆる藤の花 いかなる宿のしるしなるらむ」です。

「藤の花」は藤原氏、とりわけ道長家を暗示するものであり、「紫の雲」は瑞祥であって、藤の花を紫の雲に見立てるのは、賀の歌としてふさわしい。……「紫の雲」は皇后の異名でもあり、立后をすでに予祝している、とも解せる。「紫の雲」によそえられた藤の花は点がで清楚な趣があり、これも余情美をたたえた歌といえよう。

小町谷照彦『藤原公任 天下無双の歌人』より引用

彰子さまの入内の意味するところをきっちり理解し、どうすればそれを後押しできるかを踏まえ、その上で優美に当代随一の名にふさわしいお歌をしれっと詠まれるあたりがもう……ほんとうに超公任さまで……感涙……

そして、この入内屏風には花山院も歌を寄せます。
「ひな鶴を養ひたてて松ヶ枝の蔭に住ませむことをしぞ思ふ」です。

奇矯な振る舞いは多いとされる花山院です。でも、院の詠まれる歌はとてもやさしいまなざしを感じさせるものが多いです。

また、三番目の勅撰和歌集である『拾遺和歌集』をご自身で編纂なさるほど、文化的に秀でていた方でもいらっしゃいます。

そうして、そういった面を、さらりと画面に登場させるあたり、この『光る君へ』の奥深さを感じられます。

■まとめにかえて

実は今回、リアタイはできませんでした。そのため、Twitter(現X)の様子をチラ見した後での視聴となりました。どうやら、冒頭で書いた賢子の誕生について、ごにょごにょとあったみたいですね。

私自身は『大鏡』という歴史物語を専門にしていました。ですから、「史実は史実。物語は物語」と分けて楽しむ派です。この『光る君へ』はそういう世界線で描くんだなぁと考え、純粋に楽しむ方を選んでいます。

あるいは、そのような「物語」として描くことで何を伝えようとするのか、その「物語」でしか得られないものは何かを考えるタチなのです。

だって、「史実」といっても、あの時代の女性たちのことなど、ほぼ記録に残っていませんし。「史実」を忠実に知りたいなら、自分で研究すればいい話ですし。ぶっちゃけ、「史実」とされるものだって、誰かの目を通して書かれたモノしか残っていないのですし。

こういう世界だったのかもしれないなぁ…といろいろ想像する方が、楽しいよねって思いながら、毎回『光る君へ』を楽しんでいます。

・ ・ ・

さて、こうして書いている間に第28話はもう目の前! 「一帝二后」……定子さまぁ( ノД`)シクシク……ってなりますが。それも含めて、またみなさまとご一緒に楽しめたらうれしいです。


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んじゃ、また。



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