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アートとデジタル技術の融合。高校生とエプソンがコラボ

2023年10月7日、長野県松本市にリニューアルオープンした松本市立博物館。オープン前には、地域住民の皆さんのワクワク感や期待感を創出するため、「告知プロジェクションマッピング*」を実施しました。
*:2023年7月21日から2023年9月30日まで

告知として、通りからでも目を引く博物館内の階段に投写した映像は、松本第一高等学校(以降、第一高校)の学術探究コース 美術工芸系統の3年生13名が制作。松本城や上高地などの名所、また松本てまりや松本だるまなどの伝統工芸品が盛り込まれ「松本市」の魅力が詰まった構成となっています。制作サポートは当社が行い、2者の「共創」で実現しました。

映像の一部を抜粋(左:上高地、右:松本てまり)
プロジェクションマッピング全編は以下から(8分11秒)

本記事では、共創に関わっていただいた第一高校の生徒5名と、先生にインタビューした内容をご紹介します。




【インタビューに答えていただいた皆さん】

— 今回の共創の取り組みは当社から提案・打診しましたが、最初に聞いたときはどう思いましたか?率直な感想をお聞かせください

村田さん:先生からお話を伺ったとき「そんなすごい仕事を一緒にできるなんて光栄だな」と思った一方で、企業との取り組みは初めてだったので、緊張感と完成させられなかったらどうしよう、という不安がありました。ですが、新しいことに挑戦できるワクワク感と好奇心の方が勝って、前向きに取り組もうと思いました。

— 映像制作の中で、苦労したことや大変だったことはありますか?

小林さん:作画全体を推進する中で大変だったのは、誰にどの場面を担当してもらうかを調整しながら決めたことです。絵にはそれぞれ個性があり、どうすればより魅力的な映像となるか、全体のバランスを考えながら個々に担当する絵をお願いしました。

常に「人の魅力を活かすためにどうすればよいか」考えて行動していたので、構成力や調整力が養われたと思います。とてもいい経験ができました。

左から、小林さん、井口さん

村田さん:映像制作にあたっては、「松本市」についての理解が不足していると思い、地域の文化や歴史に詳しい先生方や神主さんなどへ取材したり、図書館で調べたりする中で、自分で情報を入手することの大変さを実感しました。ですが、現地に直接赴いて人から話を聞くことの大切さや、自分で資料などから調べることで「あ、こういう話もあるんだ」みたいな気づきが得られて、理解が深まったと思います。

宮川さん:平面に絵を表現するのではなく、段差で奥行き方向がある階段に映すため、濃淡が出ないような色使いを考えるのが大変でしたが、新しいことに取り組む「楽しさ」の方が強かったと思います。

與曽井さん:映像編集に使用するソフトウエアを初めて使ったので、何をどうすればいいのかわからない状態からスタートしました。試行錯誤しながらの作業はとても大変でした。

また納期間近のタイミングで、映像にアニメーションを盛り込みたいと思い、200枚を超える絵を作って、それをつなげて約10秒のアニメーションを作りました。時間がない中の作業に加え、アニメーション制作自体が難しい挑戦ではあったのですが、完成したものは満足の出来でした。

與曽井さん

— 当社でプロジェクターの原理やプロジェクションマッピング、映像制作に関する授業をしましたが、感想や要望についてお聞かせください

小林さん:プロジェクターやプロジェクションマッピングについての知識が全くなかったので、映像制作に入る前に原理などを説明していただけて、すごくありがたかったです。

今まで授業や街の中で見てきた映像は「こういう原理で映されていたんだ」と知ることができて、映像制作に興味が湧きました。
今回の取り組みに留まらず、これからもプロジェクターを使って、いろいろなものを作ってみたいと思いました。

井口さん:授業前までは「階段に絵を映す」とはどういう風にしたらいいのかイメージができなかったんですけど、階段の模型に映す体験をしたことでイメージが湧いて、この企画がだいぶスムーズに進んだと思います。模型や画像を使った説明だったので、わかりやすくてとても楽しい授業でした。

村田さん:今回はエプソンさんのサポートがあり、機材やアプリケーションなどをご用意いただきましたが、私たちのような学生の立場だと、機材などが高価で手軽に試したりするのは難しいかなと感じました。学生にも手が出せるような身近に扱える機材があると、よりデジタルアートが気軽に楽しめるのではないかと思いました。

宮川さん:映像制作の全体に関する相談事にはもちろん乗っていただけましたし、それに加えて個人的な疑問点にも親切に答えてくれました。質問に対する回答だけではなく「もっとこうしたらいいかも」など、提案やアドバイスを付け加えてもらったことで、より発想を膨らませることができました。

また授業内でちょこっと発言したことを覚えてくださっていて、授業後に声をかけていただいたことは嬉しかったです。

左から、村田さん、宮川さん

— 今回の取り組みに対して受動的ではなく、能動的に、自主的に取り組んでいたと先生から伺いました。どのようなモチベーションで取り組まれたのでしょうか?

井口さん:村田さん、小林さんと構想段階からコミュニケーションを密に取りながら映像のストーリーなどを検討していたのですが、そのときから「絶対に完成させたい!」という思いで取り組んでいました。エプソンさんとご一緒できる貴重な機会でしたし、新しい挑戦でしたので。

あと博物館で何回かテスト投写したときに、通りがかりの方達が立ち止まって見てくださることも多くて「完成したものを見たらどんな反応をしてくれるんだろう」というワクワク感もあり、モチベーションを高く保つことができていました。

村田さん:美術はデッサンや彫刻、他の作業にしても、元々個人の作業が多いです。ですので、自主的に何かを行うことはみんな慣れていると思うんですけど、それにプラスして、校外に展示されるものを手掛けられるのがすごく魅力的でした。

普段私たちの作品が校外に出るのは年1回の外部向けの展覧会や文化祭などで、主な観覧者は保護者や友人です。それに対して今回は、地域の方や観光客の方など多くの人の目に触れる作品に関われるということが、高いモチベーションにつながったと思います。「この作品を作ったのが高校生!?」と驚かせたいと思いながら取り組んでいました。

あとこの取り組みが終わったら「自分たちのご褒美に遊ぼう」と友達と約束していたのも頑張れた要因かなと。笑

左から、村田さん、宮川さん

與曽井さん:パソコンなどの機器を使うのがとても好きなので、編集作業のときにパソコンを扱えることが一番のモチベーションでした。普段はスマートフォンで映像や音楽を編集しているのですが、今回はパソコンで編集作業しました。普段は触れることがない分、自分の知らなかった知識をどんどん吸収しているのが実感できたので、ずっと楽しみながら今回の活動に取り組めたと思います。
今は自宅にパソコンがないので、大学生になったら自分用のパソコンを買います!

— 取り組みを経て、皆さんそれぞれ得られたものや学びがあったと思います。今後それをどう活かしていきたいか、抱負を教えてください!

小林さん:今回の活動を通して、まず人と何かを作り上げることの大変さを知り、達成感を得られたことが大きかったです。また普段はスマホの小さい画面で平面のイラストを描いています。平面には平面ならではの良さがあるのですが、奥行きのある階段へのプロジェクションマッピングを経験したことで、今まで知らなかった表現があることを知りました。

そして平面や小さい画面からステップアップして、もっと大きい対象や立体物にイラストを表現することで、今とは違った魅力を伝えられるんじゃないかと思いました。将来的にはぜひ挑戦してみたいです。

井口さん:今回の取り組みには企画、構想段階から関わらせていただきました。そして、構成について検討する中では意見がぶつかることもありました。当時はうまくいかないことにやきもきしましたが、終わった今改めて考えると意見を言い合えることができたのは、真剣に取り組んだからこその結果であり、むしろぶつかったからこそ満足できるものを作れたのだと思いました。

またイラスト制作をお願いした同科の皆さんに「ここのイラストはもうちょっとこうしてほしい」といった要望を伝えたときには、やはり個々のこだわりがあるのですんなり方向性は決まらず、そこの調整には少しだけ苦労しました。ですがこうした経験は、今後大学生や社会人になった際、意見を言い合ったり、集団で何かを作り上げたりするときに役立つと思いました。

左から、小林さん、井口さん

村田さん:制作段階で映像のストーリー構成や絵の順番をどうするか考えていた際、この制作自体がドキュメンタリー番組の原型みたいだなと思いました。自分の足でさまざまなところに取材して、調べて、それをまとめて形にして、人に見てもらう。この流れの中で自分の成長を実感できましたし、何より「楽しく」携われました。

また進学先を迷っている時期に、今回のプロジェクションマッピングを経験して「やっぱり自分はこれだ」と思い、進学先を映像系の大学に決めました。今回の取り組みは、自分の将来を考える大きなきっかけになりましたし、学生のうちに経験できたことで、この先の大学生活、さらにアート人生における自信にもつながりました。

宮川さん:今まで美術工芸系統では、陶芸や油絵など「工芸」分野のアナログ手法の制作が主でした。ですが今回プロジェクションマッピングの技術を使用したデジタルアートに携わり、これまで自分たちがやってきた工芸的なものとデジタル技術を組み合わせると今までにない表現ができて、純粋に面白いと思いました。

また自分が経験したことのない手法で制作できる高揚感と、どうやったらうまくできるのかという探究心が刺激されました。
今回の取り組みのように、ただ受動的に制作をするのではなく、さまざまなことに興味や疑問を持ちながら制作をすることは、自分の将来にも活かせると思いました。

與曽井さん:階段の段差をあえて利用したアイデアを考え、映像の最後にてまりが段差を転がるようなアニメーションを追加しました。そして段差の利用、すなわち立体物への投写は今回の取り組みに限らず、さまざまなものに活用できるのではと考えました。例えば、真っ白のマネキンに映像で服を投写すれば、着せ替えせずにさまざまなコーディネートを試したり、披露したりすることができます。

このような発想は、今回の取り組みに携わったからこそ思い浮かんだことであり、得た知識や経験を大学でも活かしていきたいです。

制作した映像が階段の模型に投写されているところを当社社員と確認している様子


— 先生からみた今回の取り組みについて、お伺いさせてください

夏目先生:近年、教育指導要領が変わってきて「探究」の授業に力を入れるようになりました。当校は「探究」の授業の中で、生徒たち自ら調べ、話し合い、地域や社会とのつながりなどを考慮しながら、作品を作り上げることを重視しています。こうした取り組みの中で、生徒の自主性を磨きながら、協調して物事を行う精神性を高め、成功体験をさせることを大切にしています。
そしてエプソンさんから今回のお話をいただいたときは、まさに「探究」に該当していて、ぜひ一緒にやらせていただきたいという想いで生徒と取り組みました。

夏目先生

授業の様子は、最初は新しいことに触れたばかりでいっぱいいっぱいなところも見受けられたのですが、授業を重ねる度に余裕ができて自主性が見え始め、生徒の取り組みにかける熱量をすごく感じました。
自主的にさまざまなことを調べたり、映り方の実験をしたり、普段の授業よりも活発だったのではと思うほどで、私たち教員としても何か面白いものが完成しそうという期待感、ワクワク感がありました。

生徒の中には、今回の取り組みを経験して進路を映像系の大学に決めた子もいましたが「1人の今後の人生を決める」それだけの影響を与える大きな取り組みであったことを再認識しました。
そして今回限りで終わってしまうのは、生徒の可能性を狭めてしまうと考え、取り組みが終わってからは同科の1、2年生の授業にもデジタルアートの内容を取り入れています。(今回の取り組みは3年生のみが実施)

従来の授業では油絵や彫刻、デッサンなど「美術・工芸」という分野に限られていましたが、プロジェクションマッピングに取り組む生徒を通じて、アートの世界に段々デジタル技術が取り入れられていることを肌で感じました。今後はより身近になるでしょうし、アートにおけるアナログとデジタルの融合も加速していくと予見しています

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