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私が好きな詩

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#詩

詩を読むこと

詩を読むこと

詩人の伊藤比呂美の本を読んでいたら「どうしようもなくなったら詩人になりなさい」とあった。瀬戸内寂聴さんも「小説家になりなさい」って言うらしいから半分冗談だと思っている。

それぐらい生活が大変だった時代、アートに生きることは無頼だったと思う。今回、好きな詩についてちょこっと書きたいなって思ったって、つい、調べ物をしたら、作品と作者の人格は違うと頭の中で強調しないとならなかった。でも、調べていくと、

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悲しみ

悲しみ

夏の夜の博覧会は、かなしからずや
中原中也

夏の夜の博覧会は、哀しからずや
雨ちよと降りて、やがてもあがりぬ
夏の夜の、博覧会は、哀しからずや

女房買物をなす間、
象の前に僕と坊やとはゐぬ、
二人蹲(しやが)んでゐぬ、かなしからずや、やがて女房きぬ

三人博覧会を出でぬかなしからずや
不忍(しのばず)ノ池の前に立ちぬ、坊や眺めてありぬ

そは坊やの見し、水の中にて最も大なるものなりき、かなしか

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棄てられない

棄てられない

月夜の浜辺

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際(なみうちぎわ)に、落ちていた。
それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、袂(たもと)に入れた。
月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちていた。
それを拾って、役立てようと
僕は思ったわけでもないが
   月に向ってそれは抛(ほう)れず
   浪に向ってそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。

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詩は生きてうずく

詩は生きてうずく

3.11が近づき、震災関係の報道が続いている。そのとき、ふらちにも頭にうかびあがってくるのは中原中也のこの詩です。

汚れつちまつた悲しみに……

汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる

汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の革裘(かはごろも)
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる

汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふな

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新しい明治のころ

新しい明治のころ

初恋

まだあげ初(そ)めし前髪(まへがみ)の
林檎(りんご)のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅(うすくれなゐ)の秋の実(み)に
人こひ初(そ)めしはじめなり

わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃(さかづき)を
君が情(なさけ)に酌(く)みしかな

林檎畑の樹(こ)の下に

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言葉のみが残る

言葉のみが残る

甃(いし)のうへ

あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音(あしあと)空にながれ
をりふしに瞳(ひとみ)をあげて
翳(かげり)なきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ
廂(ひさし)々に
風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃(いし)のうへ

桜が散るころ、必ずこの詩を思い出す。コーラスをや

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春の発見

春の発見

その子 二十歳 櫛にながるる 黒髪の おごりの花の うつくしきかな
みだれ髪
与謝野 晶子

歌集みだれ髪の名前の元になった短歌。

自分の中の官能を堂々と歌ったナルシズムが心地いい。

明治の大きな特徴は思春期の発見じゃないかと思っている。それまでは16歳ぐらいになると結婚と子育てが始まってしまっていた。高等教育がはじまって青春を楽しむようになったと思う。

夏目漱石なんか読んでると、娘義太夫に

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感じることの重さ軽さ

感じることの重さ軽さ

 山本周五郎の戦前の千葉県浦安の生活をえがいた「青べか物語」に貧しい女給にだまされるインテリ青年が出てくる。
原民喜も同じようなことをした。不幸な女性を助けることで自分を助けると錯覚した。そのことは恥ずかしくて一生黙っていたそうだ。小林多喜二も、似たようなことをしたらしいし、あの頃の青年のひとつの行動パターンなんだろうと思う。

それぐらい、立身出世する青年の幅は狭まっていて非人間的だったのだろう

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私が好きな詩4

私が好きな詩4

小岩井農場

わたくしはずゐぶんすばやく汽車からおりた
そのために雲がぎらつとひかつたくらゐだ
けれどももつとはやいひとはある
化学の並川さんによく肖(に)たひとだ
あのオリーブのせびろなどは
そつくりおとなしい農学士だ
さつき盛岡のていしやばでも
たしかにわたくしはさうおもつてゐた

春と修羅
宮沢賢治

詩集「春と修羅」のなかの「小岩井農場」の始まり。小岩井農場を今はない軽便鉄道で訪問したとき

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私が好きな詩2

私が好きな詩2

春すぎて夏来るらし白妙の衣ほしたり天の香久山
                        万葉集
                        持統天皇

この歌は高校で覚えさせられた百人一首の二番目だったから今でも覚えてるというのもあるけど、大好きな詩だ。

「ほしたり」と言い切っているの歯切れがよくっていいなって思う。
夏が好きだ。田舎の海辺の砂浜でぼんやり見た青空が好きだ。

梅雨明け

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私が好きな詩1「シカゴ詩集」

私が好きな詩1「シカゴ詩集」

世界のための豚屠殺者

機具製作者、小麦の積上げ手
鉄道の賭博師、全国の貨物取扱い人
がみがみ怒鳴る、ガラガラ声の、喧嘩早い
でっかい肩の都市
(安藤一郎訳、岩波文庫)
シカゴ詩集から
カール・サンドバーグ


初めての詩集は新潮文庫の「カール・サンドバーグ詩集」だった。本屋さんの棚の様子まで覚えている。読んでみると近所の工場のトタンの壁から聞こえてくる機械音が浮かんだ。この抜粋は20世紀初

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