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寺にギャル

炎天下。夕方。都会に追い詰められた鳥たちが、一堂に集まり爆音を立てている。そういう意味では、鳥はヤンキーなのかもしれない。

駅から真っ直ぐ、下町情緒溢れる参道が、寺に向かって伸びている。参道の入り口には、真っ赤な中華料理屋。1件だけ、世界観が違う。メニューの写真が貼り出され、日焼けで変色している。チンジャオロースが、チンジャオロースじゃ無くなっている。鶏ガラの香りが「ツン」とする。

参道。「いらっしゃい」が飛び交う。お気持ち程度、拒否の会釈をする。賑わいの声の裏に、鳴ってない祭囃子が聞こえる。ここには、悲しそうな人が、1人もいない。東京なのに。この街の看板商品。ローソンでは見た事のない和菓子。羊羹?なんだこれ?老人しか買わないパッケージ。結構売れている。迷って、買わなかった。店頭に、生け簀。泳ぐ魚も、心なしか、江戸っぽい顔に見える。



デカい門。見上げると、法華経の世界が彫られた、物々しい彫刻。門を潜ると、正面には本堂。黒の瓦に、青いサビ。チョコミントを連想させる。お経が聞こえる。

本堂の目の前には、松の木。「瑞龍のマツ」らしい。「必殺仕事人の仲間のような名前だな」と思う。

曼荼羅がご本尊として祀られている。合唱する。


デカい壺に活けられた蓮の葉が、風に降られている。葉がなびく音がする。境内の奥には、庭園があるようだ。靴を脱ぎ、回廊を渡る。真っ青な靴下。「この色の靴下じゃなかったな」と反省する。

東南アジアのギャル3人が、庭園バックに、自撮りをしている。彼女たちは、笑顔だ。今まさに、この国を感じている。柔らかい表情。アルカイックスマイル。絵に描いたような、真っ白なワンピースに、真っ赤な口紅。僕は、恋をした。

庭園を、囲うような形の回廊。床に、レッドカーペットが引かれている。椅子がある。座る。景色を眺める。心が落ち着く。でも、古いガラスの扉。風でぶっ壊れそう。気になる。でも、風が涼しい。落ち着く。汗が引いて行く。

進む。畳だ。寝たい。珍しく、実家に帰りたいと思った。暑くなると、畳に会いたくなるのは、田舎に生まれたからだろう。意味不明な柄のガラスコップで、麦茶が飲みたい。夏が来る。

塀の奥に、近隣のアパートが見える。タクシー会社も見える。都会の残念さを感じる。ムードが壊れる。およそ数100年、この場所で愛され、保たれて来た建築物。だからなのか、虫コナーズは、申し訳なさそうに息を殺している。タクシー会社も、もっと慎ましくして欲しい。

広い池。鯉だ。腹だけ「金色」の鯉がいる。縁起が良さそうなので、写真を撮る。1匹、なぜか横向きに泳いでいる奴がいる。鯉界の変わり者に違いない。水中で土煙をたて、暴れている。アイツが気になる。背中が痒いのか?嫌な事でもあったのか?話が聞きたい。アイツに比べて別の奴ら、ヤル気が無さすぎる。思いを感じない。ふと「コイツら、死ぬまでこの池に居るんだな」と思う。まあでも、寺での一生なら、中途半端な金持ちに飼われるより、穏やかではいれそうだし、良い事はありそう。

帰る。東南アジアのギャル3人が、こっちでも自撮りをしている。気がつくのが遅れ、今、写ってしまったかもしれない。その写真、Air Dropで送って欲しい・絵になる彼女たちを見つめていると、睨まれた気がした。ごめんなさい、帰ります。

空が夕焼けている。

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