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高校生が読んでおきたい教養書:人工知能と「最適解」と人間の選択

人工知能の「最適解」と人間の選択 (NHK出版新書)

昨今の小論文の出題ではAIテーマは頻出である。
その中で実際に高知大2017年で出題された小論文の課題文がこの本なのだ。

小論文ではAIの効率的な側面に理解を示しつつも、その反面である否定的側面の提示がされている。解答にはAIの効率性では解決できない社会の側面を具体例とをつかって論じれば良いでしょう。
あるいは、AIは万能ではないことなども具体例として提示できるとよい。
実際に今回の本や小論文の課題もAIの素晴らしさと同時に否定的な側面を論じている。

内容

棋士の佐藤天彦名人と電王戦と称したAIとの将棋戦、羽生善治王座のインタヴュー、AI裁判、政治やビジネスへの利用などAIの利用の可能性や進化について章ごとに語られている。
将棋の話からAIの得意とするところと、人間との違いを語りながら、その特徴を政治や医療、ビジネスや司法の分野における利活用について具体例とともに語られている。

AI技術による検挙率向上(NHKスペシャル映像より)

AIにあらゆるデータを読み込ませると、いつどの地域で犯罪が起きるか予想できると言う。(もちろんどんなデータをインプットするかによって結果は異なるのでしょうが、、、)
実際に警官がそのエリアに行き、職務質問をすると不思議と検挙率が上がる。
AIの指摘するエリアで暴行事件が起きたなど、その正確性は結果論だが信頼に足るようである。
しかし、誰がどんな犯罪を犯すまでかはわからない。職務質問を受けた黒人は、警察官の態度に納得がいっていない。この近くで犯罪が起きるとAIの予想があると言うだけで職務質問から解放されなかったと言う。AI技術を使う側の倫理観が問われている。

AI技術による再犯リスク予測

犯罪者であっても服役中に模範囚であったり、その罪の重さによって仮釈放が認められている。しかし再犯率が高いことは以前より報告されている通りである。(もちろん再犯率の高さは、人間の問題なのか、社会復帰が難しい社会だからなのか議論がある)
そのため仮釈放の決定は慎重に行われている。その判断の根拠にAIを使っている。服役囚の個人データを入力することで、再犯率が弾き出される。そこでは人間が判断しないことが重要で、人間が判断するとなると個人の感情の影響を受けないとは言い切れない。だがしかし、仮釈放がなかなか認められない黒人の服役囚は、黒人であることが再犯率の計算に影響があるとしたら?
過去に遡れば白人と黒人では犯罪率に大きな差があった。もちろんそれは黒人差別が蔓延っていた社会において、黒人への充分な教育がなされていなかった過去においての話である。黒人の大学進学率も向上している現在において、はたしてAIの計算する再犯リスクは妥当なのか疑問が残る。

AIによるドナー選定(NHKスペシャル映像より)

医療の分野にもAI技術が導入されている。臓器移植後の余命の可能性を年齢や性別、肥満度や持病などから計算することができる。
現代社会では臓器移植の技術が高まっている一方でドナー不足は深刻である。ドナーを待つ患者は数多くいるため、限られた移植可能な臓器を誰に移植するかについては、移植後の余命の計算値によって決定される。
この数値もまた、なぜそういった数字が弾き出されるのか?どういった計算式によるものなのか説明はできない。見事、臓器移植を遂げ健康な生活に戻った患者がいる一方で、AIによるウェイティングリストの上位になれず、臓器移植の順番を待ち続けている患者もいる。
AIの余命計算がある程度正しかったとしても、限られたドナーを有効に活用するために、切り捨てられる患者は仕方のないことなのだろうか。平等に臓器移植のチャンスが回ってくるべき社会もまた望まれている。
自分がAIの計算だからと言う理由で臓器移植を待ち続ける立場であった時に受け入れることができるのか、考えさせられる。

Gakken小論文を書くために読んでおきたい本

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