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ていねいな暮らしはなぜ「批判」されるのか?

ていねいな暮らしが人気だ。

2010年代から使われたこの言葉は、もはやライフスタイル雑誌の定番になっている。

でも、あこがれを抱く人が多い反面、おなじくらい批判的な意見も飛び交うのがおもしろい。

ていねいな暮らしはなぜ「批判」されるのか。

科学的に分析してみたら、そこには納得の背景があった。


ていねいな暮らしとは?


「ていねいな暮らし」とは、一体なにをさすのか?

キャッチーな語感のわりに、本気で脳に焼き付けようとすると上手くいかない。シナプスの間をするすると逃げてしまう。

このつかみどころのなさがこの言葉が持つ魅力であり、逆に信頼されにくい理由のひとつだ。

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「ていねい」の言葉の意味を検索してみると、以下のとおり。

1.動作・態度などがぞんざいでなく礼儀正しいこと。
2.仕事のやりかたが雑でなく、念入りなこと。

ていねいな暮らしとは、念入りに行う暮らしのこと。

ただ辞書的な意味で理解しようとすると、そこまで魅力を感じない。

そんな時、松浦弥太郎さんの著書「エッセイストのように生きる」を読んでいたら、納得しやすい言葉がでてきた。

「ていねいとは感謝すること」。ゆったりと振る舞うとか、テーブルを隅々まで拭きあげるといった表面的なことじゃない。

引用:エッセイストのように生きる|松浦 弥太郎

なるほど。

ていねいな暮らしとは、感謝しながら暮らすこと。

身の回りにあることに対して、「ありがたいなあ」と思いながら暮らすのは素敵なことだ。

だとしたら、ていねいな暮らしは、確実に時間がかかる。

1時間かけて「ありがたいなあ」と思いながら過ごすのと、別の動作をしながら1秒、ふと「ありがたいありがたい」と早口で思うのじゃ、ぜんぜん違う。

焦っている中で発する「ありがとう」は、落ち着いて発する「ありがとう」とは意味が異なる。

ていねいな暮らしが批判されがちな理由


東京マガジンバンクカレッジによると、「丁寧(ていねい)な暮らし」という言葉が使われた新聞や雑誌の記事は、ぜんぶで249件もあるという(2021年11月まで)。

ひとつひとつ確認すると、その定義はやっぱりあいまいだ。

これらを分類するとだいたい2つのパターンに分けられると言う。

パターン1:幸せ見出し型
=日常の中に隠れた幸せを発見することをすすめる記事
パターン2:ていねい演出型
=日常の中に「丁寧な暮らし」を象徴するアイテムを取り入れることをすすめる記事

参考:雑誌・新聞記事からみる「丁寧な暮らし」の表象とその背景

うーん、これはよくない。

どちらのパターンも、批判されてもおかしくない背景がある。

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幸せ見出し型は、そもそも「現代人のあわただしい日常」から生まれた逆張りだ。

「現代人のあわただしい日常」が存在するからこそ、その中で「隠れた幸せを発見する」ことの大切さが強調される。

でも、どうだろう。

本当に忙しい人に「ほら、幸せはキミの目の前にあるよ」と言われたところで、素直に「そうね」と同意できるとは限らない。

誰かの理想を押し付けられていると感じてしまう。

「幸せ=結婚」が定型文だった時代のように。

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もっとむずかしいのは、ていねい演出型だ。

キレイな語感と一緒に差し出されるお金のにおいほど、胡散臭いものはない。

特ににおいに敏感な女性がメインターゲットなのだから、批判されてもしょうがない。

この時期、ていねいな暮らしをコンセプトに打ち出した商品やサービスが多数発売された。

批判の大きな原因は、このへんにありそうだ。

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感謝しながら暮らすなら、時間が必要だ。

わたしたちは歳をとればとるほど、体感時間が短くなる。

ジャネーの法則
=人生のある時期に感じる時間の長さは年齢の逆数に比例する

参考:Paul Janet and Changes in the Apparent Speed of Passage of Time with Aging

体感時間を少しでも長くし、自分にイライラする隙を与えない。

「ありがたいなあ」と思いながら過ごせる余白を作るのだ。

ていねいな暮らしを実現するためにできること


体感時間を長くする方法はいくつかある。

例えば、部屋の色を緑にすると、ゆっくりのんびりできるという研究結果がある。

早々に3分経った気になるせっかちな色空間は黄。次いで橙、青、紫、赤・緑である。ゆっくり環境に馴染んだかのように、のんびりしてしまった色空間は赤・緑。

引用:空間の色彩がヒトの時間的体感に及ぼす影響について

赤もよいのだが、部屋に観葉植物を置いたり、それに合った部屋を作ることのほうが、ていねいな暮らしには合いそうだ。

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音も体感時間に大きく影響する。

山口大学は、遅いテンポのBGMが聞こえる環境では体感時間がゆっくり経過し、早いテンポのBGMが聞こえる環境では体感時間が早くなることを報告した。

引用:BGMの音楽的特徴が聴覚的時間評価に及ぼす影響

ていねいな暮らしに本気で向き合うなら、まずは時間づくりから。

「ありがたいなあ」と思いながら暮らすには、余白が必要なのだ。




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