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読書記録:友達の後ろで君とこっそり手を繋ぐ。誰にも言えない恋をする。2 (電撃文庫) 著 真代屋秀晃   

【この恋は誰にもバレてはいけない、信頼で築き上げた友情を守る為に】 


【あらすじ】
純也、青嵐、新太郎の男三人は中学時代からの腐れ縁。
高校に進学してからは、夜瑠と火乃子の女子二人が加わった。
もうずっと昔から付き合ってきたかのような温度感。 そんな親友五人組の関係は、夏が過ぎ去った今でも何一つとして、変わってない。

そう、少なくとも表面上は。

純也と恋仲になる事を希う夜瑠。
そして、夜瑠を魅力的に思いながらもその気持ちに応え切れない純也。
そして、火乃子までもが秘めた気持ちを膨らませ、純也と距離を縮めようとする。

季節は秋。
文化祭に向けて、それぞれの活動を始める五人。
そんな青春を過ごす中で、甘い毒はひっそりと進行していく。
親友同士だった筈なのに、踏み込んでしまえば、もう引き返せない。
歪んだ恋の行方とは。

あらすじ要約
登場人物紹介

純也、青嵐、新太郎の中学の腐れ縁だったグループに、夜瑠と火乃子が加入した事で、文化祭に向け一致団結する筈が、恋の毒が関係に侵食する物語。


気兼ねない友情を大切にすると決意した彼ら。
表面上は、新たな試練である文化祭に向けて各々の活動が活発になる中で。
女子達の密やかな恋心を向けられて困惑する純也。
輝かしい青春を送る裏側では、甘くて危険な恋の毒が全身を蝕む。
親友だった筈なのに、一度意識してしまえば後には引けない。

季節は文化祭を巡る中で。
仲良し五人グループは各々の立場によって、別の道を歩み始める。
そんな折に、夜瑠はひょんな事から、学園祭に向けて、バンドを結成する事になる。
愛しい純也へ向けて、募った想いを曲にして届けたいからと練習に精を出す。
実姉にも指摘された、自分とよく似た鮮烈な恋の炎が導くままに。

だが、その炎を向けられた純也の心は、別の風によって揺らされていた。
かつてのグループの親友であった和道からの突然の連絡。
そこで知らされたグループ崩壊の原因となった、恋の破局の事実。
その事実が、まるで自分もこうなるだろうと物語るようで。
夜瑠との恋を選ぼうとする中で、友情もまた掴みたいと思った彼の心に、消えない焼け跡を残していく。

胸中に激情が吹き荒れる純也。
そんか彼の想いの知らない所で、関係は変貌していく。
彼に秘密で四人だけ集まった場で、火乃子は突然宣言する。
「純也の事が好きだと、年内には告白したい」と。新たなる恋の炎が燃え上がる。
それは夜瑠のような歪んだ形ではなく、真っ直ぐに。
清濁を併せ呑む、業火として燃え盛る。

その真っ直ぐな想いを目の当たりにして、口を噤んでしまった夜瑠。
その事が尾を引いて、肝心の本番のステージでも、純也とすれ違ってしまう。
失意に揺れた夜瑠は、恋ではなく友情を選ぼうとする。
茫然自失した彼女は、自分にアプローチをかけてきた大人の有名音楽家、エルシドの手を取ろうとする。

そこに駆けつけた純也に、自らのぐちゃぐちゃでドロドロの思いの丈をぶつけてしまう。
それはある種の問いかけであった。
「自分には純也しかいない」
「純也にとっての私って何?」
その投げかけられた問いによって、自らの選択を省みるようになる純也。

男女五人グループの友情が大事だからこそ、自らの関係の矛盾に揺らぎ続ける純也と夜瑠。
恋と友情、どちらも手放したくない、彼らにとって大切な物。
何かを犠牲にしないと何かを得る事は出来ないのか?
一度歪んでしまったら、どれだけ取り繕っても二度と元には戻らないのか?
そうやって、自問自答しながらも、自らのこの気持ちが友情を破壊する事も理解している。

しかし、駄目だと理解する程に黒い感情は募っていく。
そうやって、自らを抑制して、表面上を上手く取り繕っているつもりでも。
些細な綻びは、より大きな綻びへと変わっていき。仲間達には自然と違和感として伝わって、5人の関係は歪んでいく。 
その想いが伝播した火乃子と新太郎が隠し持った本心を吐露してしまう。

そして、いつしか恋愛派だった夜瑠と友情派だった純也の関係構図が逆転していく。
互いの弱みを秘密という形で握って、それが呪いのように身体に染み込んでいく。 
恋か友情か、どちらかを天秤にかけて、どちらかを諦めれば、こんなに苦しまずに済む。
しかし、それを隠してでも、両方を掴みたいエゴイスティックが存在するからこそ、無理をしてしまう。
全てを得ようとして、強欲にもその手で全てを囲い込もうとする。
全部、包み込めるとひたむきに信じているからこそ。
その自分本位は、言い換えれば若さである。
若い内だからこそ感じられる繊細な痛みから、何かを学んで得ていく事こそが青春でもある。

もう、純朴な子供のままではいられない。
したたかに立ち回るズルい大人への階段を踏みしめる。
自らの憧れた大人に正しくなれていけているのか。
もはや、誰も無傷では済まない段階まで絡まり果ててしまった関係。
火乃子との関係を秘密にしながら、大好きな夜瑠と過ごす純也に差し迫るアンビバレンスな胸中。
秘密の共有は、人間関係を潤滑にするが、悪用するば他人の心の隙間を唆して、意のままに操る道具へと成り下がる。

新太郎を利用して純也を手に入れようとする火乃子。
そんな夜瑠の裏切りを知っても、彼女が好きな新太郎。
罪悪感と背徳感で揺れ惑う純也が好きな夜瑠。
夜瑠が好きな筈なのに、火乃子にも迫られて、感情に翻弄される純也。
誰とも深く交わろうとしない、真意が伺えない青嵐。

はたから見れば、ありふれた不純愛に過ぎないだろう。
でも、当人にとっては切実なまでに純愛で。
醜い恋の中で、苦悩しながらも、答えを手繰り寄せようとする彼らは美しいとさえ思える。
自らが提唱して、信じてきた物に苦しめられていく。
友達を裏切れない欲望が、純也を孤独の淵へと追い込んでいく。
いつの間にか、自らのトラウマの原因となった、恋心を優先して、友情を壊した忌むべき存在に成り下がっていると気付いてしまった純也。

そこには、大人のように臨機応変に割り切れる妥協は存在せず、不器用なまでに頑迷に自らを律しようとする青さがある。
望まない破滅をこのままでは辿ってしまう。
線路の先は、底の見えないポッカリとした落とし穴が待ち受ける。
または、膨らみ続ける風船を漠然とただ眺めるようは物。
しかし、この激情が止まる事を許さない。
そう、もはや理屈では語れないのだ。
持て余した感情が、正常な思考を奪っている。
それくらい情念は育ってしまっている。

期せずして育った期待と幸福に頭はショートしてしまっている。
友情も恋も全てを望むのは傲慢だろう。

しかし、この情念の炎は譲れない。
ならば、その炎と共に心中するだけ。
そこに恐れはない。
温かな友情の輪で繋がれた裏で、二人で全てを騙し切るという選択肢。
そして、気付かない内に、過去の焼き直しを自分がやってしまっている事実。

ただ、転換点となるこの選択を、純也と夜瑠はどのように選び抜くのか。
大切にしたいと隠したツケが、どんな呪いとなって返ってくるのか。
秘密で縛られた彼らに、差し迫る波乱と試練はいつ訪れるのか。

友情と愛情の狭間で揺れる純也は、何と決別して、何を選び抜いて行くのだろうか?









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