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ぬいぐるみ小説集「図書館の廃墟とレッサーパンダ」(全文)

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 旧世紀の図書館の廃墟を撮影しているとレッサーパンダのぬいぐるみがいた。本を読もうとしているらしいのだが、眠りそうになっている。しばらく遠くから眺めていたが、すぐにうつらうつらとしてしまうようだった。

 もう少し近づこうとしたところで音を立ててしまい、レッサーパンダのぬいぐるみに気付かれてしまった。
「何かいるの?」
 私は遠くから見ていたこと彼に告げた。写真を撮らせてもらっていいか、とも。
「写真って何?」
 私はカメラを持ち上げてみせ、簡単に写真について説明した。
「要するに、アライグマみたいなもんだね」
 全然違うと思ったが、そうだね、と言っておいた。

 私は彼が広げていた書籍のタイトルを読んだ。「失われた時を求めて」と読めた。どんな内容かは知らないが、レッサーパンダのぬいぐるみが読むのには向いていないと思ったので「もっと童話とか絵本の方がいいんじゃない?」と言ってみた。
「絵本って何?」
 私は絵本について簡単に説明した。
「やっぱり、アライグマみたいなもんだね」
 もちろん全くアライグマのようではないと思ったが、そうだね、と言っておいた。

 私も本棚からまだ崩れていない本を探し出して、旧世紀の写真集や絵本を眺めた。レッサーパンダはいつまでも「失われた時を求めて」の真ん中あたりページを広げながらうつらうつらを繰り返していた。

 その日は図書館の廃墟で寝て過ごした。何枚かレッサーパンダのぬいぐるみの写真を撮らせてもらった。旅立つ間際、こっそりレッサーパンダが開いている本を別のものにすり替えてみた。すると怒られた。
「これが一番いいの」
 そう言って取り戻した「失われた時を求めて」を開くと、彼はまたうつらうつらとし始めた。

(了)


なんだこれは(自分でもわからない)。
ちなみに「失われた時を求めて」は一冊の本では収まりません。


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泥辺五郎
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