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一万編計画

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一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
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2023年12月の記事一覧

桃源郷。

初夢には靄が立ち込めていて、船頭の背中はうら寂しかった。空気は冷んやりとして、小川を漕ぐ…

キャバレー。

暗闇だった。 「何も見えないよ」 男は呆れるように漏らした。 「悪くはないんじゃない?」…

カールスバーグは悪い奴。

バーカウンターには様々な関係の人々が訪れる。偶然街で顔を合わせた同窓生達。不倫と純愛の中…

撞球場の夢。

ビリヤード場にいる。悲しい気分になる。明晰夢の只中にいたとしても、君と会うのは苦しい。君…

閏人。

「まるで、閏みたいな関係だね」 「うるう?」 聞き返して、すぐに後悔をする。私は関係のど…

耽酒。

「恋と酒は、分けておくのが賢明だよ」 先輩は僕にそう諭したことがある。先輩は上手に年を重…

新幹線。

新幹線は孤独の速度で走る。線路が軋む音だけが響き、乗客の多くは眠っている。起きている人も、車窓を駆け抜ける風景に何かを仮託している。新幹線にはそういう役割がある。認知能力の辺境で、孤独を身に染ます役割を担っている。 「再会を望まない人は、存在しないんじゃないかな」 数ヶ月ぶりでも半年ぶりでも閏年ぶりでも、僕は君と再会することを願っている。あるいは確信している。必ず再び会えることを。運命は手繰り寄せられる。自分がどのように振る舞うか、という問題に過ぎないんだから。 「も

まどろみてふてふ。

「まるで……まどろみてふてふ、だっけ?」 「……そう」 「それに、犯されたみたいだね」 …

會田。

會田はベッドと床の隙間でしか眠ることができなかった。 「今日も寝られないの?」 會田は自…

幻銃。

「この拳銃には弾薬が1つだけ入っている」 性格の良い悪魔は、順序立てて丁寧な説明をする。 …

Urban Circulation.

朝陽はすっかり昇り、都市の排泄物のような生活をも照らし出している。 「朝ですね」 彼女は…

掛け違い。

「……間に合ったね」 終電の1分前で、駆け抜ける人が後を経たない。 僕と彼女は15分前に駅…

アイリッシュコーヒー。

今朝は今年一番のアイリッシュコーヒー日和だった。飲みさしのバスカーの状態はよかったし、エ…

スプーントゥーアブレイン。

いやな夢を見た。僕は少し大きなスプーンを持って、食卓についていた。大きなスプーンを握っていると、唾液が止まらなく服にぼたぼたと垂れる。僕はテーブルに置こうと思ったけれど、手のひらがそれを拒否する。 「まぁまぁ、ご馳走が今からくりゃんす」 手のひらの声は、小学生の担任の声だった。三年生の時か、四年生の時か。特に思い入れもないから名前も忘れたし、顔もざっくりとしか覚えていない。でも、声だけははっきりと覚えていた。(あるいは、手のひらの声を聞いて、覚えていることを意識させられた