カールスバーグは悪い奴。
バーカウンターには様々な関係の人々が訪れる。偶然街で顔を合わせた同窓生達。不倫と純愛の中間に酔いしれる男女。毎日に辟易した夜の蝶。その見本市は、僕にたくさんの視座をもたらした。いかなる人生も画一的なものではなくても、あらゆる物事はトレード・オフの関係から逃れられない。というのが、僕の今の立場だ。
「僕は多分……時々気まぐれに会って、思いのほか心を開いてもらって、またそのうち会いたいって思ってもらう……ことがちょうどいいと思うんです」
青年は、隣の女性に対して呟いた。
「それって、都合が良い人みたいじゃない?」
「それでもいい、なんて言うと開き直っている見たいですけど、本当にそう思ってるんです」
青年の微笑みには、ある種の暫定性が含まれていた。僕はそのような揺るぎない価値観に触れることが好きだ。
「自分のことも、大切にしなよ」
彼女は事も無げにいなした。青年と隣の女性は、僕のささやかな経験則からすれば哀しい関係性だ。上手くいくことは明白なのに、多くのしがらみが邪魔して叶わない。でも、現実ってだいたいそういうものなのかもしれない。僕は青年にガールズバーグを一杯サービスした。そういうのって、価値交換として意外と等価だ。
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