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幻銃。

「この拳銃には弾薬が1つだけ入っている」

性格の良い悪魔は、順序立てて丁寧な説明をする。

「特別な弾薬でね、どこを撃っても痛みを感じない。むしろ気持ちが良い。そのまま、ころっとあの世に行ける。ただし」

性格の良い悪魔は長い人差し指を墓標のように立てる。

「自分に向けて撃たないと、その効力は発揮されない」

「なるほど」

「要するに、保険みたいなものさ。考えようによっては良い味を出す。死に際の決定権があれば、大胆な挑戦だってしやすい。悪魔が作ったわりには、人間にも役が立つ例外的な道具だ」

「他人に向けて撃ったら、痛いのか」

「……そこまでは説明できないね。発射されるのかもしれないし、空砲で終わるのかもしれない。少なくとも」

性格の良い悪魔は、短い薬指を立てた。

「引き金を引く権利は、一回だけだ」

男はその拳銃を恭しく見つめてから、性格のいい悪魔に向かって発射した。悪魔は苦悶の表情を浮かべたが、やがて煙に包まれて消えた。男が悪魔の死に方を見たのは、これで二度目だった。

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