キャバレー。
暗闇だった。
「何も見えないよ」
男は呆れるように漏らした。
「悪くはないんじゃない?」
ホステスは暗闇に慣れている。人生だって簡単に熟してしまうから。
「見えなくてもいいことばかりじゃない」
死体が踊り始めても、鼠が猫を貪り喰っても、嗜虐の限りを尽くしても。
「そう言うならいいけどさ」
男は溜息をつく。溜息上戸。
「あたし、今はだかだよ」
暗闇。
「そういうのって、あまり意味がないな」
「そうかしら」
「そうだよ」
ストロボ。
「ほら、言ったでしょう?」
「うん」
ストロボ。
「でも、些末な違いに過ぎないよ」
「そうかしら?」
暗闇。
「そうだよ」
溜息。嘔吐。酩酊。断眠。
「キメてたのかしら」
静寂。あるいは、沈黙。
「あたし、服を着るわ」
死体が踊り始める。アフターダーク。死体は踊り疲れる。でも、死んでいるから収まりがつかない。永遠。ビッグクランチ。もう一度、はじめから。溜息。はだか。
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