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一万編計画

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一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
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2022年8月の記事一覧

ラブレター通信。

本日のラブレターは、大学生X氏より。思いを寄せた後輩とのドライブデート。深夜に気持ちを伝…

驟雨。

巨人の群れが一斉に泣き出したみたいな驟雨だった。僕は慌てて高架下に駆け込んだ。さっきまで…

プレイリスト・ラヴァー。

世界で最も幸せな時間は、翌日のドライブのプレイリストを編む時間だ。行き、寄り道、突然雨が…

ノート。

『蛍の光』が流れ終わっても、あの客は帰ってこなかった。私は彼が置いていったノートや袖珍本…

背反。

視線を一身に浴びることが好きだった。何対もの眼球の中に、自分が認められることがたまらなく…

母性の萌芽。

人の価値なるものに序列をつけることは不毛であるが、時々後ろを振り返った時に寄り掛かりたい…

鈴虫。

夜明け前の静寂を鈴虫が埋めている。暗闇の中、私は天井を見つめてどこかで鳴く鈴虫に思いを馳せている。 脳は眠りを拒絶している。そういう夜がある。不安としか言うことのできない感情の、その果てしない漠然性に自己を喪失してしまう夜がある。掬った手から自己が零れ落ちる感覚は、とても痛切だ。巨人が愛好するプラモデルに置き換わったような塗炭。そういった夜の静寂は、まきびしのように私を待ち構え、寝返りを打つ度に私を突き刺す。 鈴虫がなぜあのような音色を獲得した(あるいは付与された)のか僕

我故我。

自分という存在は3つある。 1つ、実存的な自分。三次元という暫定的な世界に身を置く、我々が…

産女。

地元で有名な長い橋を渡っていると、旧友とすれ違った。 「やあ、久し振りじゃないか」 僕は…

裸足。

初めはちょっとした好奇心だった。久々にサンダルを履いて歩いた時、普段より大地を踏みしめて…

エスエヌエス。

閾値を越えた繋がりは、かえって人を不安にさせる。 日曜日。競馬中継を見ながら一瞬の享楽に…

おとろし。

昼下がり、街路樹の下のガードレールに腰掛けてコーヒーを飲んでいたら、突然おとろしが落ちて…

事故。

道端に倒れている男がいた。男の前方にはハザードランプをつけた車が止まっていて、その運転手…

日陰の向日葵。

少年は、向日葵の種を日陰に植えた。それは、誰しもが幼い頃にもつ、好奇心に隣接した残酷な感情によってもたらされたものだった。もちろん少年は、他人の目線を受ければ、優しく溌剌とした少年Aを演じることができる。しかし、まだ独りでいる時に、本能を理性で抑えられる程は成長していない。少年は、公園では蟻を踏み潰す巨人になり、校庭では草花を千切る悪魔になった。そういった部分が、今回も少年を突き動かした。どの花よりも陽光を希求する向日葵を、日陰に植える。少年の豊かな想像力をもってしても、それ