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読書熊録

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2023年6月の記事一覧

人生に向き合うには具体的に悩むことーミニ読書感想『哲学の先生と人生の話をしよう』(國分功一郎さん)

人生に向き合うには具体的に悩むことーミニ読書感想『哲学の先生と人生の話をしよう』(國分功一郎さん)

哲学者・國分功一郎さんがメールマガジンで運営していたお悩み相談を一冊にまとめた『哲学の先生と人生の話をしよう』(朝日文庫、2020年4月30日初版発行)が面白かったです。人斬りのように、鮮血を飛ばしながら悩みを切り裂いていく國分さん。たぶん相談者は傷付いているだろうな、と読んでいて心配になるほど。翻って、読者の中にもある「甘さ」が切り裂かれていく痛快さがあります。

特に気に入ってるのは、「今まで

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あなたの未来を私が勝手に決め手はいけないーミニ読書感想『明日の僕に風が吹く』(乾ルカさん)

あなたの未来を私が勝手に決め手はいけないーミニ読書感想『明日の僕に風が吹く』(乾ルカさん)

乾ルカさんの青春小説『明日の僕に風が吹く』(角川文庫、2022年9月25日初版発行)を読んで涙がこみ上げました。作中の表現を借りれば、「折れかけた心をバットでフルスイングされた」(p204)。ちょっと仕事がしんどかっり、人間関係に疲れたりした人に、逆におすすめしたい。熱い感動や励ましではなく、直球の青春が、ショック療法のように心を奮い立たせる。

主人公の男子高校生、川嶋有人は、中学時代のある出来

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世の中の余白を増やすーミニ読書感想『人生をいじくり回してはいけない』(水木しげるさん)

世の中の余白を増やすーミニ読書感想『人生をいじくり回してはいけない』(水木しげるさん)

タイトルが印象的で購入した、水木しげるさんの『人生をいじくり回してはいけない』(ちくま文庫、2015年2月10日初版)が面白かったです。ゆるゆるの水木節に浸れる。水木さんが書き続けた妖怪は、社会の影から、闇から生まれる。光だけの世界は生きづらい。水木さんの仕事は、世の中に余白を増やすことだったんだと感銘を受けました。

戦争体験や人生観など複数のパートに分かれる本書。中でも第3部『お化けは実在する

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生きづらさの科学的解明ーミニ読書感想『発達障害の人には世界がどう見えるのか』(井手正和さん)

生きづらさの科学的解明ーミニ読書感想『発達障害の人には世界がどう見えるのか』(井手正和さん)

心理学者・井手正和さんの『発達障害の人には世界がどう見えるのか』(SB新書、2022年12月15日初版発行)が勉強になりました。ASD者(自閉スペクトラム症者)の感覚過敏や感覚鈍麻に関して、脳科学研究の最新の知見を紹介してくれる。いわゆる「生きづらさ」が、科学的に言うとどのように説明可能なのかを明かしてくれます。

こうした「生きづらさの科学的解明」は、今後さらに進んでいくのだろうなという希望を抱

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