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「事件」という概念をさまざまな観点から論じることを通して、ジジェク自身の思想が概説される:『事件! 哲学とは何か』(河出ブックス)
結構大事なことだと思われるので、まずは訳語について。eventが「事件」と訳されているが、日本語の現代思想系テクストでは「出来事」という訳語がほぼ定着している、立派な術語である。しかし、本書はガチガチの学術書ではないし、驚きを込めた「事件」という表記の方がふさわしい箇所が多々あるため、こちらを選択したのも頷ける。他方、「俳句」が扱う(とジジェクは捉えている)純粋で無意味なeventは、「出来事」という日本語の方がふさわしいだろう。そういうわけで、本書の「事件」という言葉はよ
「人格崇拝」と「合理化」の行きすぎが、現代人を自己コントロールの檻に閉じ込めている:『自己コントロールの檻』(講談社選書メチエ)
本書は現代社会(といってもこのレビューの20年近く前だが)を、①〈心理主義〉、②〈人格崇拝〉、③〈マクドナルド化〉(合理化)という3つの特徴が、過剰に発達してしまった社会として捉える。社会の〈心理主義〉化とは、「さまざまな社会的現象を個人の心理から理解する傾向や、自己と他者の「こころ」を大切にしなければならないという価値観、そのために必要な技法の知識が社会のすみずみに行き渡ってきている」ことを指す。〈人格崇拝〉とは「個人の人格を尊重すべきものとみなす」ことであり、近代以降の
一見スマートな見取り図にセンセーショナルな題材が目を引くが、雑すぎる議論で台無し:『モノ・サピエンス:物質化・単一化していく人類』(光文社新書)
この人の著作は前にも読んだことがあるが、ニューアカや東浩紀に影響された哲学専攻者の思いつき現代社会語り、という感じ。そもそもが生命倫理畑の研究者なのに大陸系現代思想に首を突っ込み、上澄みの更に上澄みをすくって「どうです? 簡単でしょ?」と説明してしまうスタンスが気に食わない。明らかに対象への敬意がなく、「なんだこんなもんか」と思わせる書き方をする。当の思想家自身の著作や、せめて本格的な入門書を1、2冊でも読めば、ひどくいい加減な取り上げ方をしていることが分かるだろう。 ま
「日本にとっての第一次世界大戦とは外交上稀に見る失政の連続の歴史に他ならなかった」 : 『複合戦争と総力戦の断層:日本にとっての第一次世界大戦 (レクチャー第一次世界大戦を考える)』
本書ではまず、 2つの実戦 :日独戦、シベリア出兵 3つの外交戦:対英、対中、対米 から成る、10年9ヶ月にわたる〈複合戦争〉として「日本にとっての第一次世界大戦」を捉える。そして、根底には「中国における権益の確保」という関心が一貫して存在していたという観点に立つことで、「日独戦」「対華21ヵ条要求」「シベリア出兵」といったこの時期の大日本帝国のアクションを統一的に把握している。このような視座から、それぞれの「戦争」における日本の指導者や軍部の様々な思惑、最終的にとられた行