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【著者対談】『図解 組織開発入門』著者 坪谷邦生 × Discover21 人事担当者 編①組織開発とは?

ベストセラー『図解 人材マネジメント入門』著者の坪谷邦生さんによる最新刊『図解 組織開発入門』が発売されました。多くの人にとってわかりづらい「組織開発」という分野について「体系的」かつ「わかりやすく」解説することを念頭に置いて書かれたのが本書です。
今回は本書の発売記念として、坪谷さん×弊社社員のインタビュー企画を複数回に渡ってお届けします!

第一弾は坪谷さん×ディスカヴァー ・トゥエンティワン人事担当の堀部さん。
人事といえば「組織開発」にもっとも近そうなポジションですが、担っている役割が広いだけに「結局、組織開発を進めるためにはどうしたらいいのか?」と戸惑うことも多いそう。そんな人事視点での疑問を、著者の坪谷さんへ赤裸々に投げかけます。

坪谷 邦生(著)

組織開発は組織の「あり方」を決めること

D21人事・堀部(以下 堀部):
私は入社以来、書籍の編集や社内のデータ管理・分析などさまざまな部署を渡り歩いてきたのですが、2年前のある日突然「来週から人事ね」と告げられました。なので、組織開発という言葉も知らずに人事になりました。加えて、人事の業務ってものすごく幅広いにもかかわらず、中小企業だと人事が1、2人ということも多いですよね。そうしたときに、人事のなかでの組織開発の優先度をどのように考えたらいいでしょうか?

著者・坪谷さん(以下 坪谷):
優先度ではなく、どのような「あり方」で目前の仕事を進めるかだと思います。
今回の『図解 組織開発入門』でいうならchapter2ですね。

堀部:
ん? どういうことですか? 
「あり方」についてもう少し詳しく教えていただけますか?

坪谷:
正直、ここが一番難しいところなんですよ。
「あり方」こそ「組織開発」の本質とも言えます。

この本を書くときに、担当編集の渡辺さんと一番悩んだ部分もここです。

丁寧に考えていきましょう。
……堀部さんは、人事になったばかりの頃は何をされていましたか?

堀部:
人事・労務・総務・法務というバックオフィス全般を一身に請け負っていたので……最初は日々の問い合わせ対応などに必死で、大枠の制度設計などには全く目がいかなかったです。
半年くらい経って、目標評価を運用することになって、やっと制度のうまくいってない点が見えてきました。来たものを打ち返しているうちに、徐々に視界が開けてきた、という感覚です。

坪谷:
「来たものを打ち返している」とき、どんなことを意識していましたか?

堀部:
「一貫性」があること。昨日と今日の判断が同じ基準に基づいていることです。あとは、フェアであること。プロセスがオープンで、経営や従業員のどちらかの利益に偏り過ぎないように、とか。

人事制度は過去に引きずられる部分もあります。過去の経緯で規程とは違う例外的な運用になっている部分もあり、それを尊重しつつ、現状とひずみが生じないようにするにはどうするべきかを考えていました。

坪谷:
それです! それこそ「組織開発」なんです。堀部さんは「組織開発」をしていたんですよ。

堀部:
えぇっ……!? どういうことですか!?

坪谷:
本でいうところの図表003を見てください。

『図解 組織開発入門』p13

組織開発の「目的」は組織をよくすること。そのための「やり方」として関係性への働きかけを行うわけです。そして一番重要なのはその下の「あり方」です。

今回のケースでいくと、堀部さんという実践者の「あり方」が組織開発の本質を担っていました。すなわち「人間尊重的」「クライアント中心的」「民主的」「社会・環境志向的」な姿勢のことです。堀部さんが、そういったあり方で、関係性へ働きかけていくことで、組織がよくなっていく。これが組織開発ですよ。

組織開発では「やり方」よりも「あり方」が重要です。いくらこの本に書いてある組織開発の手法、「やり方」を取り入れても、実践者の「あり方」が歪んでいたら、組織開発にはなりません。むしろ逆効果、悪影響となることも多いのです。

堀部さんが、一貫性をもって、フェアに、矛盾のないように、古い制度のネガティブな側面がみんなの悪影響にならないように、組織をよくするために……そういった「あり方」をもって対応していた。これが「組織開発」そのものなんです。

堀部:
なるほど。ついつい「やり方」に目を奪われて、「あり方」について書かれているところを素通りしていました。 

坪谷:
ここが一番伝わらないんです(笑)

多くの方は「あり方」の話をすると、初めは「ん?何を言われているんだろう」という反応をされます。「やり方」しか目に入っていないのですね。

 図表003の上部に“組織を良くするため、実践者の価値観をベースに、人と人の間の関係性へ働きかけること”と書いてあります。ついつい手法を中心に考えてしまうのですが、「実践者の価値観をベースに」というのが何よりも大切です。

『図解 組織開発入門』p45

堀部さんが先ほど「一貫性」とおっしゃったとき、堀部さんは組織開発を正しい「あり方」で実践されているのだなと感じました。

私は「一貫性」こそ良い人事の条件であり、人材マネジメントを効果的にする最重要事項だと考えています(坪谷邦生『図解 人材マネジメント入門』P20)

堀部:
自分ではたいしたことはできていないと感じていたのですが、ちょっとは良い人事だったのかもしれないですね。

坪谷:
結局、みんなに伝わるのは実践者の「あり方」です。堀部さんが経営にも現場にもフェアなことを目指そうと思って動いてくれていたとか、何か一生懸命伝えようとしてくれていた、ということは伝わっていると思います。それが組織の人と人との関係性を良くするアプローチそのものです。

とはいえ、もちろん「やり方」も大切ですよ。良い「あり方」であっても、ただ座っているだけでは何も起きません。「あり方」を実現させるためにも、具体的に何をするのかという「やり方」もしっかりと考える必要があります。

「組織開発」は人事だけの仕事ではない

堀部:
「あり方」こそが組織開発の実践であるということ、本書にもある「組織開発を誰がやるのか」の答えは結局「みんながやる」ということになりそうですね。 

坪谷:
まさしくその通りです。「人事部門だけが組織開発をやっています」「組織開発チームがあるからお任せです」という会社はうまくいかない。……誰よりも、まず経営者が率先してやっていないとダメでしょうね。

そして、一人ひとりの言動が組織や組織文化をつくっていきますので、最終的には、全員が実践者となっている必要があります。

堀部:
なるほど。

坪谷:
ただ、いきなり「全社員が実践者としての「あり方」を持て!」と言われても難しい。ですので、自分自身を使って「こういうあり方がうちの組織としてはGoodなんだよ」ということを伝えるのが、人事担当者や組織開発担当者の役割です。

堀部:
とても納得します。人事として仕事をする大前提として、やはり経営者の考えと違う発信はできません。

坪谷:
たまに人事の方から「うちの会社の社長が間違っているから社長の意識を変えたい。そのためにどうしたらいいですか」という相談がありますが、「いやいや、おこがましいにもほどがあります」とお答えしています。経営者の器を広げるのは、人事担当者の仕事でも外部コンサルタントの仕事でもなく、経営者自身の仕事です。

堀部:
「あり方」を伝えるとき、経営者の次に影響力があるのが人事でしょうか? 

坪谷:
いえ、人事ではありません。それは「直属のマネジャー」ですね。課長、チームリーダー、主任、肩書きは何でも良いのですが、日常の仕事の指示をしている人のことです。

部やチームの組織サーベイをとると、マネジャーの信頼度とチーム全体の健全性は、強く相関しています。自分の仕事の評価をしてくれるマネジャーの一挙一動は、組織文化の形成にダイレクトにつながっているのです。

社長がどんなに正しいことを言っていても、直属のマネジャーが全然それをやっていなかったら、メンバーの行動が変わるはずがありません。反対に、そのマネジャーが日々の業務一つひとつの目的を、社長が語っている会社の目標と紐づけて語ってくれたら「なるほど」と納得して、メンバーの行動は自然と変わるはずです。

堀部:
たしかに、直属のマネジャーの行動があやふやだと不安や戸惑いを感じますね……。

坪谷:
経営者と直属のマネジャーが同じ世界観で話していると「一貫性」を感じられます。社長の言っていたことを同じようにマネジャーが言っていたら、「この人もやっているんだ、自分もやろう」となります。こうした伝播が起きると良い組織になります。

堀部:
直属のマネジャーの言動はとても重要なんですね! 

坪谷:
はい。経営者だけでも、マネジャーだけでもダメで、どちらも必要です経営者は全社に広く伝える。そしてマネジャーはそれを実際にやってみせたり、具体的な作業に落として意義を伝えたりする役割があるのです。

社長の言葉を、マネジャーが「自分自身の言葉」として「語りなおし」できているかどうかが、明暗を分けるようです。


②リモートワーク環境での組織開発 はこちら⇩

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いかがでしたか?
経営者やマネジメント層、ひいては組織に所属して仕事をしている全員が「組織開発」に携わっているということがおわかりいただけたのではないかと思います。
 
次回は「リモートワーク環境での組織開発」についてです。
リモートワークがはじまってうまくいかないことが増えた…しかしその根本原因は「リモートワーク」ではないといいます。リモートワークをされている方は勿論、対面でお仕事をされている方にも実り多い内容となっていますので、必読の一記事ですよ!


【著者紹介】

坪谷 邦生(つぼたに くにお)
株式会社壺中天 代表取締役、株式会社アカツキ 人材マネジメントパートナー、株式会社ウィルシード 人事顧問、中小企業診断士、Certified ScrumMaster認定スクラムマスター。
1999年、立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。2001年、疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動、人事担当者、人事マネジャーを経験する。2008年、リクルート社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援する。2016年、急成長中のアカツキ社で人事企画室を立ち上げる。2020年、「人事の意志を形にする」ことを目的として壺中天を設立。
20年間、人事領域を専門分野としてきた実践経験を活かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、人材マネジメント講座などによって、企業の人材マネジメントを支援している。
主な著作に『人材マネジメントの壺 ARCHITECTURE』(2018)、『図解 人材マネジメント入門』(2020)など。

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