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【未収録原稿を公開!】『そのままの自分」を生きてみる』あとがき

4月19日に『「そのままの自分」を生きてみる』(藤野智哉・著)が発売になりました。
このnoteでは、著者の藤野智哉先生が書かれた「あとがきの全文」を公開します。


編集者コメント

あとがきの全文を載せられなかったのは、ひとえに編集の都合です。
藤野先生から最初にいただいたあとがきは、もう少し長文のものでした。
けれども制作の都合上、あとがきを掲載できるページ数が限られていたため、短くせざるをえませんでした。
また、文章のテイストも、本文がX(旧Twitter)に載せた文章の延長線上でゆるめで読みやすい原稿になっていたため、あとがきも本文のテイストに合わせていただくことにしました。
ですので、あとがきを、短く読みやすく書き直していただいたのです。
しかし、最初にいただいたあとがきには、書籍の形にはおさまりきらない、思いのこもった心に深く刺さる魅力がありました
それを読者の方にも味わっていただきたく、藤野先生と相談して、今回全文を公開することにしました。
ぜひ、ご一読いただけたらうれしいです。

(担当編集)
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未収録原稿(あとがき)


精神科医をしていると多くの「死にたい」に出逢います。

しかしその言葉は「生きていることがつらい」「助けてほしい」「変わりたい」「やり直したい」さまざまな言葉の言い換えであることもしばしばあり、そこには「どうしたらいいかわからない」というSOSが埋め込まれています。

こうした本の出版のお話をいただいた際はいつも医師としての実際の経験や知識を、受診をしてきたわけではない読者の方々のニーズにどう変換するかを考えながら進めていきます。
しかし、少し気を抜くと読者の方々の需要に飲み込まれ、自分の中にはない、しばしば実臨床で感じることから脱線をした一般論が増えていってしまいます。

今回の「変わりたい、変わらなければと思った時」というテーマについて考えていた際も、どこまでが私の感じていることであるのか、この話は自分のどこから出てきたのかをずっと自問していたのですが、あとがきを書いている今、ようやく冒頭の話に結びつき腹落ちしました。

みなさんが「変わりたい」「変わらなければ」と考えている時、そこには「今の自分ではダメだ」「つらい」「自分が嫌い」など人それぞれの別な想いが内包されており、どうしていいかわからず困っているわけです。

表層に出てくる言葉に惑わされず、その背後に隠れている問題をどう解決するのか一緒に考えていく必要があるというのは日々の診療の中で常々感じることですが、これは実は精神科に限ったことではありません。

研修医の時に「めまいがする」と言う患者さんの言葉をそのままカルテに記載し、上司から患者さんの言う「めまい」が「ふわふわする」なのか「目が回る感じ」なのか「目の前が真っ暗になる感じ」なのか、しっかりその意味を聞き取るよう厳しく指導されたことが今でも思い出されます。

我々はついみんなが同じ世界を生き、同じ言語を使い、同じ景色を見ていると思ってしまいますが、人によりその見え方も感じ方も伝え方も大きく違うということは、この本の中でお伝えできたかと思います。

言葉はとても多くのことを伝えてくれるようで、みなさんのこころのほんの一部しか形にできません。

「変わりたい」という言葉に、ひたすら「変わる方法」を投げ返すのは簡単です。

しかし「変わりたい」という言葉にどんな気持ちが内包されているのかをまずはみなさん自身に知ってもらわなければ、この「めまい」は消えないと思いこの本を書きました。

自身に目を向けるのはエネルギーが必要ですし、恐ろしいと思うかもしれません。しかし自分がどのような葛藤の中にいるのか、向き合ってみると意外と悪くないと思えることもあります。

例えばロングヘアの女性が「ショートヘアにしてみようかな」とカフェで話し込む。
周囲は「切っちゃえ切っちゃえ、絶対可愛いよ。」と勧め、そうするのかと思いきや結局切らないという結論に落ち着く。
「パートナーと別れようかな」と居酒屋で愚痴る男性。友人は「別れろ、別れろ、他にもっといい人がいるさ」と促すも結局別れない。

よくみる光景ですがこんな時、彼らは意外と自分の葛藤を理解していて結局あまり他人の意見は気にしていなかったりします。自分の葛藤、揺れ動き、アンビバレントな感情の狭間を楽しんでいるのです。

アンビバレンスを抱え、揺れ動けるのはその合間にいる時だけです。
何かを決めてしまえば振り子はそちらに大きく傾き、取り返しがつかない動きが始まります。

そうして人生が動き出す感覚も悪くはありませんが、その手前、狭間にいる時にしか味わえない色気のようなものでしょうか。
そこからしか得られない、決め切っていないからこそどちらも味わえる色気があるのです。
変わりたいとあせる前に、その狭間の楽しみを少しだけ享受してみてもバチは当たりません。

前作、『「誰かのため」に生きすぎない』(ディスカヴァー)がありがたいことにヒットしてこの2作目を出すに至ったわけですが、非常に多くのレビューや感想が書かれたこと、Amazonで「ギフトとしてよく贈られている商品」のランキングに入っていたことが印象的でした。

『「誰かのため」に生きすぎない』を「誰かのために」すすめたいと思ってくれた方がたくさんいる、なんという矛盾そして、なんという味わい深さなのでしょうか。
多くの人の揺れ動く気配を味わわせていただき、著者として本当に感謝の念に堪えません。

変わりたい人がターゲットとなる市場で、この本は『「そのままの自分」を生きてみる』というタイトルです。
変わるために背中を押してくれるのか、あせらなくていいと撫でてくれるのか、読む人や時期によって、大きく変わると思います。

変わりたいと思うのもよし、変わりたいと思わないのもよし。それぞれのタイミングでこの本を引っ張り出し、それぞれの狭間を味わってもらえたらと思います。

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著者について

藤野智哉(ふじの・ともや)
1991年生まれ。精神科医。産業医。公認心理師。
秋田大学医学部卒業。幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。
学生時代から激しい運動を制限されるなどの葛藤と闘うなかで、医者の道を志す。
精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。 障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見を発信しており、メディアへの出演も多数。
主な著書に『「誰かのため」に生きすぎない』(ディスカヴァー)『自分を幸せにする「いい加減」の処方せん』(ワニブックス)、『精神科医が教える 生きるのがラクになる脱力レッスン』(三笠書房)などがある。

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