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『ゼロ-アルファーー<出来事>のために』 断片②-2

………予定されていたはずの、文書の無限反復は余計なものだった。それは出来事を抹殺するための最も古くさい戦略だったのだ。なぜなら戦争と呼ばれるものは常に、この文書の反復の避けがたい腐食から、この同じものの反復の超-飢餓状態から、あらかじめその挫折が宣告されている再生のための触媒としての差異を渇望して生まれてきたからだ。

 自ら生み出した砂漠を逃れ生き延びるために、この文書化の装置は必ず戦争を体内から分泌していく。他方、文書の《隙間/裂け目》から生まれたこの舌の動きの反復は、やがて声となり叫びとなる。剥離された顔と名前が絵画文字として同時にそこに刻み込まれた砂の上を、彼方からの風がいっせいに駆け抜けていく。爆撃。そして閃光。開かれる目と耳。砂の上の顔と名前、あるいは絵画文字は何度も風とともに分散し、消滅する。振り返ってみても、もはやあの壁に塗り込められた私の顔はない。そして私の名前も。生まれたばかりの声と叫びは風の音に変わる。〈私〉が反復されるわけでは決してなかった。それは文書への回帰に過ぎない。反復されるのは、砂漠の上を絶えず通過していくこの風とともに、動きへの果てのない渇望に貫かれながらその都度生み出されるこの分散そのものなのだ。

すなわち、彼方へと通過していく風/言葉/笑い……。


以上の作品のオリジナルは90年代に書かれた散文草稿『ゼロ-アルファーー<出来事>のために』のごく一断片である。(形式的-内容的改変無し)


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