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末期にて 1999夏 Original version  

1999年夏創作(本作品の別versionが詩誌「潮流詩派」に掲載された)

雨が降っている

目の前のパソコンのディスプレイ  

この両腕

机の脇に積み上げられた本の周り  

いたるところ

夜の闇に溶け込む

蛍光灯の光の下で

数十匹の羽蟻たちが蠢(うごめ)いている  

私は羽蟻たちを遠ざけた

息を強く吹きかけ  

指で払いながら  


そう言えば

仕事からの帰り  

駅前のいつものバス停に

「民主主義とは大衆が暴君になることだ」

と書かれた紙が貼られていた  

こんなことは初めてだ  

誰に言われてやったのかは知らないが  


今朝

羽蟻たちはいなくなっていた  


昼間 

神保町で

十数台の街宣車の群れが絶叫していた 

その叫び以外にはなにも聞こえない  


褐色の血と黒の血が混じったパレスチナ人の基督が白い血のローマ人に殺されてから

もうどれだけ経っただろう


今年もまた

人々は爆撃で殺された 

だが

殺したのは誰か

そして殺されたのは誰なのか

お前に答はあるのか?

 

そう 

殺せ

殺しに行け

なにも考えずに

その時  

お前は殺される

 

当然のことだ

お前はそう言われてやっただけだ

お前自身の思考も

血も

消し去って

 

他ならぬお前が人を殺したこと

そして殺されたことを

語る者は誰もいない




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