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中編純愛小説【好きを伝えきれなくて】

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中編純愛小説【好きを伝えきれなくて】5

この作品は過去に書き上げた中編純愛小説です。

明るいムードのなか、愛が絶賛するかのように舌鼓をしたあと、突然、声を張り上げた。

『ここのスープ、美味しい。麺もこしがあって歯触りも最高』

麺をずるずると口にそそる。

かなり味覚があったのか、黙々と食べ続ける愛を見て、涼はひとり、今はまだ告白は控えておこう、この関係を失わないようにしようと唇を噛み締めた。

愛は僕のことをどう思っているのだろう

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中編純愛小説【好きを伝えきれなくて】4

この作品は過去に書き上げた小説です。

『愛、この店だよ』

『綺麗なお店だね。最近、出来たの?』

『いや、そうでもないよ。随分と以前からあるよ。ただ半年ほど前にリニューアルオープンしているけどね』

愛がつぶらな瞳で店内を覗き込んだ。

無邪気な幼子のような表情で店内へと入る。

『私、何を食べようかな』

愛のほころぶ顔。

涼はまだ口には出してはならない想いを胸にそっと閉まった。

心のな

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中編純愛小説【好きを伝えきれなくて】3

この作品は過去に書き上げた作品です。

涼は愛の姿が見えなくなるまで直立不動のまま、黙ってそっと見送った。

涼は恋の予感に胸をときめかせていた。

ひとり、想像に浸り、心は躍動し、喜びで満たされた瞬間だった。

若い頃のようにはしゃいだりは出来ないけれど、愛との関係を大切にゆっくりと焦らずに育てていこうと、この時すでに彼は心のなか奥深く決意していた。

月日は巡る。

書店内のふたりは他のスタッ

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中編純愛小説【好きを伝えきれなくて】2

過去に書き上げた中編純愛小説です。

グラウンドに沿って舗装されて間もないアスファルトの歩行者専用道路の両脇の道沿いには、赤褐色のレンガが三段積みで列をなしている。

桜の木の側には芝生が植え込まれ、先端が綺麗に手入れされている。

おそらくだが毎日、誰かがここへやって来ては、草刈り専用の鎌なりを使って整えているに違いない。

涼はさりげなくその光景を想い浮かべては何時間費やせば、これほどまでに美

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中編純愛小説【好きを伝えきれなくて】1

過去に書いた中編純愛小説です。


樹齢百年以上だろうか・・・。

随分と昔からこの場所に立っている気がしてならない。

麻倉涼は桜の木に背もたれしながら、木々の枝先の切れ間から射し込む太陽の光を顔に浴びながら、ぼんやりと空を眺めていた。

透き通るコバルトブルーが様々な形状をなす白い雲を際立てている。

涼は大きく深呼吸をした。

そっと瞼を閉じて幾度となく繰り返したのち、視線を少し落とした。

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