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旅のうた(歌日本紀行)

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2022年1月の記事一覧

(第12回)「なごり雪」〜線路の先の物語」

(第12回)「なごり雪」〜線路の先の物語」

 なごり雪。なんてきれいな言葉なのかと思う。この歌が世に出た当初は、「なごり雪」ではなく「名残りの雪」というのが正しい日本語だとクレームもついた。だが、いまやこの「なごり雪」は、堂々とした(情緒たっぷりの)日本語として、歌い継がれていく切ないメロディとともに、広く認知されている。

 この歌の舞台は正確には書かれていない。東京のどこかで、故郷へと帰っていく恋人を悲しげに見送っている、そんな歌だ。

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(第11回) みんな一度は埼玉にやられる

(第11回) みんな一度は埼玉にやられる

 このまえ、ある知り合いのおっさんが、カラオケで、八神純子の『思い出は美しすぎて』を熱唱していた。「なぜにおまえが」とツッコミを入れると、ドッとその場が湧いた。そう、いま世の中は「なぜにおまえが」に見張られている。

 たとえ同じコメントだとしても、知識人や有名人にならないと「その人が言う理由がない」ということで、世間には披露されず、たとえ革新的なアイデアだとしても、無名のクリエイターだと会議の遡

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(第10回)  象徴としてのフリーウエイ

(第10回) 象徴としてのフリーウエイ

 ユーミン(松任谷由実)の歌を扱うのはこの稿において二回目なので迷った。だが最近、ある本のことを思い出し、やはり触れておきたいと思うようになった。1985年に発行された、笠井潔のエッセイ集『象徴としてのフリーウエイ』(新時代社刊)である。笠井氏は反ポストモダン的思想家・評論家で、学生時代、彼の著作にかぶれていたわたしは、オンタイムでそれを読んだ。

 ユーミンの作品、『ひこうき雲』『ベルベット・イ

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(第9回) 有楽町で逢いましょう

(第9回) 有楽町で逢いましょう

 重低音が身体の芯まで響いてくる「ボディソニック」というオーディオシステムがあるが、フランク永井が歌った重低音は、昭和のこどもたちにとって、まさにボディソニック級の衝撃であった。

 『有楽町で逢いましょう』は昭和32年の歌である。高度経済成長期のお茶の間では、懐かしのメロディとしてよく流れていた。ああ、おとなになるって、こういう「ムーディーな」おじさんになるのだなと、その白い背広姿をぼーっと眺め

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