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私を息子の彼女かと思ったお母さん:切ない笑顔

ある人の笑顔を、今でも私はたまに思い出します。

その人は、私が中学3年生の時の同級生の男子のお母さんでした。


昔々、中学の卒業式終了後、帰宅してから私は気がつきました。
机の上に交換日記を置いていたことを。


スマホのない時代、交換日記がちょっぴり流行っていました。
私は幼い頃からめんどくさがり屋でしたので、「交換日記なんて絶対にしない!」と思っていました。
ところが思いがけない事から、ある男子と交換日記をする流れに……


家庭科の時間、6人の女子とかたまって刺繍をしていました。
突然、A子がみんなに聞きました。

「クラスの男子で誰が好き?」

当時私は、完全に色気よりも食い気でした。

実家の母が持たせてくれるお弁当は、「体育会系高校男子か!?」と笑われたほどの大きさでした。

(ここまで豪華ではありませんでしたが、量はこんなもんでした)


好きな男子を発表する順番は、私が最後の6番目でした。
特にいなければ無理に答える必要もないというのに、私は悩みました(笑)

私の前までの5人全員が「B夫くん!」と答えていました。確かにカッコよくて、面白い男子ではありました。

私もみんなに習って「B夫くん!」と答えようかとも思いましたが、それでは何だか面白くないので、とっさに「C夫くん!」と答えました。全く意味の分からないサービス精神です。


しかし、そこから思わぬ展開に!

ある日の放課後、私は部活がない日なので帰宅しようとしていると、A子がやってきました。

「新聞部の活動、人が足らないんで、今からたおたおも手伝ってくれる?」「OK!」


言われたままに別の教室へ行きましたが、誰もいません。
「あれ?おかしいなぁ~」と思っていると、しばらくして教室のドアが開きました。

そこには先日私が好きだと言ってしまったC夫くんの姿が!

その時、中3のおバカな脳みその私でもわかりました。「A子が仕掛けたな!」と……


「たおたおがC夫くんのこと、好きやって」とか、言ったんでしょうね。
超恥ずかしくて気まずくて、その場から走って逃げたかったです。
「本当は別に好きでも嫌いでもありません!」なんて唐突に言うのも変だし、もじもじしている私にC夫くんが言いました。

「交換日記せえへん?」

……そういった流れで約半年続いた交換日記。


ほとんどのページがC夫くんお得意の漫画で占められており、私はそれについての感想のみでした。


卒業式の翌日、私はC夫くんに電話をしました。

C夫くんが一生懸命描いた漫画だらけの交換日記を捨てることなどとてもできず、かといって、別々の高校に進学が決まってからも続けるのは嫌でした。


直接交換日記を返して、ハッキリとその事を言おうと決めて電話をしました。すると、突然電話口にC夫くんのお母さんが!

「たおたおちゃん、うちにいらっしゃいよ。」

お母さんにはお会いしたことがありません。できる事ならお会いしたくありません。しかし、ちょっぴりドスのきいた低い声で強引に言われ、15歳の私は交換日記を持ってC夫くんの家へ……

早くにご主人を亡くされて、女手一つでC夫くんを育てられたお母さん。
当時の年齢は、今の私よりもお若かったはずですが、しっかりとされた感じでした。

満面の笑みで私を迎えてくださいました。


私は家に上がる気は毛頭なく、出てきたC夫くんに交換日記を渡して簡単に終了の気持ちを伝えました。
C夫くんは、しばらく黙って下を向いた後、「わかった」と。


「上がってお茶でも飲んで。」
「いえ、ここで失礼します。」

再び玄関先に出てこられたお母さん、表情が寂しそうな感じに変わりました。息子のガールフレンド(?)が家に遊びに来たと思われて、お菓子でも用意されていたのかもしれません。

子どもの親になった今、痛いほどその時のお気持ちを察することができます。


C夫くんのお母さん、C夫くん、ごめんなさい!!

でも、半年も交換日記を続けたのですから、私はやっぱりC夫くんのことが少しは好きだったのだと、今思います。

あ~、どうでもいい話を読んでくださって、ありがとうございました。


たおたおってこういう者です。
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