初めて人を雇った

その人と出会ったのは、ついこの間のこと

思い出のマルセイユ・プロヴァンス空港に行き、そこで一週間ホームレスをした。

空港ホームレスはすでに私の趣味と化していた。

声をかけられ、見てみると、そこには、アジア系の青年がいた。

日本人の彼はイタリアで財布をすられて、前もって買ってあったチケットでマルセイユまで来て、ポケットに入れておいたなけなしのお金でここまでやってきて住み着いているらしい。

私はヨーロッパで同郷の人間に会うことを好まなかった。

日本人と関わりたいなら日本に行くし、ヨーロッパの人間と関わりたいならヨーロッパに行く。

彼にご飯を奢ったのは、彼が空港ホームレスという境遇に悲壮感を感じていないようで、そんな彼の人柄に好感を抱いたからだった。

彼のSNSやブログを見せてもらうと、稚拙な文章ながらも、旅行を楽しんでいる様子が感じられた。

私は、共同経営者と相談をして、彼を雇うことにした。

従業員が4人でその全員が社長を名乗る小さな会社だ。

売上も小さかったが、一応黒字経営はできていた。

私達は、自分たちの給料を削り、彼への給料を捻出した。

他の3人は300ユーロを削り、私は540ユーロを削った。

彼を雇うことで1番楽になるのは私だったから、削る給料の額も私が一番大きかった。

彼にはフォトグラファーとライターの仕事、書類整理やメール整理の仕事を与えた。

私は彼よりも120ユーロだけ多い、1560ユーロで月々を過ごさなければならなくなったが、代わりに1日の労働時間は半分になり、勤務報告をしなければならない日数は週4日から3日となった。

給料は3/4、労働時間は半分以下。

時給はむしろ上がっていたし、待遇としては悪くなかった。

毎日飲む酒の量を3分の2に減らしただけでこれなら、中々悪くなかった。

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