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大家族日記 「四十半ば、ぬいぐるみと蚊帳の中」


3話 忘年会

午前11時30分。
忘年会が始まり、久しぶりに顔を合わせての賑やかな時間を皆が楽しんだ。
お酒が深く入ってしまう前に、プレゼンをしなくては。

父と私はリビングの白い壁にプロジェクターを準備していた。
BGMの曲を、ポップなものからしっとりしたものに換えた。

長年の両家の思い出から始まり、孫娘たちも2回目の二十歳を迎えたほど大きくなったとのテロップが笑いを誘った。
そして、狭い我が家なりに、祖父母たちをお迎えする準備をしたいとの計画を父が話す。祖父母たちはそれぞれに嬉しそうな表情でいたが何も言葉はなかった。父方の祖母の目は潤んでいた。


父は続けた。
「僕たち家族の場合は…、
 上手くやり過ごす人生より、多少の衝突があっても、賑やかに毎日を生きていけたら良いな、きっと楽しいだろうし我が家らしいな、と思います。
 僕ももうすぐ69歳です。親父・お袋、お義父さん・お義母さんに、むしろ助けてもらうかもしれない。今更ながら、いろんな話を聞かせて欲しいんです」

父は三兄弟の長男で、幼少期から大勢の職人さんに囲まれて育った。
祖父母は大工を営んでいた。父も大工だった。

母は一人娘だが、呉服屋に生まれ、客商売の環境で育った。
代々受け継がれてきた呉服屋だったが、祖父母は母の結婚でも婿養子を取ろうとはしなかった。祖父の代で店を畳んだ。

両親ともに賑やかな環境で育ってきたため、大家族になることへの抵抗はなかった。
ただ、家業を残せなかったことへの申し訳なさはあった。時代の変化もある。昔のような需要はもうない。新しい時代を生きることと引き換えに、祖父母の代で店じまいを押し付けたようにも、自分の代で衰退させたようにも感じていた。
一言に、「親孝行をしたい」、その心が両親には溢れていた。

母の手料理の中には、
母方の祖母が子どもだった頃の母に、いつも学校行事の際作ってくれた「ちらし寿司」があった。
嫁いできて父方の祖母に教わった「煮込むだけ。どんだけ素敵なトンテキ」もあった。両家それぞれの「我が家の味」が、今はうちの「我が家の味」になっている。



「部屋はどうするんや、賢さん。部屋の数がそんなにないやろうに」
母方の祖父が父に尋ねた。

「ここから、もう一度、壁の映像の続きを見てください」
父は笑顔で答えた。

プレゼンの続き、次のステップだ。
現在の部屋を映し出し、すでに綺麗に荷物が整理されているのがわかる。
1階のこのリビングの間取りも、まずは書棚を使って仕切ろうと計画していた。
1階を祖父母たちの部屋にしようと考えていることも伝えられた。
しかし、ボソッと母方の祖父の声が聞こえた。呼応するように父方の祖父もボソッと言った。
祖父母たちには1階が良いかと思いきや、足腰が強く、階段の登り下りなんて朝飯前だとボソッと言っていたのだ。
私たち孫娘たちより健脚だった。私と美実子みみこは、お互いの白くて太めの足を指さして、クスッと笑った。利恵子だけは、なぜだかスラリと伸びた手足でスリムな体型だった。

映像の最後は、両親と孫娘たちが集まり、大きな模造紙に書かれた文字を読み上げていた。
「じい様ばあ様大歓迎‼︎
 人生は美しくて、しかも楽しい!一緒ならなお嬉しい‼︎」

見終わった祖父母たちの顔は優しい笑みを浮かべていた。
父が話す。
「今すぐの返事でも嬉しいけど、よく考えてくれて良いです。
 だけど、僕らは待ってます!」

美実子みみこが言う。
「お試し同居なんてのも良いやん。せっかく部屋片付けたもん」
美実子みみこの意見は、いつも素直で微笑ましい。

利恵子がお手製のスイーツを運んできた。ふわっふわのシフォンケーキの横に、生クリームと苺、ブルーベリーが添えられていた。粉砂糖をその場で優しく振りかけてくれた。その後も手際良く、コーヒーを持ってきてくれた。ホテルでの食事のようだった。
そのおかげもあって、柔らかい静けさから、会話が出るようになった。

「利恵子ちゃんはお菓子作りが好きなん?」
母方の祖母が聞く。

利恵子は、
「うん、好き。週末の度に作ってるよ。今日のシフォンケーキは柔らかいよ。噛まんでもいけるような柔らかさやけど、ちゃんと噛んで食べてや」

みんなで笑った。利恵子は続ける。
「おじいちゃんおばあちゃんたちが一緒に住んでくれたら、もっとレパートリーも増やせるなあ。和菓子も作ってみたいし」

「なんや、一緒に住まな食べさせてくれへんのかいな」
「ほんまやわぁ、おばあちゃんもしょっちゅう食べたいわぁ」
「こんなんが毎日食べられたら幸せやろなあ」
「おばあちゃん、出来立てをつまむの好きやねん」

祖父母たちが口々に言った。
和やかな雰囲気だ。

「デザートまで出たからと言って、これでお開きやないんですよ。
 お時間の許す限り、今日は飲んで食べて楽しんでくださいね」




〈写真・文 ©︎2022 大山鳥子〉


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