大家族日記 「四十半ば、ぬいぐるみと蚊帳の中」
4話 忘年会2
母のこの言葉を合図に、祖父たちは父とコタツに席を移した。
日本酒を冷やで飲んでいる。
しばらしくして美実子が、ホッケの開きとアジの味醂干しを焼いたものをコタツに運んだ。美実子はお酒は飲まないが、おつまみは大好物なのだ。コタツに一緒に入って食べている。
父方の祖母は、利恵子に他にどんなスイーツを作っているのか聞いていた。
私は着物が大好きなので、母方の祖母に今日の着物がとても素敵で似合っていると話していた。着付けも教わろうか。そして、スマホでこの忘年会を録画したいと思った私は、母方祖母から始まり、全体を撮っていった。その後、編集アプリを使って、簡単な忘年会動画を作成した。母方祖母は興味津々に見ている。「今度教えるからね。楽しいよ」と私は笑顔を向けた。母方祖母は少女のような目の輝きだった。
私は参加者全員のLINEのグループを作成し、早速送った。祖父母のスマホに、Wi-Fi接続も忘れないように。
♪ピコーン
♪ピロリロリン
♪ボヨヨヨーン
♪ライン〜
それぞれのスマホが賑やかに鳴る。
さっきまでの自分の動画がすぐさま見られて、祖父母たちは「わーわー」とはしゃいでいた。
ハズキルーペを眼鏡の上からかけてじっくり見ていたのは母方の祖父だ。
「じいちゃんにも作れるか?プロアマ問わずか?スマホには映写機が入っているのか?」
大正6年生まれの祖父には、何もかもが大変化の人生だ。さぞかし驚きの連続だろう。何せ、昭和52年生まれの私だって、ケータイ電話自体が高校生くらいになってから普及していくのを実感したのだから。
「作れるよ、教えてあげるからね」
私は答えた。
♪ピンポーン
今度は玄関のインターホンが鳴った。
モニターに映るのは宅急便のドライバーさんだった。
父が受け取りに出た。
父はリビングに戻るなり、祖父母たちに頭を下げてお礼を言った。
父が抱えてきた大きな発泡スチロールの箱には、海鮮セットが入っていた。
「みんなで食べたら美味しいと思って、優美ちゃんとこのお義父さん・お義母さんに相談したんよ。ほんで、お肉も良いけど、海鮮が良いなあていうことになって」
父方祖母が言った。
祖父母たちからのプレゼントだ。海鮮に目がない私たち三姉妹は、あっという間に父から発泡スチロールの箱を取り上げ、開梱し、お皿に盛り付け始めた。
いくらにホタテ、ぼたん海老、本ずわい蟹、サーモン、マグロ、うに、イカ、たこ、アワビ。夢のような海鮮の煌めきに、私たちはステップを踏むように軽やかにキッチンを動いた。
決して3人が動くような広いキッチンではない。
自分の言うのも何だが、見事な身のこなしによりアルゼンチンタンゴを見ているようだったに違いない。
時折、ぽっちゃりタイプの私と美実子の軽い接触はあるが、互いがクッションのように衝撃を吸収しポヨンと跳ね返し次の作業へ流れていった。
グルメな美実子は、ちょうど買っていた生わさびを、My冷蔵庫から取り出してきて鮫皮おろしで擦ってくれた。
利恵子は、軽い丼で食べたい人のために、炊き立てのご飯をと早炊きで仕掛けてくれた。五合、37分後の炊き上がり。日立さんに感謝。
食卓の上に広がっていたこれまで食べ終えたお皿を洗い場へ、残り物は小さくまとめ、海鮮に敬意を払う場に転じていった。食器洗いも三姉妹の連携プレーであっという間に終わった。
ほど良く食べ頃になった海鮮は、お刺身状態で美しく皿の上に盛られ、テーブルに配置された。祖父たちと父にはコタツの上に運ばれた。
海鮮への敬意と祖父母たちへの感謝を込めた「いただきます」との元気の良い声が、リビングに響く。
美味しいものを食べると笑顔になる。声も明るくなる。
みんなでご飯を一緒に食べる。幸せな時間の始まりだ。
〈写真・文 ©︎2022 大山鳥子〉
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