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牛になるのです 夏目漱石の手紙

(中略)

牛になる事はどうしても必要です。
吾々はとかく馬になりたがるが、牛には中々なりきれないです。

僕のような老猾(ろうかつ)なものでも、
只今(ただいま)牛と馬とつがって孕める事ある相の子位な程度のものです。
 
あせっては不可(いけ)ません。
頭を悪くしては不可(いけ)ません。
根気づくでお出でなさい。

世の中は根気の前に頭を下げる事を知っていますが、
火花の前には一瞬の記憶しか与えて呉れません。


うんうん死ぬ迄押すのです。
それ丈(だけ)です。

決して相手を拵(こし)らへてそれを押しちゃ不可ません。
相手はいくらでも後から後からと出てきます。
そうして我々を悩ませます。

牛は超然として押して行くのです。

何を押すかと聞くなら申します。

人間を押すのです。
文士を押すのではありません。

これは1916(大正5)年8月21日、数えで50歳の夏目漱石が当時、20代の芥川龍之介と久米正雄に送った手紙です。

35歳でこの世を去った芥川龍之介。

夏目漱石と芥川龍之介交流は僅かな一年ほど。
その短い間でも夏目漱石は、芥川龍之介になにかしらの危うさを感じていたのかもしれませんね…1 とか考えちゃったりもします。まぁ考えすぎでしょうね(笑)

夏目漱石に小説「鼻」を褒められ作家として生きる決意をした芥川龍之介。
漱石の亡くなった翌年に出版された『羅生門』に

「夏目清石先生の霊前に献ず」

と書いたほどに大きな影響を与え。
自殺直前に漱石の墓前に佇んでいたりした事から、漱石がもう少し存命していたら、芥川龍之介の自殺はなかったかもしれないですね。

なにはともあれ、生きていく中で色々な事がありますが、
自分の信念に従って焦らず、根気よく努力していきたいものですね。

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