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95年目の恩返し・前編『太陽の国』『月と星の国』

1890年(明治23年)9月16日、和歌山県串本沖紀伊大島の樫野埼東方海上で乗組員587名が死亡または行方不明、
生存者はわずか69名という、日本海運史上最大の海難事故が起きました。
沈没した船の名は「エルトゥールル号」。トルコから日本に派遣された軍艦でした。
多くの犠牲者を出した悲しい事件ですが、この事件をきっかけにトルコと日本の友好の絆が生まれたのでした。
今回は、このお話。

オスマントルコ帝国。

圧倒的な軍事力でアナトリア地方を中心に中東からアジア、ヨーロッパ、北アフリカにまでまたがる広大な領土を有していたイスラム最大の帝国は、18世紀以降、ロシアとの戦いに連戦連敗。

また、帝国内の諸民族の独立運動の前になす術もなく、領土を失っていきヨーロッパ諸国から

「瀕死の病人」

と言われていました。

この厳しい時期に皇帝として即位したアブデュルミト二世は、1887年(明治20年)に小松宮親王夫婦のトルコ訪問の返礼と国内外に自身がオスマン朝カリフ(イスラム教国の宗教・政治の最高指導者の称号)の正統性と権威をアピールするために、エルトゥールル号の日本派遣を決めたのでした。

1889年(明治22年)7月にイスタンブールを出向した使節団は様々なトラブルにあいながらも寄港する先々でイスラーム信徒から歓迎を受け、11ヶ月かけて日本に到着。

皇帝親書を明治天皇に奉呈し、オスマン帝国最初の親善訪日使節団として歓迎を受けました。

しかし、このエルトゥールル号、木造の老朽船で日本に到着したころには、既に限界に達していました。

日本当局から、修理してから帰国するよう薦められましたが、資金不足やスケジュールが予定より大幅に遅れたこと、
また本国から帰還命令が出ていたので、台風シーズンだったにもかかわらず出発を強行しました。

そして9月16日、悲劇が起こったのです。

夕方から荒れ始めた海は夜には暴風雨も伴い荒れ狂い、メインマストは折れ、舵も壊れ、なす術がなくなったエルトゥールル号は夜半、大島の浅瀬の間にある「船甲羅」と呼ばれ恐れられた難所へ突進。
岩礁に激突し、大爆発と共に真っ二つになり砕け散ったのでした。
艦の両脇に8隻の救命ボートがありましたが、卸す暇もありませんでした。

この時、助かったトルコ人の救助手当てをしたのが樫野地区、そして大島の住民達です。

この大島は、決して裕福な島ではありません。
その上、この年の食料事情も決して良くない状況にもかかわらず、 村民達は非常時のために蓄えていた甘蔗や育てていた鶏も トルコの人達のために迷うことなく提供したのでした。

また裸同然だった彼等に家にある衣料も持ち寄り着せてあげ、懸命に救護しました。

翌日、この事件のことは県を通じて政府に知らされ、21日には更なる治療を受けるため69名の生存者は神戸に移送されました。
また、この事件を知った明治天皇は彼らのために侍医を派遣し、 皇后陛下も看護婦13名を神戸に遣わされ、彼らに白衣を賜りました。

生存者達を送り出した大島ですが、まだまだ大島の人達にはやることがありました。

それは、遭難したトルコ人達の遺体の捜索、引き上げ・埋葬・遺留品、漂着物の回収でした。

遺体捜査、回収の記録では10月6日までですが、その後しばらくあったようで、 収容された遺体は最終的に230人になり、翌年の1891年(明治24年)には遭難海域を眼下に見下ろす所に遺体が共同埋葬。
地元有志により「土国軍艦遭難之碑」が建立されました。

一方、神戸に移送された生存者達は無事に回復し、同年10月5日、日本海軍の「比叡」「金剛」の2隻の軍艦に乗り、翌明治24年1月2日、無事にイスタンブールに送り届けられました。
また、この事件が知らされると、日本中から政府を通じて多くの義捐金・弔慰金が寄せられたり、大施餓鬼が行なわれたりしました。

その中には、事件を知り義損金を自ら集めてトルコに行き、そのままトルコに留まり日本とトルコの友好に力を尽くした山田寅次朗という人物も現れました。

この事件をきっかけに、トルコの国の人々の心に、日本という国が強く刻み込まれ、エルトゥールル号事件のことは教科書にも載り、トルコの人で、この事件を知らない人はいません。
一方、日本でも国民的関心事であったエルトゥールル号事件でしたが、一部の地域の人達をのぞき、次第に忘れ去られてしまいました。

しかし、トルコの人達はこの事件のことを決して忘れませんでした。

そして、95年後……

トルコの人達が、この時の恩を返す時が訪れたのでした。

後編へ続きます。

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