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鮭おにぎりと海 #31

<前回のストーリー>

やけに乗り心地の良いバスに俺は乗っていた。深く沈む座席、それほど揺れないバスの車内。これまで、バスとはとてもじゃないが長時間乗るモノでないという固定概念があったのだが、割と居心地がよかった。

きづけばもう11月になっていた。つい一ヶ月前まではカナダのビクトリアという場所にいた。そこで2か月ほど滞在し、2人の得難い親友を得た。その友はブラジルからの留学生だった。非常に別れがたかったが、もうすでに次の行程も決まっていたのでなくなくビクトリアを離れた。

そのあと、俺はカナダを横断した。一応鉄道も通っていたが乗車するには結構な値段が必要で、そのあとのことを考えるとすこしでも節約しなければならないと考え、バスで移動することにした。カナディアンロッキー、三大瀑布の一つであるナイアガラの滝、トロント、モントリオール。

カナダにも季節自体は存在するのだが、そんなもの関係ないくらい夏でも寒い。10月にカナダを横断したのだが、もう完全に冬の装いである。これがまだ秋の季節だというから驚きである。カナディアンロッキーの湖はすでに凍っていたし、ナイアガラの滝からほとばしる冷気はその時点ですでに尋常ではない冷たさだった。

こんなに寒いと人肌恋しくなってくる。行く先々で、俺が日本人だと見るやいなや神田にいる現地の人たちは気さくに話しかけてくる。その頃には、最初苦労した甲斐あってか最初カナダの地を訪れた時よりかはだいぶ人とコミュニケーションができるようになっていた。それでも生まれ故郷が恋しくなってくる。

そういえば、カナダに来てから1ヶ月くらい経ってから一度だけ、表んなことから仲良くなった戸田青年に連絡をした。その頃にはだいぶ打ち解けるようになったブラジル人のサリーとツーショットで。その時の戸田青年の返信は、なんともそっけないもので、ちょっと拍子抜けした。

カナダのビクトリア滞在中では数々の失敗をした。そのことを教訓とし、同じ轍は二度と踏まないという精神で、今の俺は旅をしている。カナダは確かにビクトリアもよかったが、モントリオールも素晴らしかった。何より街の雰囲気がどこかクラシックで、洗練されていてその様子は歩くだけで心が躍った。そしてモントリオール名物であるプティンというポテトフライにチーズをたっぷりかけたような食べ物も、俺の胃袋を満たしてくれた。

夜はユースホステルに泊まる。そうすると、自然と同じようにほかの国からきたやつらと話をする。そのまま仲良くなると彼らと一緒にパブへ飲みに行くことさえある。以前にもまして財布の紐は固くなったつもりでいたのだが、新しく仲良くなったやつがいるとついつい緩んでしまい、次の日になって自分をまた戒める羽目になったのだった。

そして俺は、相変わらず何故かSake、Sakeと呼ばれるのだった。

酔っぱらった次の日、俺はどうしても自分がなぜこんなにも意志が弱いのかとそのたびに自分を責めることになる。ぼんやりとアルコールによってマヒした頭で自分を律するためにどうすればよいか考えた末、なぜかいつも教会に行くという結論に至るのである。

別にどうという話ではない。俺は決して敬虔なクリスチャンでも、神様の存在を信じているわけでもない。だからと言って、全くその存在を否定するわけでもない。とりあえず自分を戒めたいときには、近くにある教会に行った。

それは時には、それほど人が入ることのできない小さな教会であったこともあるし、その逆で立派なゴシック様式のステンドガラスがたくさんはめ込まれた教会だったこともあった。当たり前だがどのような形の教会にも、入った瞬間にイエス様が十字架にはりつけにされていて訪れる人たちは熱心に頭を垂れて何かを必死に祈っているのだった。

その姿をみて、俺はだんだんと自分の体からすっとアルコールが抜けていく感覚を感じることになるのだった。

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